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連載

#96 コミチ漫画コラボ

娘の自転車練習、手を離した父の反省…「子育て漫画描いてよかった」

自身の言動について反省できたのは、子どもの言葉を振り返る時間があったからです

ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より
ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より 出典: コミチ

目次

娘の自転車の練習中に、支えていた手をよかれと思って離した父親。補助なしでスイスイ走る姿に感動します。娘もうれしいに違いない。そう思っていたところ、娘は顔をしかめて「ゆるさない!」と思ってもみない反応を見せました。動揺した父親は、そのエピソードからの〝気づき〟をマンガにしました。

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喜ぶ父親の横で、娘は

作者は、会社員として働きながらSNSにマンガを投稿しているひとりさん(@hitorie1983)です。娘(愛称:ぽんすけ)との日常を描いています。

今回描いたのは、娘が7歳のときの自転車練習のエピソードです。

ひとりさんのサポートのもと、近所の公園で補助輪なしの自転車に挑戦しました。

練習初日、娘は自転車の後ろを支えられながらもうまくバランスを取ることができません。もたつく横を、年下と思われる子どもが颯爽(さっそう)と自転車で通り過ぎます。

「クラスでね、じてんしゃのれないの ぽんすけだけなの」。帰る道すがら、娘はうつむきました。

その後の練習でも、ひとりさんに自転車を支えてもらいペダルをこぐ娘。少しバランスは取れてきたようですが、「ぜったい ぜったい はなさないでね」と念を押します。

タイミングを見計らってひとりさんが自転車を離すと、そのままスイスイ走っていきました。

「乗れてる乗れてる!」「やったね!」と喜ぶひとりさん。しかし、娘は「なんで はなした」としかめっ面です。

予想外の反応に動揺しましたが、次からは離さず練習を繰り返しました。すると、娘に変化が……。

ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より
ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より 出典:コミチ

「私はできない」を刻ませたくない

娘が自転車に興味を持ったのは、周りの友達がどんどん自転車デビューしていたことがきっかけでした。保育園のときにペダルのないランニングバイクを買ったものの、数回乗っておしまい。今回は自ら「自転車がほしい」と言い始めたそうです。

「親主導でできるようになったほうがいいよ、やったほうがいいよではなく、自然な欲求でやりたいといってくれたチャレンジ精神がうれしかったです」。ひとりさんはそう振り返ります。

ただ、練習を始めても思ったように進まず、「じてんしゃのれないの ぽんすけだけ」とうつむく姿を見て胸が痛みました。

「もっと乗れると思っていたのに、自分は乗れるのか心配な気持ちになっていたのかも。自分より小さい子が自転車で走っていく姿をうらやましそうに追っていて、見ていてつらかったです」

普段から負けず嫌いな性格というわけではないようですが、「『みんなができることができない』というコンプレックスがあったのかもしれません」と推察します。

「できないことがあってもいいのですが、『がんばったって私にはきっとできない』という気持ちが刻まれるようにはしたくないと思いました」

ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より
ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より 出典:コミチ

「なんで はなした」と言われたのはなぜだろう

マンガで描かれているのは、自転車の後ろを支えてタイミングを見て離す、練習の過程で多くの親子が通る、珍しくない場面です。

ひとりさんは、手を離して1人でペダルをこぐ娘を見て、とてもうれしかったと話します。だからこそ、そのあとで出た「なんで はなした」という娘の言葉に驚きました。

「とがめられるように大声で『なんで はなした』と言われました。乗れたのに怒るなんて、ギャップがおもしろいなと思って当時はそのことをマンガにしようと思っていました」

しかし、マンガを描こうと自転車練習の思い出を振り返ったとき、ふと手が止まりました。

「マンガのプロットを頭で考えながら、そのエピソードをオチにするのは子どもに申し訳ないことをしているんじゃないかという気持ちになりました。嫌だったからそう言ったんだよなと」

「僕だったら乗れたことを喜んじゃうので、気持ちがわからなくておもしろいと思った。でも、嫌だったという意思表示なんだよな、なんで嫌だったんだろうと考えさせられたんです」

ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より
ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より 出典:コミチ

約束を破ってしまった

「約束を守ってもらえず、ショックだったのかもしれない」

娘の気持ちを考えた結果、ひとりさんは一つの答えにたどり着きました。

「『ぜったい ぜったい はなさないでね』という言葉は、子どもにとって強い希望だったんです。でも、乗れそうだったからといってお父さんは離した。約束を破ってしまいました」

親に約束を守ってもらえなくてショックだった経験は、ひとりさんにもあります。お年玉をためてくれると言ったから親に預けたのに、通帳を開けてみたら全然たまっていなかった苦い記憶です。事例は違っても、信頼していた親に約束を守ってもらえないショックは共感できました。

「子どもにとって一番身近にいる大人が、これだけ強く言ったことを破ったとなると、次の時に信頼して身を預けられなくなると思われたと思います。親が子の約束をどれだけ真剣に守るかということは、普遍的なテーマかもしれないと考えました」

「娘との約束を守ってあげないといけない」。そう思い、次の練習では支えた手を離しませんでした。

しばらく一緒に練習していると、娘が「そろそろ自分で やってみる!」と宣言し、見事1人でこぎだしました。

ひとりさんは「子どもは子どものタイミングでちゃんとがんばってくれるんですよね。親から見てできると思うと、つい背中を押してしまいたくなるけど、待ってあげた方が自分の意志でがんばるんだなと教えてもらいました」。

「これは親側の成功体験でもあります。子どもがあきらめていたら、やっぱり親がやらせないといけないんだという気持ちになっていたかもしれません。得意とは言えない領域のことでも、最後は自分の力で達成してみせてくれました。ちゃんと見守ればこの子は自分でがんばってくれると思えたのは子どものおかげ。それが信頼だと思います」

いまではスイスイ自転車を乗りこなしている娘。親子で自転車で出かけることもあるそうです。

娘のぽんすけさんは「お父さんと一緒に近所をぐるって回ったり、公園に行ったり、たまにサイクリングをして楽しい時間を過ごしています」と笑いました。

ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より
ひとりさんのマンガ「子どもの自転車練習」より 出典:コミチ

子どものエピソードを発信するということ

娘が5歳のときにマンガを描き始めたというひとりさん。在宅勤務中のエピソードや娘の言い間違いなど、日常のささいな一コマをマンガにして発信しています。マンガは公開する前に家族に見せて相談しているそうです。

SNSではたびたび、親が子どもについて発信することの是非が話題になります。マンガであろうとテキストであろうと、プロアマ問わず考えさせられるテーマで、ひとりさんも例外ではありませんでした。

「僕自身、最近また考えました。目の前の娘に、リアルなコミュニケーションの中で愛情を感じてもらうことが大事だと改めて思います。自分が一番アンテナを張っていないといけないところです」

マンガを発信する上で、「アウトプットすることが楽しいので、おもしろエピソードを拾って、よりおもしろく脚色して描いてしまう」こともあると打ち明けます。

ただ、「それが行き過ぎると、マンガにするために目の前の娘と接する側面が出てきてしまいかねない。それは気をつけなければ」と意識しているそうです。

一方で、子どもとのエピソードを発信することについては、「いい面が多い」と感じています。

「子どもとのエピソードをマンガにするようになってから、覚えていようという気持ちが強くなりました。ちょっとした一言とか、他人からしたらなんでもないことでも。子どものことをよく見ようという意識も芽生え、娘や妻に対して『今の一言、言ってよかったのかな』と考えるようにもなった。ルールやマナーができていれば、子どものことをエッセーにすることはあっていいという意見は変わっていません」

今回の自転車練習でも、自身の言動について反省できたのは、子どもの言葉を振り返る時間があったから。

「アウトプットしていなかったら子どもの抗議に気づけず、過ぎ去っていたかもしれません。マンガにして人に読んでもらうことを思うと、娘のセリフと僕の態度を客観的に見られました」

「でも、大きくなるにつれて、今まで描いて大丈夫だったことが描いてほしくなくなるということもあるので、成長とともに、関係性とともに自分の中でアップデートしていかないといけませんね」

ひとりさんのTwitter:https://twitter.com/hitorie1983

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