ひさしぶりに会った人に「太った?」と聞かれる――「人の見た目に言及すること自体が失礼」という意識を持つ人がいる一方で、こうした経験をすることも未だにあるのではないでしょうか。誰かに「太っている」などと恥ずかしく思わせるような「ファットシェイミング」の問題点について、科学的な視点からも考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
先日、プライベートの場で1カ月ぶりくらいに会った知人に、顔を合わせるなり「太った?」と聞かれました。たしかに最近は忙しく、ちょっと体重が増えているかもしれません。とはいえ1カ月なので、そこまで大きな変化は生じていないはず。目ざといなと思うと同時に、「こういうことはまだあるのだな」と感じました。
メディアの仕事をしていると、普段から口に出す言葉にも注意するようになります。情報発信に携わる立場としては、「人の見た目に言及すること自体が失礼」という意識を常に持っていないと、誰かを傷つけかねないからです。それ以前の問題として、他人の容姿を勝手にジャッジすることへの違和感もあります。
もちろんその人は私の体調を心配し、善意で発言したのかもしれません。一方で、相手に「太っている」などと指摘して恥ずかしく思わせるような行為=「ファットシェイミング」は、世界的な問題になっています。恥ずかしさは憂うつな気分や不安、過食、その逆の拒食などの行為のきっかけになるおそれがあるからです。
さらには、社会に太っている人へのスティグマ(差別や偏見)をもたらします。こうした理由で、誰かに「太った?」と聞くといった行為は、社会的にも控えた方がいいと言えるでしょう。そして、科学的にもNGな行為であることがわかってきています。
その一つの例が、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームが2014年に発表した、ファットシェイミングのような「体重差別が体重やウエスト周囲径の変化に与える影響」の調査結果(※1)です。この調査では、英国高齢化縦断研究に参加した50 歳以上の男女2944人が対象になりました。
この調査では「体重差別は人々に減量を促すどころか、体重増加と肥満の発症を助長していることを示しています」と結論づけられました。研究チームは「偏見や非難を減量のアドバイスから排除することが、体重管理を促進するためのより良い方法かもしれない」とコメントしています。
※1. Perceived weight discrimination and changes in weight, waist circumference, and weight status - Obesity (Silver Spring). 2014 Dec; 22(12): 2485–2488.
また、2022年に発表されたアメリカの調査(※2)では、親(n=1936)と思春期の若者(n=2032)の二群を包括的に調査し、親の体重コミュニケーションの経験と見解に関するアンケートを実施しました。
その結果、多くの親が子供の体重について言及し、それが思春期の若者の健康状態に悪影響を及ぼすことが示唆されました。親の大多数は、体の多様性とそれを尊重することについて肯定的なメッセージを伝えていましたが、思春期の若者のうち63%が父親から、44%が母親から、自分の体重について話されたくないと答えました。
※2. A Comprehensive Examination of the Nature, Frequency, and Context of Parental Weight Communication: Perspectives of Parents and Adolescents - Nutrients. 2022 Apr 8;14(8):1562. doi: 10.3390/nu14081562.
このように、誰かを減量させるわけではなく、かえって肥満を助長する恐れすらあり、さらに、そもそも話されたくないと思っている人も多い、体重や体型について言及すること。何の気なしにでも「太った?」と口に出してしまわないように、注意するのがよさそうです。