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連載

#15 #令和の専業主婦

専業主婦経て博士号…でもバイト 「大きな仕事じゃなくても」の視線

「子育てがひと段落したあとのリスキリングや就労支援を」

「子どもの誕生日には手作りしようと決めている」という女性が作ったケーキ=本人提供
「子どもの誕生日には手作りしようと決めている」という女性が作ったケーキ=本人提供

目次

国会で話題になった「育児休業中のリスキリング(学び直し)に支援を」発言。約10年間の専業主婦期間を経て、現在大学でアルバイトをしている女性は「育休中に『あれもこれも』は大変。一定期間子育てに専念した人に対しても、子どもが小学校に上がり、生活に余裕が出てくる頃に学び直す場合に支援してほしい。それが就労につなげられたらいいのでは」と提案します。子育てをしながら修士、博士号を取得した女性に、「ブランク」後の就労の難しさを聞きました。

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18年前「仕事より、結婚の夢へ」

北陸地方に住む女性(43)は、25歳のときに結婚。当時働いていた県から、夫の住む土地に移り住みました。
女性が結婚した18年ほど前というと、周囲の女性をみても、結婚や出産を機に退職する人がいまに比べて多かった時代。新卒で勤めていた団体を辞めることには特に抵抗がありませんでした。
「若かったので、『仕事を続けたい』というより、『結婚』という夢に向かって歩く方が大きかったです」

《総務省の「労働力率調査」の、女性の年齢階級別労働力率をあらわしたグラフは、かつて、結婚や出産を機にいったん離職し育児がひと段落したらまた働き始める特徴を持っていたことから「M字カーブ」といわれていた。平成21年(2009年)は「谷」の部分が65.5%だったが、令和元年は76.6%で、M字カーブは台形になりつつあるとされている》

移住先で、3人の必死の子育て

移住後、新たな職探しを始めましたが、就職先が見つかる前に妊娠。
「子育てと仕事をいっぺんにすることは私には考えられなかった」と、子育てに専念しようと決めました。

そこから、3人の子どもに恵まれた女性。
夫は帰りが遅くなる仕事だったことや、女性自身が「家事や育児が自分の仕事」と割り切っていたこともあり、夫のコミットが少なかったことについては特に気にしていませんでした。
「家のことといえば、主人は冬のタイヤ交換しかしなかったですね」と笑い飛ばします。

《5年ごとに行われる国の「社会生活基本調査」によると、令和3年(2021年)、6歳未満の子がいる夫婦の家事関連時間を見ると、妻は7時間28分、夫は1時間54分。15年前(平成18年)の調査での同項目は、妻は7時間27分、夫は1時間だった》

ただ、年の近い3きょうだいを1人で育てるのは、並大抵のことではありませんでした。下の子が幼稚園に入園するまでは、下の子を連れて上の子を幼稚園に送迎したり、保護者会などのイベントに行ったり。「家で3人見ていた方が楽なくらいでした」

義母からの「働かないの?」…「楽」と思われたショック

慌ただしくも充実した日々を送っていた女性ですが、3番目の子が産まれてから数年後、義母から「働かないの?」と言われるようになりました。

「私は『楽をしている』と思われているのだろうか」とショックを受けた女性は、周りの目を気にするようになり、3番目の子が幼稚園に入った頃、市役所管轄のパートタイムの仕事を希望して履歴書を提出しました。

転機が訪れたのはこのときでした。

履歴書を見た職員から、「(産官学連携事業の)分析業務をしてくれるアルバイトを探している」と声をかけられたのです。
女性が希望していたのは図書館の職員。ですが、最終学歴を見た職員が女性が理系出身であることを知り、声がかかったようでした。

ただ、当時は家計的には特に困っておらず、心境としては、周囲からのプレッシャーで「やむなく」働く程度のモチベーションでした。

「当時は子育てとのバランス重視。あくまで子育ての空いた時間を充てるという意識だったので『かっちり時間を決めて働くのは無理です』」と正直に伝えました。

すべては、平日4~5時間のアルバイトから始まった

それでも「来られるときに来て、分析さえしてくれたらいい」と引き下がらなかった、大学と市役所の担当者。女性は「それならば……」と、下の子が幼稚園に行っている間の平日4~5時間程度をアルバイトに充てることにしました。
女性は当時を振り返り「(担当者の)この提案が大きな力になりました」と振り返ります。

それを機に、次々と環境の変化が訪れます。

「分析を長くやっているうちに、『より深く学びたい』という思いが出てきたんです」。女性がそのことを研究室の「先生」に話をすると、「修士をとってみたら?」と提案が。

提案を受け、女性はバイトと修士の学生生活を両立。バイトで得た給与と奨学金を修士の授業料に回す日々を2年続け、修士号を取得しました。さらにその後、3年かけてバイトと研究を両立させて論文を執筆し、博士号も取得しました。
2022年のことでした。

「そこらへんで仕事していれば…」から抜け出す策

私生活における子どもの成長と、働き方は連動します。現在、女性の子どもたちは中学1年生、高校1年生、2年生。
女性がアルバイトを始めてからは、7年になりました。

女性は自身を振り返り、子どもが小学生になった頃に「やっと、『自分のために働いてもいいかな』という感覚になった気がします」と話します。

就学をする頃には一人でできることが増えますが、そこまでには、出産から最低でも6年がかかります。
子どもが小さいうちから、子育てと仕事を両立する人も増えてきていますが、パートナーの転勤や子どもの事情、「子育てを優先させたい」など様々な理由で、一度仕事を離れる選択をしたり、離れざるを得ないという人もいます。

仕事を離れ、一定期間のブランクを経て、再度働きたい・働ける状況になったときの受け皿の少なさや狭さは、かねてから問題視されており、女性も、「自分を生かせる仕事に戻ることが難しい社会。大きな仕事に戻れなくても、『そこらへんで仕事していればいい』と社会に思われている気がする」と話します。

女性が「子育てがひと段落したあとのリスキリングや就労支援を、もっと手厚くしてほしい」と訴えるのは、「一定期間キャリアから離れると、その間、仮に社会で働いたときに積めたであろう業績を取り戻すことは難しくなる」と認めつつも、「子育てで身につけた忍耐力や調整力をもって、誠実に仕事に向き合える」と考えるからです。

女性は「リスキリング」という意味では博士号まで取得しましたが、その専門性をフルタイムの職で生かす機会にはなかなか巡り合えず、アルバイトの期間が続いています。研究職を希望していますが、「子どもがいると、なかなか住む場所を変えることも難しい」。「(子育てが落ち着いた)この時期の主婦に仕事がうまくいくシステムがあるといいんですが」と話しています。

《仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層の実情や本音を探る調査機関『しゅふJOB総研』が2022年に「家庭と両立させることのできる仕事の数が足りているかどうか」を聞いた調査では、「不足している」との回答が78.6%だった。
「不足している」と感じている人の内訳をみると、子どもがいない人では71.8%、子どもが1人の人は78.2%、子どもが2人以上の人では80.8%と、子どもの数が多いほど、家庭と両立させられる仕事の数を不足していると感じているという結果だった》
しゅふJOB総研のレポートより
 ◇

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