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#10 #就活しんどかったけど…
就活アプリOB訪問、場所に「ホテルのラウンジ」…リスクとメリット
連載「就活しんどかったけど…」
就活で大切だとされるのが、企業で働いているOB・OG訪問。都内の私立大学に通う4年生の女性(21)は、〝OB・OG訪問アプリ〟を活用して40人ほどに話を聞いたといいます。様々な業界・会社で働く本音を聞けて「便利だった」と評価するものの、「対面で会おう」とホテルのラウンジに誘われるなど、怪しい人もいるとリスクも指摘します。(withnews編集部・水野梓)
コロナ禍が始まった2020年、都内の私立大学に入学した愛知県出身の女性。入学式は中止になり、新歓もありませんでした。実家でオンライン講義を受けていたといいます。
1年生の夏ごろ、Instagramで見つけた英語サークルに参加したのをきっかけに上京しました。
就活を意識し始めたのは、1学年上の先輩たちが就活の話をし始めた大学2年生の冬。「そろそろ考えなきゃいけないな」と漠然とした不安があったそうです。
翌年の5月から、「OBトーク」「Matcher(マッチャー)」といった社会人と話ができるアプリを活用して、OB・OG訪問を始めました。気になっていた化粧品やIP、食品業界を幅広く調べていた時期でした。
登録している社会人に申請して、マッチングできればオンラインなどで面談ができる仕組みです。
気になる業界や企業に、自分の大学出身の先輩がいなくても、アプリなら相手がOKをくれれば、業界・企業の「本音」を聞くことができます。
さまざまな業界・年代の人が登録しており、40人ほどに話を聞けましたが、ひとりだけ「ちょっと怖いな」と感じたこともあったそうです。
アプリを使い始めて1カ月ほどした頃、20代後半とおぼしき男性会社員とオンラインでやりとりしていたところ、「せっかくだし対面で話しませんか」と誘われたそうです。
「1度くらいなら」とカフェで話を聞き、企業の内情などを聞いて解散したそうです。
しかし再び男性側から「次はここでどう?」と誘われ、指定されたのがホテルのラウンジだったといいます。
「提示された時間も遅かったので『カフェでお願いできますか』と伝えて、手短にカフェでお話ししたんですが、これは怖いなって思いました。もしかして下心があったのかなぁと感じてしまいました」と話します。
とはいえ、選考と関係しているのかを気にせずにOB・OGと出会えるのはメリットでもあったそうです。
「就活の最初の頃は、どう活動していいのかも分からない、世の中のことも分からない手探り状態でした。OB・OG訪問では、会社の内情や本音を聞けましたし、大人と話す練習にもなりました」と話します。
「怪しい人を見極めるのは難しいです。オンライン面談ならリスクも低いので、対面を選ばないのが一番いいと思います」とアドバイスします。
就活が最も忙しかったのは、6月末から7月にかけて、夏のインターン選考の時期でした。
倍率が高いため、応募した30社ほどのうち、書類が通ったのは半分ぐらいだったそうです。「頑張ってつくった選考書類だったんですけどね。この時期が一番しんどかったなと思います」
最終的には5社ほどのインターンに参加。クライアントの商談に同席させてもらい、プレゼン内容を見直して発表するといった、実際の業務に近いことも体験したといいます。
自分が働くイメージが具体的にわいたり、「この業界は自分に向いていないかも」といったことが具体的に感じられたりしたといいます。
「この企業で働きたい」と具体的に見え始めた3年の12月。人気のあるIT系企業で、「その企業のことばかり考えて、対策していた」そうですが、最終面接の直前で落ちてしまいました。
「5日間のサマーインターンにも参加していた企業で、早期選考に乗っていたので『これはいける』という気持ちもあったんです。お祈りメールを読んだときは、お先真っ暗って感じでした。これまであんなに時間と労力をかけてきたのに、メール一通で終わっちゃうんだ、って思いました」
面接の担当者の質問もとらえどころがなく、「手応えはなかった」そうです。「自分の回答があまり響いていないかなという感じでした。今思うのは、面接官との相性の『運』なんだなってことです」と話します。
近年の就活では、「夏のインターンに参加しないと就活が難しい」という風潮があると女性は言います。
「父に聞いたら、自分の時はインターンなんてなかったよって話していて。でも私の周りではインターン経由で内定が決まっている人がほとんどです」
オンラインの夏のインターンでは、終日Zoomをつなぎっぱなしで人事の担当者の目があり、「好きに休憩をとってもいい」と言われても緊張感が続き、なかなか自席を離れられなかったといいます。
最終発表のために、深夜にグループのメンバーでZoomに再集合して、徹夜で翌日をむかえたことも。女性の友人にも、いくつかの夏のインターンに参加して「急に耳が聞こえなくなった」「胃が痛い」と身体を壊してしまった人もいたそうです。
「就活の長期化にもつながりますし、スケジュールが集中して精神的肉体的ストレスもひどいので、この風潮はなくなってほしい」と指摘します。
結果的に女性は4社から内定が出て、6月初旬に内定をもらった食品メーカーを選びました。
1年以上、就活に時間をかけ、満足する結果になってよかったと感じるものの、「せっかくの大学生活なのに、なんでこんなに時間がとられる仕組みなんだろう」と感じたそうです。
4社から食品メーカーに決めたのは、「最終的には『人』というのが大きかったです」と話します。
「OB・OG訪問で出会った方々の中で、食品メーカーの方に、私の就活のことを第一に考えて話をしてくれた人が多かったんです。人柄のよさ、温厚さにひかれました」
実は、内定が出た企業は、アプリのOB・OG訪問で出会って話していた人の勤め先でした。
「最初は企業名を明かしていなかったので分からなかったんですが、アプリで出会ったOBふたりが、内定先の企業の社員さんだったと途中で分かったんです。中盤ぐらいから、就活に伴走してくださって本当にありがたかったです」と話します。
「就活で私が一番ほしかったのは、利益目的ではなく、ただただ親身になって相談に乗ってくれるメンターだったんだと思いました。アプリの危ういところは注意しながら、うまく使うといいんじゃないかなと思います」
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