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雨の日に助けた猫の〝恩返し〟?「てのり猫」を作り続ける作家の思い
不思議な縁がありました
作家活動ができているのは、愛猫のおかげーー。SNSのフォロワー約10万人の羊毛フェルト作家・MEBARUさんは、年老いていく愛猫の姿を残しておきたいと活動を始めました。不思議な縁で一緒に暮らすことになった愛猫。活動を始めて間もなく旅立ちましたが、MEBARUさんはいまでも愛猫の姿を浮かべながら作品作りをしています。
神奈川県に住む羊毛フェルト作家のMEBARUさん(@mebaru_felt_cat)は、2017年から手のひらサイズの作品「てのり猫」を手作りしています。大きさは4~6センチほど。制作には1匹あたり40~50時間かかります。
まるで本物のようなシルエットやアンニュイな表情が人気を呼び、2月には初の著書『羊毛フェルトで作る てのり猫』(日本ヴォーグ社)を発売しました。
「羊毛フェルトで生活ができているのは、『めばる』のおかげです。家族とも『めばるの恩返しじゃない?』と話しています」
会社員だったMEBARUさんが活動を始めたきっかけは、作家名と同じ名前の愛猫「めばる」の存在でした。
めばると出会ったのは1995年。ある日の仕事帰り、最寄り駅から自宅へ向かって歩いていると、歩道沿いの木の上で大きな声で鳴いている猫が目に入りました。
こげ茶のしま模様のある「キジシロ」で、首輪は付けていません。
「助けなきゃ」
以前も飼い猫が木から降りられなくなった様子を見ていたMEBARUさん。「独特な鳴き方」から、遊んでいるのではなく降りられなくなったのだと感じたそうです。
近くの商店からダンボールをもらい、近づけて「降りてきていいよ」と待ちました。
さらに、通りかかった男性が木に登って助けようとしてくれたところ、猫は飛び降りて走り去ったといいます。
MEBARUさんは、怖がらせてしまったかもと心配になった一方で、「降りられてよかった」と胸をなで下ろしたそうです。
翌日は大雨でした。
自宅にいたMEBARUさん。「猫が鳴いてない?」と家族が気づいて外を見ると、窓のそばに1匹の猫が座っていました。柄や雰囲気から一目で「昨日の猫」だと分かりました。
あの木から自宅までは2kmほどあります。「私の家とは逆方向に走り去っていったのに……」。縁を感じずにはいられませんでした。
すぐに雨や汚れを拭いて動物病院に連れていきました。ぬれていたため小さく見えましたが、生まれて3、4年ほどのオスの猫であることが分かったそうです。
「めばる」と名付け、家で飼うことにしました。
家では何匹も猫を飼っていましたが、めばるは「手がかかる猫」。壁や柱で爪を研いでしまい、ぼろぼろだったそうです。
めばるには優しい一面もありました。MEBARUさんの子どもが泣くとどこからでも走って駆けつけてくれたり、ほかの猫同士でけんかしていると割って入って止めてくれたりーー。
22年間一緒に暮らしためばるは、2017年に旅立ちました。
最後の1年は「よぼよぼのおじいちゃん」となっていて、MEBARUさんは愛猫の姿を残しておきたいと感じていたといいます。
同じ頃、たまたま本屋さんで羊毛フェルトの存在を知り、「これなら本物の猫に近いものが作れそうだなとワクワクしました」といいます。
最初に作ったのは白黒の猫。技術が追いつかず模様を入れることはできませんでしたが、めばるの面影はありました。
以来、制作した猫は400匹を超えます。しかし、「めばるそのもの」は作っていないそうです。
「めばるを思いながら、めばるっぽい猫はたくさん作っていますが、私は小さいめばるがほしいわけではなくて、めばるはどんなだったかなと思いながら作品を作る時間が好きなのかもしれません」
「爪研ぎをしたり、周りの猫の面倒をみていたりするめばるの姿も残したい」と、イラストでも発信するようになりました。今後はイラストをまとめた本の出版をめざし、活動を続けていくといいます。
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