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『あらびき団』の秀逸なコンセプト 〝粗削り〟が今、求められる理由

「ライト東野」としてMCを務める東野幸治=2017年3月5日、岡田晃奈撮影
「ライト東野」としてMCを務める東野幸治=2017年3月5日、岡田晃奈撮影 出典: 朝日新聞社

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今年2月のゴールデンSPから約半年、『あらびき団』(TBS系)が深夜に戻り2夜連続で放送された。番組ならではのパフォーマー、コンセプトの強さ、ゴールデンSPとの違いといった部分を見つめていくと、『あらびき団』の持ち味が浮き上がってくる。なぜ特番となった今も熱烈な支持を集めるのか。時代に求められるようになったとも言える、「粗削り」の魅力に迫る。(ライター・鈴木旭)
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体を張ったパフォーマーが活躍

「レフト藤井」としてMCを務める藤井隆=2013年5月25日撮影
「レフト藤井」としてMCを務める藤井隆=2013年5月25日撮影 出典: 朝日新聞社
2007年~2011年までレギュラー放送されていた『あらびき団』。その後もたびたび特番が放送され、長く愛され続けているネタ番組だ。

今回は、8月2日、3日と2夜連続で王者を2組決定する「真夏の最強パフォーマー決定戦」を開催し、2017年から続く賞レース形式で「あら」「びき」「団」ブロックの勝者の中から優勝者を決定。1夜目にゾンビに襲われる中でうまくエスカレーターのパントマイムを見せた若手コンビ・スパイシーガーリック、2夜目にルーレットで出た特技を披露しようとするも、手際や滑舌の悪さが目立つ地下芸人・スルメが優勝した。

とくにスルメのネタは特殊なものだ。段ボールで作成したルーレットを回し、自分で考案した特技を口で説明しながら披露する。しかし、緊張しいでもあり聞き取りにくいうえ、“特技”だと大風呂敷を広げた割にほぼ成功せずに終わる。このグダグダな展開こそ、芸人・スルメの真骨頂なのだ。後述するように、ゴールデンSPよりも今回の深夜帯のほうが、スルメのポテンシャルは発揮されていたように思う。

初めて『あらびき団』を見たのなら、選考基準がまるでわからないだろう。スルメにおいては、今年2月に放送されたゴールデンSPに続いての2連覇。2018年12月の「あら1グランプリ」でも優勝している。この番組で圧倒的に強いスルメは、ほかの番組で目にする機会がほとんどない。しかし、そこが番組の“肝”なのである。

深夜に戻った今回の放送では、大道芸人の風船太郎や裸芸の品川庄司・庄司智春といった番組おなじみのパフォーマーに加えて、手に持ったスティックでカラーコーンを宙に浮かせ股間を隠す芸を見せたバタハリ、スマホから流れるAMEMIYAの歌ネタをお腹に挟んで無音にする「くまりえ。」など、体を張った芸が多かった。
 

中堅芸人たちが盛り上げてきた番組

2020年10月から『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)がスタートすると、ネット上では「『あらびき団』と似ている」との声が上がった。ネタVTRを流し、スタジオの千鳥やゲストがコメントして笑わせるフォーマットがよく似ていたからだろう。

そんな経緯もあり、今年2月に『あらびき団』のゴールデンSPが放送された時には、旬な若手や人気芸人が続々と登場してひと癖ある芸を披露する『クセがスゴい~』が脳裏を過ぎってしまった。というのも、かつて『あらびき団』に出演していたかまいたち、マヂカルラブリー(CS放送のTBSチャンネルで出演)、シソンヌといった芸人が人気者となって凱旋したからだ。

そのほかM-1グランプリ王者の錦鯉、キングオブコントファイナリストの男性ブランコらも出演し、旬な芸人が集まる華やかな顔触れとなった。もちろん時間帯的に必要なメンバーだったのだろうが、番組特有の持ち味は薄まったように感じた。

今回の放送ではそうした“スター”がおらず、レギュラー放送時と同じような感覚で見ることができた。それはきっとブレーク前のハリウッドザコシショウ、裸芸でイメージチェンジを図った品川庄司・庄司といった中堅芸人たちが番組を盛り上げてきた印象が強いからだろう。
 

「サーカス団」という絶対的なコンセプト

『あらびき団』のそもそものコンセプトは、サーカス団のオーディションである。東野幸治(ライト東野)と藤井隆(レフト藤井)がサーカス団を結成し、粗削りな一芸を持つパフォーマー(団員)を募るという設定のもとでネタが披露されるのだ。

単純に芸人がネタを披露するというよりは、番組の色に合った演者たちによるパフォーマンスが醍醐味と言える。かつては、パントマイム・アーティストの「が〜まるちょば」、自称アイドル芸人のみちゃこ(2015年芸能活動を終了)、“セーラー服おじさん”で知られる安穂野香など、幅広いジャンルの演者が番組に出演していた。体の動きや小道具、音楽で状況を表現したり、強烈な見た目とパフォーマンスでオリジナリティーあふれる歌を本気で歌ったりと、漫才やコントでは味わえない笑いが散りばめられていた。だからこそ、スリリングな面白さをまとっていたのだ。

とくにレギュラー放送時は活気があったように思う。その点も含めて、ゴールデンSPはパンチに欠けていた。しかし、今月放送された深夜の2回では、体を張ったネタや大道芸、パントマイムといった身体的な笑いが目立ち、番組ならではの特色が反映されていた。

その一方で、「韓国あるある」を披露する懐かしのアイヒマンスタンダード(みなみかわ)も出演。ネタの途中から、番組MCの東野といった有力なタレントやテレビ関係者に直接インスタグラムのDMを送り、夫の出演交渉を行うことで話題となったみなみかわの妻も登場した。

こうしたひと癖ある演者を深掘りし、舞台裏も含めてエンタメ化してしまう点も通常のネタ番組とは一線を画している。

深夜ならではの逸脱した面白さ

番組の特色は、放送される時間帯によっても変化する。それは、『あらびき団』においても多少なり感じたところだ。

例えばゴールデンSPで、プロダンスチーム「544 6th Ave」&とろサーモン・村田秀亮(ワイプ実況:南海キャンディーズ山里亮太、とろサーモン久保田かずのぶ)というネタVTRがあった。

これはダンス映像とワイプ実況が同時に流れ、どっちを見るべきか視聴者を混乱させる類のネタだ。映像が進むうちに山里と久保田が揉め始め、最終的にダンスチームの一人が覆面を外すと、とろサーモン・村田だったというオチで終わる。

今回の深夜放送回でも、カラスの衣装に身を包んだ大道芸人・スタチューマン(ワイプ実況:平成ノブシコブシ)のネタVTRで同じフォーマットが見られた。大きく違うのは、平成ノブシコブシの揉め方がリアルだったことだ。

大道芸の映像が流れる中、徳井健太が相方・吉村崇に危害を加えようと傘を持ち出した場面は緊張が走った。過去に吉村からひどい暴言を吐かれ、後になって徳井が「(あの時は吉村を)殺そうと思った」と明かしたことがあったからだ。とはいえ、その真剣な空気感も相まって余計におかしかった。

品川庄司・庄司も、「アブローラーマン」というネタで今年のゴールデンSPと深夜のどちらにも出演している。アブローラーを使って社会の悪を退治する裸芸は同じだが、深夜では幾人もの庄司が現れてうごめく気色の悪い面白さを醸していた。MCの藤井隆が「サイケ~!」と口にしていたのも納得の映像だった。

そのほか、男女カップルコンビの新宿のめる・はけるが接吻する模様を番組スタッフが睨みつけるというネタVTRも深夜ならではのものだろう。逸脱した面白さが魅力の番組だけに、ゴールデン帯ではこうした部分で控えめにならざるを得ないのが惜しいところだ。

地下芸人のスルメが2連覇する番組

今回2夜目に優勝したスルメも、深夜だからこその魅力に溢れていた。

「ルーレットを回し、自身で考案した特技を披露する」というネタの方向性はゴールデンSPと同じだが、深夜では「風船20個割り」に挑戦するもなかなかうまくいかず、最後は床にある風船に向けて脳天から突っ込もうとする危険なフェーズに入ったところでVTRが終了。この狂気じみたパフォーマンスに笑わずにはいられなかった。

『あらびき団』は、地下芸人らしい危うさを放つスルメが2連覇する番組である。「一体何をやっているんだ」と目を疑うようなパフォーマーが優勝する、極めて珍しいバラエティーなのだ。

もちろんフルーツポンチ・村上健志、香呑、軟水といった芸人のネタは時間帯を問わない面白さがあったし、ゴールデンSPに出演した元Bコースの歩子(旧芸名:ハブ)、モンスターエンジン、キュートンのパフォーマンスも素晴らしかった。

しかし、表舞台で緊張してうまくしゃべれない芸人が、漫談でもコントでもなく“自身の考案した特技に挑戦してグダグダになる”という笑いは、地上波でそうそう見られるものではない。もちろん番組MCによるコメントの秀逸さがあってこそだが、コンセプト通り“粗削りな一芸を見せる団員”としてスルメは一流なのである。 

お笑い芸人は、基本的に“見る者を笑わせること”を生業としている。ダウンタウン人気をきっかけにお笑い養成所の入学者が急増。芸人の絶対数は膨れ上がり、「M-1グランプリ」「キングオブコント」といった大きな賞レースが始まって漫才やコントのクオリティーも年を追うごとに上がっていった。

2000年代には『アメトーーク!』(テレビ朝日系)や『リンカーン』(TBS系・2005年~2013年終了)など、ひな壇形式のバラエティー番組が隆盛を極め、大人数の中での立ち振る舞いや団体芸も確立。「裏回し」「天丼」など芸人のスキルや手法を表す用語が一般にも浸透していった。

洗練されたジャンルの中で、必然的に目立ち始めるのは定石を覆すような個性だ。とくに笑いはギャップや裏切りによって生じやすいだけに、見たことのない“ほつれ”ほど付加価値がつく。

お笑いやバラエティー番組が成熟し、ある種の飽和状態にあるからこそ、その根源的な部分が見直され始めた気がしてならない。近年、「地下芸人」「クズ芸人」といった特殊な芸人が注目を浴び、『あらびき団』が支持され続けるのは、そんな時代の空気を象徴しているのではないだろうか。

純然たるネタ番組ではあり得ない、記憶にこびりついて離れないようなパフォーマーが集結する『あらびき団』。叶うことなら、今後も深夜でそのポテンシャルをいかんなく発揮してほしい。

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