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「プチトマト」って言うと世代がバレる? 実はもう存在しないなんて
ミニトマトとの違いとは……
トマトがおいしい季節。SNSを見ていて、プチトマトに関するあるツイッターの投稿に衝撃を受けました。小さいトマトを「プチトマト」と呼ぶと、世代が分かってしまうというのです。どういうことなのでしょうか?
筆者(36)が小学生のとき、母がお弁当に入れてくれていたプチトマト。小さい頃はよく食卓に並んでいた記憶がありますが、いつしかその名前を呼ぶことはなくなり、大人になってから見聞きするのはミニトマトが定番になりました。
そんななか先日見つけたツイートには、小さなトマトをプチトマトと呼ぶだけで上の世代だと分かってしまうという趣旨の言葉が。その投稿には、すでにプチトマトが販売終了になっていることも記されていました。
その日からじわじわよみがえってくるプチトマトの記憶。
ミニトマトとの違いはなんなのか。
すでに販売終了とはどういうことなのか。
プチトマトの販売元・タキイ種苗(京都市下京区)に聞きました。
「(トマトを大きさで分けた)ミニトマトというカテゴリーの中の一つの品種が『プチ』です」
広報担当の桐野直樹さんはそう話します。
タキイ種苗が「プチ」という品種の発売を始めたのは1975(昭和50)年。アメリカで採種された種を日本で販売したそうです。
「『プチ』が世の中に出たとき、トマトと言えば大玉が主流の時代でした。『プチ』はどこかの産地で大量に作っていた状況ではなく、家庭菜園のための品種の一つだったのだと思います」
当時の種のパッケージには、プチトマトと書かれた横に「(一口トマト)」と補足されていました。「プチ」は、フランス語で「小さい」を意味する言葉です。
家庭菜園で育てられ、自分の家で食べられていたプチトマト。そこから徐々に小さなトマトの存在が浸透し、1980年代には市場に出荷されたり、スーパーなどで販売されたりしていたそうです。
プチトマトへの需要が高まったことから、種苗会社では糖度が高いものや病気に強く栽培しやすいもの、数を多く収穫できるものなど、品種改良が進んでいったといいます。
その結果、ミニトマトの先駆けとして広まっていたプチトマトの需要が減り、2007年に販売終了となりました。
その後もときたま小さなトマトがプチトマトと呼ばれることについて、桐野さんは「当時は『ミニトマト』の概念もなかったので、『小さなトマト=プチトマト』と捉えられて広がっていったのかなと思います」と推測します。
タキイ種苗は現在も、おいしく栽培しやすいミニトマトの品種改良を進めているそうです。
プチトマトはミニトマトの一種。小さなトマトの草分け的存在だったことは分かりました。
販売終了は2007年ですが、その時点で小さなトマトの種類も増えていたとすると、プチトマトが小さなトマト代表だった時代は1980年代から1990年代あたりか……。
ミニトマトについてもっと知りたい。そもそもミニトマトに定義はあるのか。
トマトに詳しい、千葉大学園芸学研究院の中野明正教授(野菜園芸学)に話を聞きました。
「トマトは大きさで分けることが多いですが、明確な基準はありません。ミニトマトは10〜20g程度とされることが多いようです。本来大きくなるような大玉のトマトでも栽培法次第で小さくなることもあります」
中野教授はそう説明します。農林水産省の広報誌「aff(あふ)」には、以下のような分類が書かれていました。
中野教授によると、農林水産省でミニトマトの統計が取られるようになったのは1990年のこと。現在、トマト全体の生産量は緩やかな減少傾向にありますが、ミニトマトの伸びは著しいそうです。
ミニトマトの生産量が伸びている背景には、その手軽さとおいしさがあるといいます。
中野教授は、「ミニトマトは切らなくてもいいし、(スーパーやコンビニで調理される)中食を含め、お弁当にも入れやすい。『簡単においしく』という消費者や加工業者のニーズにマッチした食材といえるでしょう」と話します。
「また、最近では、オレンジや黄色などバラエティーに富み、食卓を華やかに彩ります。消費が伸びる要因を多数有しています」
ニーズが高まっているミニトマトですが、収穫はその小さな実を一つ一つ手で摘むことが主流です。
中野教授によると、ミニトマトの全作業労働時間のうち、収穫の時間が約4割を占めているといいます。
人手不足の深刻化が懸念される中、中野教授らはいくつも実のついたミニトマトを房ごと収穫する「房どり」を提案しています。「オランダでは多く見られるカテゴリー」だそうです。
中野教授らの研究では、一つ一つの果実を収穫するよりも、房で収穫する方が効率的であり、さらにロボットを導入することにより、収穫調整に必要な労働時間を約6割削減できることが実証されています。
中野教授は「ミニトマトは、一般的に大玉トマトと同じ重さではリコペン(リコピン)が多く含まれ、糖度が高くておいしいものが多いと言えます。しかし、収穫が大変なのです。今後さらに、需要の伸びが期待されるミニトマトに対応した生産技術の研究・実証をしていきたい」と話しています。
たまにスーパーで見かけるようになった房つきのミニトマトには、そんな背景があったなんて。
少しミニトマトに詳しくなった2023年夏。今年はより一層、生産者さんへ感謝しながらおいしくいただきます。
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