連載
#84 #となりの外国人
ロシア人へのヘイト、ウクライナ人YouTuberは黙っていられなかった
「合わせる顔がない、なんて言わないで」
ウクライナ危機をめぐり、日本でロシア人やロシア関連の店舗などに対する嫌がらせが起きています。
日本で暮らすウクライナ人YouTuberが「ロシア人みんながみんな戦争を応援している訳ではない」という動画を配信した理由を聞きました。
来日4年のウクライナ人ダリアさんは、自身のYouTubeチャンネルで日本語で動画を配信しました。
「ラナさん、『合わせる顔がない』ということは言わないでほしい。もちろんほとんどのロシア人が戦争を望んでいないということも知っています」
「ロシア人みんながみんな戦争を応援している訳ではないので、それを日本のみなさんには知って頂きたいです」
ダリアさんがこの動画を配信したのは2月27日でした。動画で言及している「ラナさん」とは、日本で暮らすロシア人YouTuber。ダリアさんとラナさんは、直近でも日本の魅力などをともに語り合うコラボ動画を配信していた仲でした。
メッセージは、ロシア人YouTuberのラナさんが26日に配信した動画に向けたものでした。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まったことを受け、ロシア人のラナさんは、ダリアさんらウクライナ人の友人の名前を挙げて、声を詰まらせながら語りました。
「私はロシア人としてはもう、みなさんに顔を合わせられない」
「ロシアが今していることは、すごい恥ずかしいとしか思わない」
「(ロシア軍が侵攻に踏み切った)24日、私はもうロシア人でいたくないと、初めて思いました」
そして動画では「私も含めて多くのロシア人がウクライナのことを応援している」「戦争を望んでいない」と自分の意見を伝えました。
各国で広がるロシア人への誹謗中傷。ウクライナ人YouTuberのダリアさんは「今の状況で一番怖いのは、二つの国の人たちがお互いを嫌うようになってくることです」と、自身の動画で訴えました。
ダリアさんはウクライナ人の父、ロシア人の母のもとで育ち、それぞれの国で暮らした経験から「二つの故郷」があると言います。
日本人との結婚をきっかけに来日した後は、「3つ目の家」である日本で、ロシアやウクライナそれぞれの文化や言語を紹介したいと、YouTubeを始めました。
ウクライナでダリアさんの家族が暮らす地域にも爆撃があったと、ニュースで地名を見た時は「心臓が止まるかと思いました」。
みんな無事か。育った家は無事か。
家族から「『空襲警報』が鳴り響いている」「『防空壕』が満員で……」と聞きました。
平和の時代に育った自分が、初めて知った戦争の単語の数々。ロシア語、ウクライナ語、日本語で訳しながら、それぞれの国のニュースを読み、双方の国にいる友人や親戚に聞いた「市民の状況や思い」をまとめた動画を作り、「私は私なりに力になりたい」と収益化せず、日本で発信してきました。
ダリアさんは、ロシア国内の報道の内容や、ウクライナへの侵攻といった事実について批判します。
「ロシアが人を救うための行動と報道しているニュースには違和感を覚える」
「一部の人を助けるためと言って、別の人を殺すと言うやり方は間違えている」
一方で、日本を含む他の地域でもロシア人市民に対する嫌がらせが起きていることに心を痛めます。
戦争を止めるため、国内外でデモに参加したり、請願を集めたりしているロシア人がいることも強調しました。
その人びとにとっては、逮捕されたり、職を失ったり、ロシアに暮らす家族を危険にさらしたりする可能性のある行為でもあります。
それでも行動を起こしている市井の人の行動に、ダリアさんは戦争を止めるための希望を見ています。
「それなのにロシア人だからと、一くくりに批判されるのは悲しい。ロシア人だからとヘイトされるのはおかしい」と取材に答えてくれました。
ダリアさんは動画で強く願いを込めました。
「戦争はとても恐ろしいものなので、一日も早く、今の争いを解決してほしい」
「みなさんに顔を合わせられない」と配信したロシア人YouTuberラナさんも、行動を起こしています。渋谷駅前で行われたロシア軍のウクライナへの侵攻に抗議するデモを取材した動画を配信しました。
ロシアに暮らす家族や友人に聞くと、ロシア国内の報道は、海外で知る情報とは違うことが伝えられていると知り、自分が知っている情報を伝えるようにしました。
一方で、言論への監視は日に日に厳しくなり、ロシア国内では逮捕される人もいます。日本で生活していたとしても、ロシア国民でロシアのパスポートで生活していれば、危険がないとも限りません。
もし逮捕されたら……。
「怖いですよね」と話した筆者に、ラナさんは「それよりも、いま世の中に起きていることが一番怖いので。私はここでできる限りのことをやります」と答えました。ウクライナへの寄付も監視の対象になるそうですが、ウクライナ関連の動画の収益は何らかの形で還元したいと考えています。
ラナさん以外にも、日本に暮らすロシア人が次々と、YouTubeやSNSで「戦争反対」など思いを訴えています。それがどんなに難しいことか、日本で持っている感覚とは違う覚悟を、カメラの前に立つYouTuberたちの小刻みに震えた体から感じました。
一方で出身地がどこであれ、それぞれに祖国の状況に胸を痛め、日本での生活も危ぶまれていること、今ともに日本で暮らしている同じ「個人」であることを忘れたくないと思います。
「外に出て、人と目を合わすのが怖い。仕事のメールも『ロシア人でごめんなさい』と思って送っている」とおびえながら仕事をする人もいました。親がロシア人で日本の学校に通っている子は、教室で「ウクライナ危機」が話題に上がり肩身の狭い思いをしていました。
ツイッターや動画のコメント欄で個人をなじる言葉も見かけます。でも、こんな時だからこそ、辛い状況に胸を痛めている隣人として、寄り添い、一緒に考えることから開ける未来があると信じたいです。
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