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エンタメ

河瀬直美の「総理大臣になったらしたいこと」 イラン巨匠監督と語る

「総理大臣になったらしたいことは?」。河瀬直美監督が、来日したイラン出身のモフセン・マフマルバフ監督と映画「独裁者と小さな孫」について語り合いました。

提供:シンカ

モフセン・マフマルバフ監督(左)と河瀬直美監督
モフセン・マフマルバフ監督(左)と河瀬直美監督

目次

国際映画祭で数々の賞を受賞したイラン出身のモフセン・マフマルバフ監督が来日し、同じく世界的に活躍している河瀬直美監督とのトークショーを20日に行いました。マフマルバフ監督の最新作『独裁者と小さな孫』(12月12日より公開)の試写会イベントとして都内で開催されたもので、両監督が実際に対談するのは初めて。お互いをリスペクトする2人が、映画への思いをぶつけ合いました。

どこの国でも起こりうる物語

 『独裁者と小さな孫』は、クーデターによって失脚した独裁者と幼い孫の逃避行を描いたロードムービーです。自らの圧政で苦しんできた人々に追われ、その罪を思い知る老いた大統領と、むごい現実をイノセントな瞳で直視する5歳の孫息子。素性を隠しながら安全な地を目指す2人を待ち受ける運命とは――。作品は2014年のシカゴ国際映画祭の最優秀作品賞や、東京フィルメックスの観客賞などを受賞しています。

『カンダハール』『パンと植木鉢』などで知られるマフマルバフ監督は、世界的にも高い評価を受ける名匠です。今回の作品は、アフガニスタンにいた9年前に構想が浮かび、脚本を書き直しているさなかに「アラブの春」が起こりました。そこで、どこの国でも起こりうる物語として、架空の国が舞台となったそうです。

独裁者が歩いた先に見るものは

 河瀬監督は「作品へのパッションは、本当に尊敬すべきだなって」と作品を絶賛しました。映画を見て、「総理大臣になったら何をしたい?」という質問を以前に受けたことを思い出したとのこと。「私は、日本の端から端まで歩いて回ります。東京にずっといたら、この国のほとんどを見ることができない」と話し、かつて支配した国を旅する老独裁者に思いをはせます。

 「歩いて行った先に、何を見るのか。自分が真実や正義だと思っていた、それ以外のものが見えるかもしれない。誰かにとっては正義ではないということもある。見ないということが罪であって、深く知るということが大切だと思いました」(河瀬監督)

河瀬直美監督
河瀬直美監督

 マフマルバフ監督は「ロシアや香港など、いろんな国で『これは私たちの人生だ』『私たちの物語だ』という感想を聞きました。日本の皆さんも自分の生活をこの映画の中で見つけるのでは」と、物語の普遍性について述べました。

  「大統領と一緒に歩く孫の存在は、いろんな意味を持っています。祖父の子ども時代はこうだったかもしれないし、この子が大きくなったらああなるかもしれない。この子は何度も祖父に質問を投げかけるのですが、それは映画をご覧になる皆さんも向き合う疑問なのかもしれません」(マフマルバフ監督)

モフセン・マフマルバフ監督
モフセン・マフマルバフ監督

映画が世の中を変えるという希望

 マフマルバフ監督は、母国のイランで作品の上映を禁じられて、亡命してからは家族とともに映画を撮り続け、10カ国で撮影を行ってきました。河瀬監督は、生まれ育った奈良に残り、子育てをしながら創作活動を行っていて、最近は農作物作りにも取り組んでいるそうです。

 環境は全く違っていても、映画という表現の持つ力について思いを共有する2人の監督。作品を世界に向けて発信することの意義を強く訴えました。

「自分は“地球人”だと思っています。これまで70カ国以上に行きました。人々はみんな、言葉が違うだけで、同じように悲しみ、恋に落ち、おなかをすかせます。ですから私も、人々のために、意味がある映画を作らないといけない。映画は私にとって道具なのです。その道具を使って文化を少し変えることで、世の中も変えられるのではないかと思うのです」(マフマルバフ監督)

「国境を越えた作家たちが、地球を育むように、武器ではなく映像や写真や音楽といった表現でつながり合えたら、戦争のない世界になるのかな」(河瀬監督)

日本映画の巨匠はアジアの誇り

6度目の来日となるマフマルバフ監督は「日本のことは大好きなんです」と言います。その理由は主に2つあって、1つは「日本の人たちは誠実で、信用できる」ということ。もう1つは日本映画で、「アジアの映画を世界に紹介したのは、日本の監督たちなんです。彼らは私たちの誇りであり、いろんな国の映画が影響を受けています」と、黒澤明、小津安二郎、溝口健二ら巨匠の名前を挙げました。

ただ今回は、少し残念に感じたことがあったそうです。安保法案で揺れた国会の情勢について触れて、「70年間平和を守っている日本は、正義やアートやテクノロジーを世界に発信していけばいいのでは」とコメント。自身が緊迫する地域を訪れた経験から「(安全のために)子どもたちを海外に出すような国に日本がならないよう、心からお祈りしています」と感慨深げに語りました。

モフセン・マフマルバフ監督
モフセン・マフマルバフ監督

ラストに込められたメッセージ

トークショーでは、両監督も会場も「映画は国境を越える」ということに、大きな意味を感じていました。ところで、『独裁者と小さな孫』の2人は、無事に国境を越えることができたのでしょうか? ポスターに「衝撃の結末」と銘打っているように、ラストまで息をつかせない展開が待っています。河瀬監督はこう語ります。

「映画の最後に込められたメッセージ。自分自身がどちらの立場に立って今の時代を生きているのかということを考えていただいて、その思いを大切な誰かと共有してもらえたら」(河瀬監督)

河瀬直美監督
河瀬直美監督

「独裁者と小さな孫」
12月12日(土)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町 他全国公開
配給:シンカ

『カンダハール』の巨匠モフセン・マフマルバフ最高傑作
出演:ミシャ・ゴミアシュウィリ、ダチ・オルウェラシュウィリ
監督:モフセン・マフマルバフ、脚本:モフセン・マフマルバフ、マルズィエ・メシュキニ
2014年/ジョージア=フランス=イギリス=ドイツ/ジョージア語/カラー/ビスタ/デジタル/119分
配給:シンカ 提供:シンカ 朝日新聞社 NHKエンタープライズ 宣伝:オデュッセイア・ブラウニー 後援:ジョージア大使館 dokusaisha.jp

世界が心を震わせたマフマルバフ最高傑作、衝撃の結末と感動の誕生!『独裁者と小さな孫』公式サイト。ヴェネツィア映画祭オープニング作品。

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