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マンガ

「競技かるた」一変させたマンガ 「私、1枚取るし」伝説の原画展示

圧巻の作品をかみしめた「ちはやふる展」

展覧会の開会前日に訪れた『ちはやふる』作者・末次由紀さんのサインも……。スノー丸がのぞいています=水野梓撮影
展覧会の開会前日に訪れた『ちはやふる』作者・末次由紀さんのサインも……。スノー丸がのぞいています=水野梓撮影 出典: ©末次由紀/講談社

目次

どんな結末を迎えるのか気になるけれど、終わってほしくない……。そんなマンガのひとつ『ちはやふる』の原画展が1月17日まで開かれています。競技かるたに情熱を燃やすキャラクターたちの青春を、緻密な「原画」で一挙に振り返ることができ、描き下ろされたカラー作品など500点以上が見られます。withnewsのインタビューでうかがった末次さんの言葉とともに、記者が展覧会をかみしめてきました。

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ちはやふる:競技かるたに情熱をかける高校生たちの青春を描いたマンガ。主人公の綾瀬千早は高校で「競技かるた」部をつくり、高校選手権大会に出場。個人戦ではクイーンを目指す物語。
末次由紀:福岡県生まれ。1992年『太陽のロマンス』で「なかよし増刊」(講談社)に掲載されデビュー。2007年から「BE・LOVE」(講談社)で『ちはやふる』の連載を開始。2009年に同作で第2回マンガ大賞2009を受賞、「このマンガがすごい!2010」(宝島社)オンナ編で第1位。2011年、『ちはやふる』で第35回講談社漫画賞少女部門を受賞。単行本は2021年9月現在47巻まで発売、シリーズ累計2700万部を突破。

3人の縁が結ばれる1話目

入場してすぐに圧倒されたのが、「第一首」の原画がずらっと並んでいる光景でした。かるたを巡って千早・太一・新の3人の縁が結ばれる、ファンにとっても大切な1話目です。

かるたが得意な新と、素人の千早が初めて対戦するあのシーンも見どころです。
貴重な1話目のカラー原画も展示されています=水野梓撮影
貴重な1話目のカラー原画も展示されています=水野梓撮影 出典: ©末次由紀/講談社
この夏、withnewsがおこなったツイッターSpacesでのインタビューで、末次さんはこんなことをお話しされていました。
私としては0-25で負けることを想定していたんですね。でも描いている途中で千早が「私、1枚取るし」と、「せをはやみ」を取ってくれた。

作者に動かされているのではなく、千早というキャラクターの性格が輝いている、生きている感じがしました。

ガチで競技かるたを描いて、どれくらい読んでもらえるか分からないけれど、自ら動くキャラクターと出会えた。それが作品の命になったという気がします。(withnews末次由紀さんインタビュー<『ちはやふる』作者が明かす、冒頭シーンの意味「私、1枚取るし」>より)
当初は、少女マンガでの「競技かるた」連載がどれだけ共感を呼ぶか手探りだったようですが、連載の人気とあわせて、この10年で競技かるた人口はおよそ3倍にも増加し、100万人にのぼるともいわれます。

「競技かるた」を知ってもらう構成

作品を振り返る構成になっている展覧会ですが、そんな「競技かるた」の魅力をさらに知ってもらいたいという思いも強く感じられました。

「第二章」の展示スペース中央では、新と千早の対戦のかるたの配置が畳の上に再現されています。
再現されている高校選手権団体戦3位決定戦の、新と千早の初期の配置=水野梓撮影
再現されている高校選手権団体戦3位決定戦の、新と千早の初期の配置=水野梓撮影
改めて見ると1枚1枚の小ささに「この隅を突くのか…」と感じ、ふたりの激闘を思い返します。

普段なかなか聞くことのない、専任読手の音声が流れているエリアも。末次さんがインタビューで「好きな歌」と話していた「逢ひ見ての のちの心に 比ぶれば 昔は物を 思はざりけり」も流れます。
ひとつのことを知ったとき、その前と後で、細胞が全部入れ替わるような、世界ががらっと変わってしまうような瞬間が、人にはいい意味でも悪い意味でもある……。それをすごく美しく切り取った歌だなと感じました。
(withnews末次由紀さんインタビュー<『ちはやふる』作者が明かす、冒頭シーンの意味「私、1枚取るし」>より)

励まされる「名言」シーンを肉筆で

展覧会では、千早をめぐる新と太一の思いや、周防名人・クイーンの詩暢の抱える孤独さなど、それぞれのキャラクターにもフォーカスします。

記者は特に太一が好きなのですが、かるたの師匠・原田先生から「絶体絶命を愛せよ」と励まされるシーンの原画には思わず涙してしまいました。

まるで自分にもエールを送られているような「名言」が多いのも作品の魅力ではないでしょうか。
末次さんのパートナーも太一が好きだそう。「才能に頼らないで、まっとうな努力をしている。天才型がいっぱいいる中で、かるたにかじりついているところが人間味があって好き」と話していたそうです=水野梓撮影
末次さんのパートナーも太一が好きだそう。「才能に頼らないで、まっとうな努力をしている。天才型がいっぱいいる中で、かるたにかじりついているところが人間味があって好き」と話していたそうです=水野梓撮影 出典: ©末次由紀/講談社
単行本を読み返していつも泣いている部分。肉筆のオーラにはさらに圧倒されました(ファンはハンカチ必須でいきましょう)。

カラーイラストの繊細な筆遣い

そして圧巻だったのは、後半のカラーイラストの展示です。この展覧会で初めて展示されるイラストもあり、繊細な筆遣いに思わずため息が出ます。
出典: ©末次由紀/講談社
さらに貴重な「ネームノート」も公開されています。
シャープペンシルでほぼ下書きのように描かれたネーム。現在はデジタルに変わっています。末次さんが百人一首の資料を末次さんがまとめたルーズリーフも展示され、ひとつひとつが可愛いイラスト入りで「末次さんの解説で古典を勉強したらすっごく楽しそう…!!」と感じます=水野梓撮影
シャープペンシルでほぼ下書きのように描かれたネーム。現在はデジタルに変わっています。末次さんが百人一首の資料を末次さんがまとめたルーズリーフも展示され、ひとつひとつが可愛いイラスト入りで「末次さんの解説で古典を勉強したらすっごく楽しそう…!!」と感じます=水野梓撮影 出典: ©末次由紀/講談社

勝負の行方をハラハラ見守る

気になる作品の結末について、インタビューで末次さんは「マンガを描いてはいますけど、『勝敗の運命を決める神様の位置』には絶対にいきたくない」と話していました。
マンガのキャラクター4人と話し合えば話し合うほど、みんな「私が勝つし」と言うし、全く分からないんです。
(withnews末次由紀さんインタビュー<『ちはやふる』結末、作者に直撃「つらいけどしっかり考えないと…」>より)

多くの人が同時進行で『ちはやふる』を読みながら、手に汗を握って勝負の行方をハラハラと見守る……。

マンガを読んでいると、まるで自分も、あの近江勧学館・浦安の間で息をひそめて、千早と詩暢、新と周防名人の一挙手一投足に集中しているような気持ちになります。

それぞれが大切にしている1首とイラストがあわせて描かれた屛風=水野梓撮影
それぞれが大切にしている1首とイラストがあわせて描かれた屛風=水野梓撮影 出典: ©末次由紀/講談社

読むたびに、自分の背中をそっと押してもらえる「ちはやふる」の世界観にどっぷりとひたれる展示でした。

「みんなが創らせてくれた」

展覧会の最後、末次さんがインタビュー映像で『ちはやふる』の読者へ語りかける言葉がとても印象的です。

みんながこれを創らせてくれたんだよって どの絵にも思います みんなが連れてきてくれたんだよって」
今回のために末次さんが描き下ろしたカラー作品。山茶花と水引がモチーフで、アルコールインクを使っているそうです=水野梓撮影
今回のために末次さんが描き下ろしたカラー作品。山茶花と水引がモチーフで、アルコールインクを使っているそうです=水野梓撮影 出典: ©末次由紀/講談社
2007年から続く連載はクライマックスを迎え、新年には15年目を迎えます。これだけ長く深く作品が愛されるのは、「読者とともに」という末次さんの思いが伝わっているからだと感じました。
<ちはやふる展>
会期:2022年1月17日(月)まで ※1月1日は休業
場所:会場松屋銀座8階イベントスクエア
公式サイト:
https://chihayafuru.exhibit.jp/#pagetop
コラボメニュー:
https://www.matsuya.com/ginza/events/2021/1213/chihayafuru/
※福岡(北九州)、名古屋、神戸に巡回予定
【インタビュー前編はこちら】『ちはやふる』作者が明かす、冒頭シーンの意味「私、1枚取るし」
【インタビュー中編はこちら】『ちはやふる』作者が痛感した、デジタル時代の「マンガの可能性」
【インタビュー後編はこちら】『ちはやふる』結末、作者に直撃「つらいけどしっかり考えないと…」

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