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#2 親になる

生後2週間の赤ちゃん、吐き戻しに茶色いカス 後に血…専門医に聞く

ミルクの吐き戻しに血が混じっていたら。※画像はイメージ
ミルクの吐き戻しに血が混じっていたら。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

生後2週目、緊急帝王切開での出産を経て、自宅に迎えた子ども。しかし、家に帰って数日で、ミルクの吐き戻しに鮮血が混じり、大慌てで近くのクリニックに向かうことに。当時の出来事を振り返りつつ、あらためて小児科専門医を取材しました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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「大慌て」前日にあった兆候

緊急帝王切開で生まれた子どもは、無事に妻とともに退院しました。普通分娩の場合より、一日遅れの帰宅でした。

出産したのは家からやや離れた病院。退院時はチャイルドシートが設置された、いわゆる「赤ちゃんタクシー」を呼びました。通常の料金よりも割高ですが、痛ましい事故のニュースを思うと、必要経費だねと夫婦で話し合って決めました。

タクシーを降り、抱き上げます。ぐにゃりとしてあったかい赤ちゃんは、無理に扱ったら壊れてしまいそうで、何をするにもおっかなびっくりに。

こうして、子どもを迎えた生活が始まりました。

「何が起きるかわからない」ということを痛感したのは、その数日後のことです。

前兆はありました。よくミルク(母乳)を飲む子ではあるのですが、しばしば飲み過ぎ、吐き戻しをしていました。最初は量の調整に手間取り、「飲ませすぎて吐いた」「飲み足りなくて泣いた」を行ったり来たり。

頭を悩ませていたとき、吐き戻しの内容物に茶色いカスのようなものが混じっていることに気づきました。

妻は医療者で、私も医療を取材する記者。「もしかして」と頭をよぎったのは、これが時間が経った血液である可能性でした。

ともに医療に関わりがあるものの、「新生児の吐き戻しに血が混じっている(かもしれない)」というケースは初めてで、専門外です。

慌ててネットで検索するも、ヒットするのは主に運営元の信頼性が不明なサイトで、公的機関などの情報が見当たらないか、あっても知りたいことと違う、という状況。

あれこれ調べていると、医師に質問ができる、いわゆる「医療相談サービス」に、同じような質問があることに気づきました。無料登録をしてチェックすると、やはり血液である可能性を指摘する意見がいくつかありました。

血液の由来については、主に母乳自体に血が混じっている可能性と、赤ちゃんの消化管が傷ついている可能性の二つがあるようです。対して、医師らの回答は、概ね「繰り返さず、穏やかに過ごしていて、ミルクの飲みも良ければ経過観察でもいいと思う」というものでした。

茶色い吐き戻しは初めてで、まさに穏やかに過ごし、ミルクの飲みも良かったので、その日は様子を見ることに。これまで自分や妻の健康管理には必要性をあまり感じていなかった医療相談サービスでしたが、なるほど、こういうときに需要があるのか、と感心しました。

大慌てになったのは、その翌日でした。

鮮血の混じった吐き戻しに…

翌日、また茶色い吐き戻しが。妻と「これは病院かね」と話していると、次の吐き戻しは茶色いカスではなく、鮮血の混じったピンク色でした。

子ども本人はいたって元気なのですが、さすがに「血そのもの」を目の当たりにすると、周りは落ち着いてはいられません。

母子の1カ月健診もまだまだ先。外出は推奨されず、そもそも連れ出していいのか、という迷いも、前日に病院に行くのを見合わせた理由でした。しかし、「さすがに……」と、妻と徒歩10分ほどの小児科クリニックにかかることに。

まだ子ども本人の健康保険証もできていないタイミング。事前に電話で確認すると、「母子手帳と医療証を持参し一旦は全額自己負担で受診」と案内されました。なお、私の住む自治体では、乳幼児は医療費がゼロになるので、健康保険証が発行されたら、払い戻しを受けられるということでした。

うちのベビーカーに乗せていい? 抱っこはOK? 動揺しながら、一つ一つの細かい決断を迫られます。最終的にはクリニックと相談し、医療スタッフの指示に従って、連れていきました。

夕方、診療終了間際のクリニックでは、二組の患児と家族が先にお待ちでした。20分ほど経ち、診療終了時間をやや過ぎたあたりで、診察室に呼ばれます。

吐き戻し以外は、いたって元気な子ども。移動中も、待合室でも、すやすや寝ています。診察ではお医者さんにより子どもの全身のチェックと、妻への問診がありました。「母乳か人工栄養乳か」「母体の乳首の状態は」「ビタミンK2シロップを服用しているか」などについて確認されていました。

すやすや寝ていた子どもは、聴診器を当てられた瞬間に大泣きに。それでも平然として診察を続ける医師の姿は、私たち家族に安心感を与えてくれました。

そのお医者さんの結論は「血の混じった吐き戻しはよくあること」「来週まで続くようであればまた受診を」というもの。

閉診間際に入ってしまったことの後ろめたさはありつつ、ひとまずホッとしました。それは、どちらかというと「一時的でも専門家により結論がついたこと」への安堵感だったように思います。

というのも、子ども本人は吐き戻し以外はいたって元気。だからこそ「病院に連れていった方がいいのかどうか」について迷い続けることの負担が大きかったのです。医療相談サービスは便利ですが、実際に診察をしてもらっているわけではないので、この不安は拭えませんでした。

もちろん、これは結果的に、何事もなかったからこそ言えること。やがて吐き戻しに血が混じることは治まり、次第に吐き戻し自体も少なくなりました。

妻が振り返ったところによると、当時は母乳を直接、吸わせだしたばかりで、今は感じない痛みがあったそう。見た目に傷などはなかったそうですが、内部が傷ついていたかもしれない、ということでした。

「気兼ねなく受診を」と医師

あらためて、赤ちゃんの吐き戻しに血が混じることについて、小児科専門医でスマホアプリやSNSで発信する『教えて!ドクター』のプロジェクトリーダー・坂本昌彦医師に話を聞きました。

まず、坂本医師はその原因について「お子さんの日齢によっても変わってくる」とします。

「出生後、間もなくでは、いわゆる新生児メレナという症状で、<母親の出産時の血液を飲み込んで、それが出てくるパターン>と、<出生時の(胎内からの環境変化の)ストレスが原因で胃などの消化管から出血するパターン>が多いですが、中にはビタミンKの欠乏が原因のこともあります」

私の子どものケース、出生2週後だと、別の原因が考えられるそうです。

「<乳頭や乳管、乳腺が傷ついて母乳自体に血が混じっているパターン>や<吐き戻しのタイミングで胃や食道の粘膜に負担がかかり、出血してしまうパターン>もあり得るかもしれません」

坂本医師は「ごく少量の出血であればそれほど珍しくはない」とした上で、「それが続くかどうかが問題です。1回で治まってしまえばよいですが、哺乳がいまいちで症状が続くようなら受診が必要です。手術が必要な病気や血液の異常が原因の場合もあるので、詳しい検査を行います」と話します。

検査とは、一つが出血傾向の有無について。「出血が止まりにくい病気」が隠れていないかを検査します。また、新生児や乳児はビタミンKが不足し、出血しやすくなることがあるため、ビタミンK2シロップの服用が推奨されています。近医で服用状況を確認されたのは、このためです。

他に、例えば「血液のあるなしに関わらず、嘔吐が続いたり活気や哺乳の低下が続く場合には、消化管閉塞(腸の軸捻転など)など手術が必要な病気がないか調べる必要もあります」とのことでした。

「ただ単に乳頭の傷からの出血を飲み込んでいたのが原因なのか、消化管の病気が隠れているのか、保護者が判断するのは難しいと思いますし、不安なことでしょう」と坂本医師。そのため、「保護者のみなさんは、迷って心配な状況であれば、病院に連れてきていただいて大丈夫です」とします。

「結果的に何も問題なければ安心して帰宅し、育児を続けることができますので。心配なままだと、ただでさえ疲労困ぱいの産後がさらにしんどくなってしまいますから、わからないときは気兼ねなく小児科を受診し、早めにご相談いただいて大丈夫です」

たしかに、わからないことだらけの育児。K2シロップ一つをとっても、単体で飲ませると笑顔のまま吐き出してしまい、大人たちだけが「ぎゃー」と騒ぐ、ということが続きました。

飲めたの? 飲めてないの? 飲めてないならもう一度もらうべき? そんな「?」の連続の日々では、やはり信頼できる専門家の存在が心の支えになります。

これも「大人の薬は食後が多いですが、小児科の薬は“食前か食後か”よりも“飲めるかどうか”が一番大事なので、こだわらず食前でも大丈夫です」「飲んでくれないと思って悩んだら、かかりつけ医に遠慮なく相談して」と坂本医師。

我が家では試行錯誤の末、「ミルクの前にK2シロップを飲ませて、そのままミルクを飲ませれば吐かない」という、独自のメソッドが確立していきました。

何が起きるかわからない育児。こうして「?」に一つひとつ取り組み、折り合いをつけていく日々が続きそうです。

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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