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変化続ける〝サトウの切り餅〟 「ほぼ完成形」から飽くなき商品開発
ニーズに合わせ「時短と食べやすさを追求した新商品」
お正月といえば、お餅。スーパーの売り場をのぞくと、毎年見かける「サトウの切り餅」が。しかしよく見ると、細長いものや正方形のお餅が売っています。一体なぜ? 変化しているお餅事情を聞きました。
サトウの切り餅を販売しているのは、新潟市に本社を置くサトウ食品です。2020年に創業70周年を迎えた同社では、サトウの切り餅はパックごはん「サトウのごはん」と並ぶ主力商品です。
サトウ食品が正月用の「のし餅」の製造を開始したのは、東京タワーが完成したのと同じ65年前の1958年。その後試行錯誤を経て、1973年に「サトウの切り餅」を発売し、通年商品としてヒットしました。
「餅は菌との戦いです」と話すのは、同社の広報担当者。包装技術の改良を重ね、2年の長期保存を可能とした「ながモチフィルム」がすべての餅商品に採用されたのは2016年のことです。創業70周年の記念誌として発行された「米加工ひとすじ~これからも、もっとおいしく~」をめくると、「ながモチフィルム」の導入で「ほぼ完成形を迎えた」とする相談役会長・佐藤功さんの言葉が綴られています。
とはいえ、「お客様ニーズの変化に合わせて」新商品の開発は随時行われています。
特に、近年の商品開発の鍵となっているのは「食べやすさ」です。
同社の餅需要は、お正月前に多くの家庭が購入するため、12月に偏ります。広報担当者はその需要時期のいびつさを「8月1カ月間の売り上げは、12月の1日分に匹敵する」と言います。
12月やお正月以外にも、様々なシーンで餅を食べてほしいという思いから、同社では「食べやすさ」や「調理性」を商品開発時のポイントとしているそう。
その一つが、2013年に発売された「サトウの切り餅いっぽん」です。
通常の切り餅とは違い、細長いスティックタイプにすることで「かみやすく飲み込みやすい」「手早く焼き上がり調理時間が短い」という特徴があります。
近年ではボリュームを抑えた商品も。今年9月に発売された「サトウの切り餅シングルパックミニ300g」は、従来の餅が一つあたり50グラムなのに対し、半分以下の20グラムで、形は正方形です。記者が売り場で「これまでと違うタイプのお餅がある」と気づいたのはこの商品でした。
「時短と食べやすさを追求した新商品」とする一方「ただ餅を小さくすればいいというものではなくて、『もっちり感」も感じられて、より使いやすい形にしました」と担当者。
売り上げの実績がみえてくるのはこれからですが、担当者は「想定よりも伸びているので、いつかは主流になるかもしれません」。
新商品が「食べやすさ」を追求していると聞くと、主に高齢者を中心とした餅をのどに詰まらせてしまう事故への対策なのかと連想してしまいます。
2020年末には消費者庁も「小さく切り、少量ずつ食べましょう」と呼びかけを行っています。
広報担当者によると、小ぶりにしたり、形状を変えるお餅の新商品開発の主な目的は事故防止ではないといいます。
「サイズが小さいことで窒息防止の一助にはなると思いますが、餅は伸びるという前提の伝統食品です。事故を防ぐ食べ方の『啓蒙』が大事だと思います。一緒に水やお茶を用意していただき、よくかんで食べていただきたいです」と呼びかけます。
総務省の家計調査によると、餅の一世帯当たりの年間購入数量は減少傾向にあります。2008年には2711グラムだったのが、昨年は2242グラムに。一人あたりの購入数量も、866グラムから770グラムに減っています。
餅の消費量について「いまの親世代が食べていないと、その子どもも食べなくなってしまう」と担当者は危機感を持ちます。
「若い世代や子育て世代に届くような情報発信」を心がけ、動画クリエイターのヒカキンさん、料理研究家のリュウジさんらとのコラボに力を入れています。
リュウジさんは自身のYouTubeチャンネルで「餅ぶたチーズチヂミ」「至高のおこわ」「革命餅」などのレシピを紹介しています。
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