ネットの話題
まるで中吊り広告、映画ポスター…実は「議会広報チラシ」その効果は
家電量販店のチラシや電車の中吊り広告などのパロディーを盛り込んだデザインが話題になっている議会広報があります。「注目度の面もテクニックの面でもお見事」「情報発信の限界を突っ走っている」。北海道鷹栖町議会が作った議会広報はSNSで話題になり、新聞などのメディアにも取り上げられました。取り組みの狙いと、その後の議会の様子を取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
「ヨサン対ギカイ」「凄絶!新年度予算を巡る一大攻防戦」――。
まるで昭和の怪獣映画のポスターのようなデザインのチラシ。
カラー映画がまだ珍しかった時代に使われた「総天然色」という宣伝文句が踊り、細部へのこだわりを感じます。
別のチラシを見ると、「年に一度の総ざらい」と銘打たれた家電量販店の広告のようなデザインが目を引きます。
内訳を見ると「新型コロナワクチン接種体制確保事業 6899万円」「野菜団地の整備497万円」といった項目が目に入り、1年間の町の支出を並べたものであることが分かります。
これらのチラシは北海道の鷹栖町議会が広報用に作ったものです。
「楽しそうに見えるかもしれませんが、始まりは『このままではいけない』という危機感からでした」
この取り組みを始めた4期目の片山兵衛町議(45)が、広報チラシ誕生の経緯を話してくれました。
町議会が今のような広報チラシを作り始めたのは2019年。この年は改選の年でもありました。
結果は2011年以来、3期連続の無投票。
全国的に地方議会の議員のなり手不足が問題になっていますが、鷹栖町も同じ問題を抱えていました。
「これはさすがにまずい」と危機感を持った片山さんは、町民に議会への興味を持ってもらう事から始めようと考えます。
「ただ報告事項を並べるだけの広報ではだめだ。まずは手に取ってもらえるようなものにしなくては」
最初に参考にしたのは、新聞や電車の中吊りでよく目にする週刊誌の広告でした。
「定番になっている広告には、人に見てもらうための技術が蓄積されている。これを真似しない手はないと思いました」
片山さんが中心になって製作したチラシは好評で、その後、映画のポスター風や量販店のチラシ風など、バリエーションも増えていきます。
効果は絶大で「チラシ面白かったよ」「今まで興味なかったけど、今度の議会は傍聴に行ってみるよ」と町民から声をかけられることも増えました。
数人しかいなかった傍聴者も、今では40ある傍聴席が埋まることも珍しくないそうです。
2023年4月にあった町議会選挙では無投票を回避し、16年ぶりの選挙戦となりました。
片山さんは「私たち議員サイドにも変化がありました。どうやったら有権者に伝わるか、政治や行政に興味をもってもらえるかを強く意識するようになりました」と語ります。
おおむね好評な広報チラシですが、なかには「ちょっとふざけすぎている」と苦言を呈す人もいるそうです。
片山さんは「それでも構いません。まずは注目してもらうきっかけを作るために始めたことだったので」と話します。
たとえ批判されることがあっても、まずは町民と議会の距離を縮めたい。そんな思いがあったと言います。
鷹栖町議会の取り組みを参考にしようと、他の自治体からの問い合わせも多く寄せられました。
「地方自治への関心の低下や議員のなり手不足は全国的な問題です。状況を改善しようという動きが増えるのは良いことだと思います」と話します。
この活動は報道にも取り上げられ、「新作」のチラシが出るたびにSNSでも注目されるようになりましたが、片山さんは現状を冷静に分析しています。
「広報のインパクトで得られる反応は一時的なものでしょう。これはあくまで入り口なんです。継続的に議会に目を向けてもらうための活動を今後も続けたいと思っています」
※この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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