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「駅から人がいなくなる」コロナ禍の強烈体験が生んだバーチャル駅

バーチャル大阪駅でのライブ配信のイメージ
バーチャル大阪駅でのライブ配信のイメージ 出典: JR西日本

目次

「バーチャル大阪駅」という〝駅〟をご存じでしょうか。JR西日本がスマートフォン向けメタバース空間で開業しているSNS型バーチャル・ステーションのことです。このバーチャル上の駅が、累計来場者数4700万人を突破するほどの人気を集めています。この駅に行くと、何ができるのでしょうか。

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コミケにJR西日本

この夏、JR西日本がコミックマーケット(コミケ)に出展しました。バーチャル・ステーションの楽しさを現実世界で味わってもらおうという試みです。

「コミケに駅が登場!?」をコンセプトに、リアルの駅を連想するブースを設置。訪れた人たちは、「みどりの券売機」風の端末でバーチャル大阪駅の操作を体験したり、実際の制服を着用して写真を撮ったりして、バーチャル・ステーションを楽しみました。

バーチャル大阪駅を体験する人たち
バーチャル大阪駅を体験する人たち 出典: JR西日本

バーチャル大阪駅は、REALITYというライブ配信アプリから、いつでも入場できます。そのアプリと連動した乗車券型オリジナルキーホルダーも人気を集めました。2日間で約1万人が来場したそうです。

ライブ配信や鬼ごっこも

バーチャル・ステーションは、スマートフォン向けメタバース(仮想空間)にある「駅」です。バーチャル大阪駅は2022年に開業してからアップグレードを繰り返していて、現在は「バーチャル大阪駅 4.u(フォーユー)」になっています。また、バーチャル広島駅が2025年に開業しました。

バーチャル・ステーションとは、そもそも何をするところなのでしょうか。

リアルの大阪駅や広島駅を再現したバーチャル空間で、構内を探索することができるのはもちろん、様々な体験ができます。

バーチャル大阪駅の改札口
バーチャル大阪駅の改札口 出典: JR西日本

例えば、ライブ配信です。駅の中に配信ブースがあり、自分好みのアバター(自分の分身となるキャラクター)を使って顔出しをせずにライブ配信ができます。

リアルの駅と連動した催しも開催されています。企業とコラボして、バーチャル・ステーションの売店で商品を展示し、CM動画を募集。優秀作品をリアルの駅で放映したこともあります。

バーチャル広島駅では、今春開業した駅ビル(ミナモア)の体験もできます。路面電車が乗り入れる「中央アトリウム」や、ユーザー同士でゲームが楽しめる「ミナモアフロア」を再現。鬼ごっこをしながら駅ビルの飲食店やショップのあるエリアの雰囲気を味わえます。

誕生のきっかけは新型コロナ

この駅は、どのようなきっかけで誕生したのでしょうか。

バーチャル大阪駅の駅長であるJR西日本ビジネスデザイン部の八重樫卓真さんによると、きっかけは新型コロナウイルスだったそうです。「バーチャル・ステーションは、新型コロナ禍において、駅から人がいなくなるという強烈な経験から誕生しました」

民営化以降、JR西日本は鉄道会社固有のアセット(経営資源)である駅に様々な付加価値を加えることでその価値を高め続けてきました。しかし、新型コロナの影響で価値観が一変したといいます。

「新型コロナ禍における外出規制は一瞬にしてその価値を無にし、当社は駅の価値を再定義する必要性に迫られました。磨き上げてきた駅の価値を探る中で、当社は駅が持つ多様な社会性や機能性について、その独自性と有用性に気付きを得ました」

バーチャル大阪駅のイメージ
バーチャル大阪駅のイメージ 出典: JR西日本

リアルの駅は、鉄道に乗り降りするだけでなく、その街の玄関口としての機能や、人々の交流の場、イベントを開く場所など様々な顔を持っています。コロナ禍で駅からいなくなった人たちが戻ってくるかどうかも分からない中、そうした駅の価値を生かす場として選ばれたのが、バーチャル空間でした。

「最初は確たる勝算も無く、仮説の仮説のような状態からスタートしましたが、数度の試行を通じて各ステークホルダーのバーチャルの活用法を観察し続けていく中で、それらが当社アセットの何に期待し、何を求めているのかが徐々に見いだせるようになっていきました」

リアルとバーチャルの融合に強み

JR西日本のバーチャル・ステーションの強みは、リアルとバーチャル双方の「駅」の特徴を柔軟に生かした施策展開です。

「公共性の高さ故に一般的に『敷居が高い』と言われる当社のリアルアセットをかなり柔軟に活用いただける仕掛けが多く仕込まれていることから、多くのお客様に意外感を持って受け止められていると考えています」

中でも、今秋に行われた「パインアメ」を製造するパイン株式会社(大阪市)とのコラボレーションは、大きな反響を呼びました。

日ごろバーチャル上で配信活動をされているユーザーに対して、お題としてパインアメのプロモーション動画投稿を投げ掛け、優秀な作品をリアルの大阪駅の大型ビジョンでプロモーション作品として放映するという企画でした。

バーチャル大阪駅の売店
バーチャル大阪駅の売店 出典: JR西日本

八重樫さんは「めったに得られないリアルの大阪駅での活躍機会を得られるというインセンティブが話題を呼び、大変多くのご応募をいただきました。放映当日には、実際に応募者が遠隔地から視聴にお越しになられるシーンも見られたほか、通常と違うテイストのプロモーション動画が放映されたこともあって、駅構内を行き交う多くの乗降客からも注目を集めました」と振り返ります。

「リアルの方が実用的なこと、バーチャルの方が実用的なこと、手掛ける事柄によってその答えは様々ですので、そのいずれもがフレキシブルに使える環境を確保できていることは、結果として当社の強みになっていると考えています」

鉄道会社が手がけることの「価値」

鉄道会社がバーチャルステーションを持つことに、どのような意義があるのでしょうか。

八重樫さんは、バーチャルならではの「自由度」に価値を見いだしています。

「一般的に鉄道会社はアセットリッチと言われますが、公共性の高さや安全上の理由などにより、実際のその活用自由度は必ずしも高くありません。しかしながら、バーチャル空間であれば、そうした制約にとらわれることはありませんので、これまで実現困難と思われていた様々な施策展開が可能になります。高いポテンシャルを持ちながらも活用自由度の低さに課題感を持っていた鉄道会社だからこそ、バーチャルを手掛ける意義は大きいものと考えています」

今後も、工夫を重ねてリアルとバーチャル両方の成長を目指していくそうです。

「バーチャルという技術を通じて、ユーザーとのインタラクティブ(双方向)な関係性を構築することが可能となり、『ユーザーとの共創による価値創出』に今後の可能性を見いだしつつあります。インフラ企業としての当社とユーザーお一人お一人の力を結集した共創力を生かし、広く社会課題にも応える共創プラットフォームとして、今後さらに発展させていきたいと考えています」

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