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連載

#13 #医と生老病死

死後ツイートは消す?作品は残ってほしい? おかざき真里さんの答え

物語から考える〝生老病死〟

自分たちの「生老病死」観をかたちづくった〝物語〟は何だろう――? 編集者・たらればさんは「『死んだあとのツイート』ってどうしたいですか」と、漫画家・おかざき真里さん、withnews編集長・水野梓に尋ねます
自分たちの「生老病死」観をかたちづくった〝物語〟は何だろう――? 編集者・たらればさんは「『死んだあとのツイート』ってどうしたいですか」と、漫画家・おかざき真里さん、withnews編集長・水野梓に尋ねます 出典: Getty Images ※画像はイメージです

目次

わたしたちの「生老病死」観をかたちづくった物語は、どんなものだろう――。「物語の生老病死」をテーマとしたトーク、最終回の今回は、萩原聖人さんや木村拓哉さんが出演したテレビドラマ『若者のすべて』について考えます。そのほか「自分が死んだらツイートを消したい?」「自分のマンガ作品は残ってほしい?」と話題は広がり……。漫画家おかざき真里さん、編集者たらればさん、withnews編集長の水野梓が語り合いました。

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令和に生きる、医師でもないわたしたちは、生きることも老いることも死ぬことも、〝物語〟を通して知るのではないか――?
そんな、あなたの「生老病死」観をかたちづくった〝物語〟はどんなものですか。

2022年7月25日夜に開催したTwitterSpacesイベント「#物語の生老病死」にて、漫画家・おかざき真里さんと、編集者・たらればさん、withnews編集長の水野梓が語った内容を記事化したものです(構成はたらればさん、全4回予定)。

「SNS医療のカタチ」のイベントの一環として開催され、メンバー(医師・大塚篤司さん・堀向健太さん・山本健人さん・市原真さん)にも「影響を受けた物語」を聞きました。同イベントの詳細は公式Twitterアカウント(@SNS41010441)をフォローしてください。

 

おかざき真里(おかざき・まり)
漫画家。最澄と空海を描いたマンガ『阿・吽』(ビッグコミックスピリッツ)が2021年5月に完結。フィール・ヤング(祥伝社)で『かしましめし』連載中。ツイッターは @cafemari

 

たられば
だいたいニコニコしている編集者。ツイッター @tarareba722 のフォロワーは20.7万人。漫画やゲームや古典の情報を発信している

「その年齢でしか出せない輝き」

withnews編集長・水野梓(以下、水野):SNS医療のカタチ代表の大塚篤司先生が挙げてくださった「物語の生老病死」作品は、テレビドラマの『若者のすべて』(1994年/脚本・岡田惠和、主演・萩原聖人、木村拓哉)です。
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たられば:これは刺さる世代には急所をえぐるようなセレクトですね。

水野:大塚先生からいただいた「推しどころ」を紹介します。
「最終回、『サンタが行くからな』と武志(木村拓哉)が電話した後、萩原聖人さんもキムタクもふたりとも刺されてしまう衝撃のラスト」

「不器用でも一生懸命生きている若者が、当時の自分と重なり合った。武田真治さんの演じる役(青柳圭介)が、医学部目指して五浪しているのも、(当時)二浪したぼくには響いた。

すべてがうまくいきかけたラストで無情にも死が迫るのは当時衝撃だったし、いまでは毎日の大切さを感じることとなるシーンだった」
おかざき真里(以下、おかざき):これ、「今からでも見たい」という人にとっては究極のネタバレですね(笑)。

たられば:30年前に完結しているドラマですしさすがにセーフでしょう(笑)。

この最終回のラストシーンは、当時本当に衝撃を受けました。それぞれ問題を抱えた若者たちが、苦労して悩んで、なんとなくそれぞれに折り合いをつけたところで、主役の二人が刺されて終わるという。

水野:これは当時の視聴者の皆さんはどういう受け止め方をしたんでしょうか……。

たられば:どうだったかな……。わたくしは、主役二人を刺したチンピラが逃げるときに「負けるわけにはいかねえんだよ!」と叫んでいたのをよく覚えています。

「ああぁ……うまく負けたことがないと、一度負けたら全部終わりだと思っちゃうんだよなあ……」と。

水野:負けたら全部終わり……。

たられば:実際には、たいていの人生は何度も負けるわけですよね。

で、その「負け」をきちんと受け止めないと、「負けること」を恐れすぎてよくない方向に転がってしまうんだなあと。

水野:なるほど……ところで大塚先生はB`zが大変お好きなのですが、このドラマの主題歌はMr.Children(『Tomorrow never knows』)なんですよね。

たられば:現在までのミスチルのシングル最大のヒット作品ですね。わたしも大好きな曲です。おかざき先生もこのドラマ、世代的にストライクですよね。

おかざき:わたしはサブカルクソ野郎だったので、こういう王道ど真ん中のドラマは見てなかったんです。

たられば:や……「野郎」ではないんじゃないかと。

おかざき:サブカルクソオタクだったので。

たられば:なるほど。

おかざき:いまお話に出てきた作品もアーティストも、ど真ん中ですよね。わたしはそういうまぶしい光を放つところではなく、もっとこう……日陰のほうを好んで歩いてきたので……。

たられば:日陰。

おかざき:とはいえ、『若者のすべて』の脚本を担当された岡田惠和さんは、これは岡田さんのほかの作品もそうなのですが、「あっ!」と思うような展開があって登場人物たちが残酷な境遇に陥ったとしても、それほど理不尽に感じないんですよね。

たられば:ふーーむ、『ビーチボーイズ』(1997年)とか『ちゅらさん』(2001年)とか。

おかざき:それと、いま当時のスチール写真やジャケット写真を拝見すると、「ああ……それぞれの俳優さんの、この年齢でしか出せない輝きを引き出しているなあ」とも思います。

皆さん年齢を重ねて、その時々の美しさを持っている俳優さんですけれども、この歳でしか出せない輝きというのがあって、それをすばらしく画面へ引き出しているなあ……と。

たられば:木村拓哉さんも鈴木杏樹さんも、美しいですもんねえ……。そうかあ、いわゆる「その年齢でしか出せない輝き」が、青春と呼ばれるものなのかな……。

それが、ドラマの中では「成長を見ることなく(刺されて)終わる」ということで、無念さや悲しさとともに、「閉じ込められた美しさ」を強調する効果があるのかもしれませんね。

おかざき:今だったら「パート2」とか「セカンドシーズン」とか作られそうですよね。

水野:ああー、出そう。あと私、このラストを知ったときに「いまこのドラマを放映していたら、Twitterが荒れそうだな」と思いました。

たられば:それは荒れていいんじゃないですかね。

水野:ですね(笑)。考えてみると、「人生に意味はあるのか」とか「このまま老いて死ぬのはいいのか」みたいなことを一所懸命考えるのにも、若さが必要ですよね。

20代とか若い年代でないと出来ないことなのかもしれないとも思いました。

たられば:ひとつ思うのは、このドラマ放映当時(1994年頃)、世の中にはまだインターネットもSNSもなかったので、若い人は特に「将来自分どうなるか」を知る手段のハードルが高かったですよね。

いろんな意味で無知でいられて、だから可能性を信じることができた。この点、いまの若い人は大変だなあと思います。「パッとしないまま老いてゆく可能性が高い」と知る機会が多すぎるという。

水野:いまは参照できる情報が多すぎますね。

先ほどTwitterの感想を見ていたら、お二方から「『若者のすべて』のラストは、『鳥人戦隊ジェットマン』(1991-1992年)の最終話を思い出しました』というツイートがありました。お分かりになりますか?

たられば:いや、残念ながら見たことがないです。へーそうなんだ、見たいなジェットマン。

「カツ丼が美味しかったから」

水野:これで全員の挙げた作品のトークが終わりましたが、いかがでしたか。

たられば:それぞれ個性が出ますね。『ブラック・ジャック』を挙げる人がいるかなと思いましたが、いませんでした。

おかざき:やっぱりお医者さんだと近すぎるというのがあるんじゃないですかね。

たられば:たしかに。ブラック・ジャック、無免許だし。

水野:そのほかタイムラインで挙げられた作品のなかで、気になったものはありますか?

おかざき:peccaさんが挙げられていた、『ムーンライト・シャドウ』(吉本ばなな著)は、わたしも挙げようかなと考えていた作品でした。
たられば:ああ、『キッチン』の単行本に収録されていた作品ですね。

おかざき:そうですそうです。これは吉本ばななさんがインタビューで仰られていたのですが、吉本さんはこの頃、「喪失からの再生」をご自身の創作のテーマに挙げられていて、「自分はまだ人生経験が足りないので、喪失を【死】で表現してしまうのだけど、いつか【死】以外の方法で喪失を表現したい」という趣旨の話を語ってらっしゃいました。

たられば:うーん、なるほど。

おかざき:すごくきれいな作品なんです。死の匂いがあるんですが、喪失を抱えた男女がそれぞれ離れたところにいて、相手の男性がひとりで辛い思いを抱えていることを知った女性が、あまりにも美味しいカツ丼を食べたので、そのカツ丼を届けに行く、という作品です。

たられば:大事ですねえ、凹んだ時のカツ丼。

おかざき:あまりにも美味しいカツ丼。

水野:大事です。

※おわび:スペース内では『キッチン』に収録されている『満月――キッチン2』を紹介してしまいました。『ムーンライト・シャドウ』は、「死者ともう一度会えるかもしれない」という〝月影現象〟について語り合った、愛する人を亡くした女性が主人公です。大変申し訳ありませんでした。


おかざき:あとは、南天さんの『日出処の天子』と『馬屋古女王』。これはどちらも山岸涼子先生ですね。
 
おかざき:それから『赤毛のアン』(L・M・モンゴメリ著)を挙げてらっしゃる方が何名かいらっしゃいましたね。
水野:自分が元気な時とか社会が平和な時って、人が次々に死んだり世界が不幸に襲われたりする作品でも「くぅ、頑張れ」と思って読めます。

でも元気がなかったり世の中でひどく理不尽な事件が起こった直後だったりすると、「せめて物語のなかだけでも……」と癒しの作品を求めてしまいますよね。

おかざき:ですねぇ……。

たられば:『赤毛のアン』、冒頭の、アンが孤児院から引き取られて家へ向かう途中、夕闇のなか馬車に揺られながら早口でまくしたてるシーンがあるじゃないですか。

水野:ありましたね。

たられば:子どもの頃、初めて読んだ時は「アンは希望に満ち溢れているんだろうなあ、だからこんなに早口で想像力豊かに、思いついたことを全部話すんだろうなあ」と思ってたんです。

でも大人になってから、あの作品の舞台であるカナダのプリンスエドワード島の緯度を知って、「あれ?」と思って当地の夏の日没時間を調べてみたら、あの島の日没時間って、夜の9時くらいなんですよね。

水野:えっと……それはつまり?

たられば:日本で「夕闇のなか、馬車に乗せられて田舎道を連れられてゆくシーン」を想像すると、どこかこう牧歌的で呑気なイメージが浮かぶと思うんですけども、実際の、少なくとも作者の意図としては、もうちょっと「アンの感じる不安さ」を演出したかったんじゃないかなと思うんです。

11歳の少女が知らない町に一人でやってきて、初対面のおじさんの馬車に乗って知らない家に行く、あたりは日が暮れてゆく、それが日本のイメージだと午後6時くらいだけど、実際の舞台だと午後9時くらいというのは、読者が受け取る「不安さ」のレベルが違うだろうなあ……と。

小説から受け取るイメージって、その文章が書かれた風土からも影響されるよなあ……と思った作品でした。

おかざき:面白いですねー。『赤毛のアン』はアニメ版を高畑勲さんと宮崎駿さんが手がけていて(監督は高畑勲、レイアウトと場面設定を宮崎駿が担当)、で、高畑さんと宮崎さんはおそらく、いまたらればさんが仰っていた場面を、たらればさんとは180度違うイメージで描かれているんですね。

アンが道端の花を見つけて、その花がふわーっと広がってアンを空へ持ち上げて……と、アンの想像力が広がってゆく壮大なシーンになっていて。

たられば:ほほーそうかあ……、本当に真逆ですね。作家はすごいなあ。

おかざき:ちなみにこのアニメ版アン役の声優さんは山田栄子さんで、その山田さんと最終オーディションで競ったのが、のちに『ルパン三世 カリオストロの城』でクラリス役に抜擢される島本須美さんだったそうです。以上、オタクのうんちくでした。

たられば:オタクのうんちく、なんてお役立ちな…。

おかざき:クソオタクなので。

たられば:「クソ」って接頭語なんだなといま気づきました。

「死んだあと、ツイートを消したい?」

おかざき:あとは『人魚の森』(高橋留美子著)を挙げてらした方が。
たられば:普段は「死にたくない」と思っていても、「おまえはもう死ねない」と言われたら困るんでしょうねえ。

おかざき:満足に生きることができたら、安らかに死にたいですしねえ。でもそれが一番難しいでしょうし。

水野:現代はなんとなく「そういう感じ」に近づいてきてますよね。

たられば:あのう……。皆さんは「死んだあとのツイート」ってどうされたいですか?

おかざき:え、っと……、どうするもこうするも、死んだらそのままでは……?

たられば:「消してあげるよ」って言われたら消しますか?

というか「あなた、もうすぐ死にますよ」と分かったらいろいろ準備すると思うんですが、その中に「過去ツイートを消す」というのは入るかなあと。

ちなみにわたしは消してほしいなと思うんですけども。

おかざき:あー……わたし、一時期まで古いツイートはいちいち消してました。残したくないなあと思って。

でもあるとき、友達との会話は消したくないなあと思って、それからは残すようにしています。

水野:わたしは、そもそも(署名)記事も残りますし、ポッドキャストも残っているので、今さらツイートだけ消しても仕方ないし……。

それよりたらればさんが「ツイートを消したい」と思っているのが意外でした。なんで消したいんですか!?

たられば:え、ええと、「消したい」という人のほうがスタンダードだと思ってました。

だって過去の発言って、恥ずかしいでしょう。死んじゃったら過去の発言に対してフォローも修正も出来ないわけです。今とは全然違う考えなのに。

水野:確かに、数年前のツイートを読むと、自分のつぶやきなのに考えが全然違うことありますよね。

たられば:完全に他人です。「何言ってんだこいつ」と思う。

とはいえ、先ほどのおかざき先生の仰った「友人とのやりとりもあるから」という考えは、よくわかります。うーん、なんだか人生についての考え方と近くなってきたなあ。

おかざき:わたしは「ツイートを残す(消さない)」と決めてからは、なるべく感情的なことは書かないようにしました。感情は変わるものだし、変わることを残るところに書くのもなあと思うので。

たられば:見習いたいなあ……。

おかざき:まあでも、人のそういう感情的な言葉は読みたいんですけどね。

たられば:ズルい!!

水野:たらればさんの「徳を積みましたなー」(電車で席を譲るなど誰かにやさしくした人に贈ることば)とか、言われたことがある人は残してほしいんじゃないですかね。

たられば:うーん、それは確かにそうかもしれませんね……。

「言葉」は受け取った人のものでもあるので、こちらの一方的な都合で消してしまうのも無責任な気もします……。
たられば:おかざき先生は、たとえばご自身の作品を何十年も何百年も残ってほしいと思ってらっしゃいますか?

おかざき:うーん……。読んだ人と、その一親等くらいの人たちが楽しんでくれればいいかな…と思うくらいです。

たられば:芥川龍之介は『後世』という作品で、百代ののち、自作が古本屋で積まれていたり図書館の隅に置かれて、たまたま手に取った人の心に朧げながら「私の蜃気楼」が浮かび上がることを夢見ている……というようなことを書いていますね。

おかざき:そこはマンガと文学の違いがある気はしています。自分のなかで「マンガは時代と寝てなんぼ」という思いがありますし。

水野:将来、わたしのような人間がおかざき先生の作品を読んで勇気をもらう、ということはあってほしいと思いますけどね。

たられば:『サプリ』を読んで励まされる若手社員、居てほしいですね。

水野:私たちが語り継ぎましょう。

たられば:いやあ……生老病死からずいぶん離れたかなと思っていましたが、最後に戻ってきた感じがしましたね。

水野:本当に、戻ってきました。皆さま、「物語と生老病死」いかがでしたでしょうか。

繰り返しになりますが、本イベントは「SNS医療のカタチ2022」の告知イベントでもあります。今年も配信イベントをお送りする予定ですので、公式アカウント(https://twitter.com/SNS41010441)をフォローして、最新情報をご確認くださいませ。

たられば:なにとぞよろしくお願いいたします。いやあ、面白かった。全然締まっていない感じがいいですね。またぜひやりましょう。生きるってそういうことなのかもなあ。
<連載「物語と生老病死」はこちら> ※この記事は4回目です
連載①鬼たちは会社員?無惨の〝パワハラ会議〟「鬼滅の刃」で語る生老病死
連載②理不尽に投げ込まれる「死」 児童書や「火の鳥」で語る〝生老病死〟
連載③葬儀は生きている人のため? 『葬送のフリーレン』で考える死と老い

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