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「肉を切れる人がいません」 副反応で欠員、スーパーの貼り紙が話題
「こんな社会じゃなきゃ、生きづらい」
新型コロナウイルスのワクチン接種による副反応で、急きょ、精肉担当の従業員が休むことになった青森県のスーパー。店長が精肉コーナーに掲げた貼り紙が「正直で好感が持てる」と共感を集めています。作った店長に話を聞きました。
画像には、ほとんど空っぽの精肉コーナーの棚に貼られた紙が写っています。
そこには、こんな文が並んでいました。
「精肉担当の従業員がワクチン接種の副反応で出勤できなくなったので本日の売り場はこんな感じです」
「本日当店には肉を切れる人がいません。ご理解のほどよろしくお願いいたします」
一見、よく店頭で見かけるような「お詫び」の文面とは違いますが、ツイッターのコメントでは、「こういうのでいいんです。出来ない時は出来ませんでいいのです」「とても正直で、むしろ好感がもてます」「このくらいの緩さで、許される社会であってくれ!」「こんな社会じゃなきゃ、生きづらい」などと共感する声が寄せられ、7万件以上のいいねがつきました。
半年ぶりのぴえん。 https://t.co/oct0ZlgMxm pic.twitter.com/ePRd3rJlM4
— スーパーエチゴヤ(個人商店) (@oohataechigoya) August 21, 2021
スーパーエチゴヤの3代目、越後林達也店長(39)に連絡をしたところ、最初は反響の大きさに戸惑い、「あまりに広がっていて……」と、記事にするのをためらっていました。
ツイートは2万件以上も拡散され、一気にフォロワーが800人から1700人に急増し、「おっかなさ」も感じたそうです。
地域密着の店で、SNSのフォロワーが増えたとしても、客が増えることにはあまりつながりません。悩みつつ、「少しでもほっこりしてもらえるなら……。ただ、田舎と都会の感覚の差だと思うんです。あまり持ち上げないでください」と取材を受けてくれました。
スーパーエチゴヤは、越後林店長と妻、両親と従業員9人で営んでいる店です。
貼り紙を作ったのは8月20日(金)の夜。その前日に、休みを取って、町のワクチン接種を受けた精肉担当の従業員から、連絡があったためです。
「まだ副反応の熱がひきません。(精肉の作業が予定されていた)土曜日は出勤できそうにないです」とのことでした。
肉を切るには特殊な機械を使う必要があります。店には他にもう1人、機械を扱える人がいましたが、あいにく、その人も休みでした。
「しゃあねえべ。明日はこれで乗り切ろう」。閉店後、越後林店長が急いで作った貼り紙がこれでした。
翌朝、精肉コーナーは、普段の20%ぐらいの品数しか並びませんでした。貼り紙を貼った後、いつも仕入れている肉屋に依頼して、肉をスライスしてもらい、午後には補充することができました。
特に客からの苦情はなかったと言います。
店側も客側も、柔軟に対応した背景には何があるのでしょうか?
そもそも、スーパーエチゴヤがあるむつ市では、12歳以上の市民の半数以上が2回目の接種を完了しているといいます。
越後林店長は「まわりもワクチンを打つのが当たり前という感じで、みんな副反応も経験済み。『(熱)出るよねー』という感じで、地域で理解があったからだと思います」と振り返ります。
ツイッターでは、「欠品を補うために適当な肉を出さないのも良い」という声がありましたが、越後林店長は自分が対応できなかったことを上げて「ほめられたことではないですね」と反省します。
ただ、これ以上の対策が取れない事情もありました。もともと人手に余裕がない上、さらにスーパーがある大畑町では、先日の大雨で橋が崩落するなどの被害があったばかり。まだ避難所にも人がいる中で、スーパーエチゴヤは避難所への食材供給なども担っており、「適当に肉を切って出す」こともままならない状態だったと言います。
客の寛容さもありました。「大きいスーパーとは違って、もともとそんなに売っていないですから。お客さんもそんなもんだろうと思ってくれていると思います」と越後林店長は笑います。
貼り紙の文面が「堅苦しい『お詫び』じゃなくていい」などと親しみやすさを評価する声もありました。
実は半年前にも、パソコンが壊れて、苦し紛れに手書きで書いた広告で、話題になっていたスーパーエチゴヤ。
越後林店長は「ただ、堅苦しいのが書けないだけですよ」と説明します。
「『良い会社だ』なんて持ち上げられて、すげぇ不思議なんですよね。全部、しょうがないからこうなっただけ」
一方で、コメントの中には、休みたくても休めない状況にある人などから、「こんな社会じゃなきゃ、生きづらい」とうらやむ声も集まりました。
次々届く羨望の声に、越後林店長は「都会の人って大変なんだな」と感想をつぶやきました。
「田舎だから許されているっていうのもあるし。もっと、ゆるく生きられたらいいのにって思う。でも、もとを正せば、余裕がない世の中のせいではありますよね。あくせく働かないといけない社会だから」
「商売やっていて思うことは、技術革新があって効率が良くなった分、安くする方に走ってきたけど、安くするにはどこかで無理をしている人がいるんじゃないかと……」「まあそんな、壮大な話にする気はないですけど」。越後林さんはそう言葉を濁して、笑いました。
「打ちたい人がみんな打ち終わった頃には、落ち着いたら良いなと思います。そしたら、旅行でも来て下さい」
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