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連載

#3 ウェブメディア祭り

「10年で景色は変わる」 たらればさんと考えるニュースの未来

〝スナックコンテンツ〟がほしい時も…

岐路に立つウェブメディアの未来について、雑誌や情報サイトの編集を担当してきた「たられば」さんと、新聞記者からウェブメディア「withnews」の編集長になった水野梓が語りました
岐路に立つウェブメディアの未来について、雑誌や情報サイトの編集を担当してきた「たられば」さんと、新聞記者からウェブメディア「withnews」の編集長になった水野梓が語りました

目次

紙からウェブへ、発信方法が変わる中で、マスコミの「お作法」も変化を求められています。読者のニーズに、メディアはどう寄り添っていくのか。岐路に立つウェブメディアの未来について、雑誌や情報サイトの編集を担当してきた「たられば」さんと、新聞記者からウェブメディア「withnews」の編集長になった水野梓が語り尽くしました。

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【連載】「ウェブメディア祭り」

withnewsでは、編集長の交代をきっかけに、これからのメディアを考える「ウェブメディア祭り」を開催しました。ライターや編集者・プラットフォームのみなさんと語り合った各セッションの採録記事をお届けします。

たらればさん:情報サイトの編集長。だいたいニコニコしている。ツイッター( @tarareba722 )では20万人超のフォロワーを持ち、時事問題から大河ドラマ、古典まで広く発信している。
たらればさん:情報サイトの編集長。だいたいニコニコしている。ツイッター( @tarareba722 )では20万人超のフォロワーを持ち、時事問題から大河ドラマ、古典まで広く発信している。
水野梓:withnews編集長。2008年に朝日新聞入社。大分→新潟→大阪編集センター→科学医療部・医療サイトアピタル→メディアデザインセンターを経験し、現職。
水野梓:withnews編集長。2008年に朝日新聞入社。大分→新潟→大阪編集センター→科学医療部・医療サイトアピタル→メディアデザインセンターを経験し、現職。

「特権階級」と「独立愚連隊の隊長」

水野:私は6月からウェブメディアの編集長になったのですが、雑誌などの紙媒体とウェブメディアとでは、編集長の役割はどう違うと、たらればさんは思いますか。
たられば:これまでの「紙」の編集長って、「特権階級」でした。「雑誌コード」という限られた会社に与えられた資格を持って、特権的に振る舞いながら(ここ、もちろんイヤミかつ皮肉です)、最大限のパフォーマンスを出す役割だったんです。

それに対してウェブメディアの編集長は「独立愚連隊の隊長」。自由度は高いけど、自分で選ばないといけないし、砦を築かないといけない。

この二つは、だいぶ違うと思っていたんですけど、いまは一周回って共通点も結構あるなと思ってます。

僕は紙の編集長をやってから、書籍を作り、ウェブメディアの編集長になりました。

紙の編集長の時は、雑誌自体が役割を変えつつある時代だったので、大変でしたが、「幸せだな」と思ってました。

雑誌って、読者全員があらかじめお金を払ってくれた方なんです。「ここには価値のあるものが書いてあるはずだ」という前提で読んでくれている。愛されていることが確定している。

ウェブメディアは逆で、何がおもしろいかは自分が決めるという人たちに対して、球を投げ続けなければいけない。

水野:逆に、お金を払ったからこそがっかりされることもありませんか?
たられば:有料イベントと似ていて、お金を払ったお客さんの方が熱中しやすいし、楽しんでくれる。満足度のハードルが全然違うと思います。

「気持ち」を書かない訓練

たられば:水野さんの新聞記者という職域はすごく特殊ですよね。私は好きだけど。

WOWOWドラマの「TOKYO VICE」を見ました。1999年の東京を舞台に、アメリカ人が日本の大手新聞社に記者職で入社する話です。そこで記事を書く訓練をするんですが、紙面担当者に罵倒されるんです。「おまえの気持ちを書くな」と。「事実を書け」と。

そういう訓練を経ないと、人間は気持ちを書いちゃうものです。でも新聞では自分の気持ちを書くのはNG。訓練を積んだ上でなお、出る「気持ち」ならいいけど、それ以外は排除されるべき、という思考の上で、特殊なライティング技術を身につけた人たち。それが、毎年数百人レベルで日本で生み出され続けてきたんです。

ドラマ「TOKYO VICE」で、日本の大手新聞社の社会部記者役を演じたアンセル・エルゴートさん(左)。渡辺謙さんはベテラン刑事役=工藤隆太郎撮影
ドラマ「TOKYO VICE」で、日本の大手新聞社の社会部記者役を演じたアンセル・エルゴートさん(左)。渡辺謙さんはベテラン刑事役=工藤隆太郎撮影 出典: 朝日新聞社

でも、その時代は恐らく終わります。

似た状況は雑誌編集者にも起こっていて、間もなく成り立たなくなれば、そういう訓練もなくなっていく。

新聞記者も、雑誌編集者も、特殊な訓練を受けた人は、今すごく重宝されている時代です。ウェブメディアでも取り合いになっているのが現状。

恐らく5年か10年ぐらいで、そういう組織的な訓練を受けた人たちがいなくなるので、また、新しい別のフェーズが始まるんだろうなと思って見てます。

新聞記者になって高校野球の予選結果をひたすら人力で書くとか、そういう訓練を受けていない人がウェブライターになったとき、ニュースの景色は変わると思う。

いま、読者が当たり前に受け取っているものの多くは、すごい訓練の下地があって成り立っているものだった。訓練された人が目減りしていく中で、どうなるんだろうな。この状況は、ちょっと心配した方がいいのかなと思っています。

登壇したたらればさん。ツイッターのプロフィールと同じ「イヌ」の耳をつけた
登壇したたらればさん。ツイッターのプロフィールと同じ「イヌ」の耳をつけた

「トクオチ」と「アテンション・エコノミー」

水野:SNSや無料メディアが増えて「読んでもらうために目立たないといけない」という競争になりがちな状況(アテンション・エコノミー)について、どう思いますか。
たられば:1990年代、小室哲哉が売れ始めた頃に「これからは最初にサビをもってこないとダメ」と言われていて、それが20年経った今も続いている。最近だとさらに「前奏無し」と言われます。

だから、ウェブメディアでもこの状況はずるずる続くと思います。「アテンション・エコノミー」がヤバイと言うけど、新聞社が「トクオチだ!」(他社に出ているニュースが、自社にだけ出ていない状態。トクダネの反対)とか騒いでいたのと本質的には同じだと思う。

新聞記者の「壁耳(かべみみ)」ってあるじゃないですか。
訓練を受けた記者たちが、(非公開の)政治家が集まる会議室前に折り重なって、壁に耳を当てている姿を初めて見たときに、「何かおかしいんじゃないかな」と滑稽に見えた。

恐らく「アテンション・エコノミー」も過剰になると、似たおかしさが出てくるはずです。

既存の新聞社、出版社、雑誌社もやってはいけないことをやってきて、だいぶ行政に怒られたり、廃刊になったり、記者が懲戒免職されたりして、姿を変えている。

全般的に世の中は良くなっていると思うし、インターネットがあったおかげで世界は広がっていると、僕は楽天的に見ているんです。「アテンション・エコノミー」の危険性もあり、この勝負を続けるのもしんどいなとも思うんだけど、きっと良くなっていると思う。

どんな気持ちに寄り添うか

水野:たらればさんが、紙メディアからウェブメディアの編集長になった時、どう感じましたか?
たられば:腹をくくるしかないな、というのはあったけど、一番はわくわくしていた。成長産業ですしね。

いま激動の時代じゃないですか。一番、波の舳先(へさき)で、それを受け止められる、こんなおもしろいことないだろうなと。会社の金を使って、給料をもらいながら。
水野:withnewsはテーマが広めのウェブメディアですが、たらればさんのサイトはテーマを絞ってますよね。
たられば:ジャンルは違っても、「おもしろいことをやれば良い」というのと、「たくさんの人に読まれたい」っていうのは、どちらも同じ。

むしろ大切なのは、ジャンルとか方向性よりも、「読者のどういう気持ちに寄り添って、このコンテンツを作りたいか」っていうこと。特にインターネットでは。

読者の怒りか、哀しみか、おもしろくなりたい気持ちか、どの気持ちに寄り添ってコンテンツを作るか。

これは半分、シャープ公式さん(@SHARP_JP)のパクリなんですけど、だいたいの人はネットを見るとき、孤独なんです。布団の中で見てたり、電車の中で「会社行きたくないな」と思ったりしながら見る。シャープさんは「一人の気持ちに寄り添うツイートを心がけている」と言っていた。ネットメディアも近いなと思ったんです。

対談するたらればさん(右)と水野
対談するたらればさん(右)と水野

「好き」が生むクリエイティブ

たられば:最近、やっと映画を見に行けるようになって。「シン・ウルトラマン」最高ですよ! 豊かな情報って、こういうんだなって思いました。

「何かを好きである」ということが創作のきっかけとして、さらに重要になっていくと思っていたんですけど。

あのトップクリエイターの庵野監督でも「ウルトラマンが好きだ」っていうメッセージが、最大出力なんですよ。

「怪獣が好きだ!」「特撮が好きだ!」って、観客はぼこぼこにされる感じ(笑)

何かを「好き」という気持ちがあれば、クリエイティブ作業は成り立つし、どんどん豊かになっていくんだと、改めて感じる作品でもありました。

水野:記者も「好きを大事にする」方がいいですか?
たられば:冒頭に申し上げた通り、新聞記者の方は「気持ちを入れるな」と言う訓練をされる。

僕が新聞記者を好きなのは、そういう二律背反を経ているからなんです。気持ちを込めていいのか、込めちゃいけないのか、その葛藤を経ないまま、だらだら出ている「好き」は、ダメなんです、恐らく。

その葛藤を愛している人は、案外多いし、そういう相反する気持ちの中でクリエイティブは生まれるのかなと思います。

「好き」を書く新聞記者に

水野:確かに、新聞は記事のファクト部分に「好き」を書くのはよくないですよね。

私はポッドキャストもやっているんですが、「好き」を記者が語ると、リスナーさんから反響があって、「意外と出してもいいのかな」と最近ようやく、思えるようになりました。

withnewsはその「好き」を大事にして記事を書いてもらっています。記者の関心やモヤモヤから、記事が生まれることも多いんです。

たられば:いい話ですね。何かを「好き」というのが一番、今の世の中で、その人を認識しやすくするんですよね。SNSが広がったことで、「モブ」が可視化されたんです。一気に何万人を見られる中で、一番認識しやすくなるのが、この人は何が好きで何が嫌いかということです。

編集長は怒るよりもマニ車を回せ

水野:たらればさんは、SNSアカウントとご自身のニュースサイトの方ではどうモードを変えていますか?
たられば:めちゃくちゃ変えてますね。僕はたらればみたいな、あんないい「人」……、いい「犬」じゃないです。
水野:私、よく怒ってるんで、編集長になって大丈夫かな? と思っています。
たられば:あーーー……怒っても、ほんっと、なんもいいことないですよ。「ため込むのは良くない」っていうのはうそですからね! 怒れば怒るほど、怒りを静めるのが下手になります。ほんと良いことない。マニ車(チベット仏教で用いられる仏具)を回すくらいがいいですよ。

「怒られているうちが花だよ」って言葉は嫌い。普通に伝えれば良いだけですよね。

でも、これをポリシーにしてたんですけど、withnewsのイベントでは俳優のんさんが「私は怒りを大事にする」って言ってましたね(笑)

マニ車を回す(写真はイメージ=GettyImages)
マニ車を回す(写真はイメージ=GettyImages)

「コントロールされた料理」とバランス

水野:オンラインでニュース取材から発信まで可能な時代。なにか気を付けていることありますか。
たられば:新聞社も、出版社も、伝統メディアは「料理」を作りたがる。500字の原稿とか、超難しいじゃないですか。だから作り込もうとするし、飾りたがるし、練り込みたがる。

でも「たぶん、これ求められてないな」って最近感じます。

某コンサルから「スナックコンテンツも大事」って聞きまして。

通勤中にちょっと、ぱくっとつまみたいという時に、熱い思いがほとばしる5000字の原稿は、重い。5000字が不要だと言っているわけではないですよ。

恐らく、ポテトチップスも必要だし、凝ったフランス料理のコースが必要な時もある。編集長は、これをコントロールすることになる。

我々は特に、僕は出版社の編集長、水野さんは新聞社の編集長。

葛藤は近いうちにあると思うけど、インターネットはもともと個人と個人をつなぐ仕組みで、それは「不完全なものである」ということが前提なんです。「変わり続ける可能性が高いものをより尊重する世界」と言い換えてもいいかもしれない。

YouTuberを見るとよく分かるんですけど、あえてスマホで手ぶれして撮った方が良いという現実がある。

世の中には、「コントロールされた料理」だから嫌だという人もいる。その一方で、おそらく、簡単に食べられる物の方が良い、という人が多い。

その状況を踏まえて、我々はどうすればいいか。

そうは言っても、良い物を食べさせたいし、栄養のある物を食べさせたい。その線引き、区分けをしていかないといけないなというのは、責任を持って思います。

水野:withnewsだと、ほっこりニュースだと思って読み始めると、実はその中に大切なメッセージがほんのり入っている……そんな「味付け」を変える試行錯誤をしています。
就任祝いのお花を水野にプレゼントしてくれた、たらればさん
就任祝いのお花を水野にプレゼントしてくれた、たらればさん

巨大な遺産、最後の世代

水野:新生ウィズニュースに期待していることってありますか?
たられば:めちゃくちゃありますよ。「朝日新聞withnews」というメディアが、朝日新聞に軸足を置くのか、withnewsに軸足を置くのか。水野さんがどうするのか楽しみに見ています。おそらく、巨大な遺産がある「新聞社」という組織の、最後の世代だと思う。

10年後は違う世界になっている。だからこの10年をどう乗り切って、その財産をどう使うのか、興味深く見ています。がんばってください。
水野:たらればさんに、withnewsは、記者の「好き」があっていいと言われて励まされました。
たられば:朝日新聞の冠がついているのに「好き」を大事にしている、そこに異質性があると思っています。それを大事にするなら、とことん大事にしてほしい。

何かを好きでいることが、人生の祝福であるようなメディアであってほしいなと思います。
水野:編集長として、まず「怒らない」、そして「好き」を大事にしていこうと思います。そうすれば編集部員の好きも大事にできると思うから。withnewsをさらに素敵なメディアにして行ければと思います。

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