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「ウソは全て潰す」証拠を集め告発「いじめ探偵」が願う加害者の更生

「学校なんか休んでいい」

学校の中では解決できない時、LINEのメッセージを集め、証拠を固めて加害者に突きつける。「いじめ探偵」の活動とは? ※写真はイメージです=Getty Images
学校の中では解決できない時、LINEのメッセージを集め、証拠を固めて加害者に突きつける。「いじめ探偵」の活動とは? ※写真はイメージです=Getty Images

目次

東京五輪の開会式の音楽担当だった小山田圭吾氏が、過去のインタビューで“いじめ自慢”をしたことが問題視され、辞任に追い込まれた。いまだになくならない、いじめの問題。最近は、SNSの普及でさらに悪質で巧妙化しているという。学校の中では解決できない時、力になるため活動を続けるのが「いじめ探偵」こと阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんだ。LINEのメッセージを集め、証拠を固めて加害者に突きつける。批判を受けながらも多くの子どもたちを助けてきた阿部さんに、笑下村塾たかまつなながオンラインサロン「大人の社会科見学」イベントで話を聞いた。

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証拠集めを仕事にする“いじめ探偵”とは

阿部泰尚さんは、日本で初めていじめ調査を引き受けた私立探偵だ。2004年に被害者の親からいじめの証拠を集める仕事を受けて以来、5800人から被害相談を受け、探偵技術を使って収束に導いたケースは380件に上る。ひとりでも多くの子どもたちを救いたいと、2014年にNPO法人ユース・ガーディアンを設立し、必要と判断すれば探偵調査を無償でおこなっている。

いじめの解決というと、電話での相談窓口がよく知られているが、話を聞いてもらって気持ちが軽くなっただけで、問題の根本的な解決につながらないという指摘もある。被害者に寄り添い、いじめの証拠を集めて解決を図る「いじめ探偵」の存在は子どもたちにとっては大きな救いとなっている。

阿部泰尚さん:
「いじめの問題で証拠集めのために録音しなさいと日本で初めて言ったのがたぶん僕なんですよ。大きな批判を受けてあちこちで炎上しました。しかし、先生に相談しても動いてくれない場合、第三者が介入しなければ被害者を救うことができないことも多いんです。だから録音のためにツールが必要であれば無償で貸し出しますし、その子に合わせて作らなければならないなら作るし、人間関係を調べていじめの証言をしてくれる子を見つけ出すこともします」。

オンラインサロン「大人の社会科見学」に出演した阿部泰尚さん
オンラインサロン「大人の社会科見学」に出演した阿部泰尚さん

科学的な証拠を学校に提出する

最近はSNSがきっかけとなるいじめも多い。例えば、ツイッターアカウントが作られて、そこで生徒や先生の悪口が書き込まれていく。学校内では、誰がそのアカウントを作ったのかという犯人捜しが始まり、全く無実の生徒が犯人だという噂を流されていじめの対象になったという事例がある。

阿部さん:
「このケースでは、かなり早い段階で相談をしてくれたので、モデムやルーター、スマホやPCなどの通信機器にアクセスログが残っているのではないかということでそれをすべて引っ張り出して、被害生徒がそのツイッターアカウントにアクセスしていないという科学的な証拠を学校に提出しました。さらに、LINEなどでこの生徒がやったに違いないという噂を広めている子たちがいたので、その証拠を集めました」。

興味深いことに、阿部さんは教育現場の人間としてではなく、民間の探偵として証拠集めをするため、必要であれば関係者である子どもからLINEのやりとりをお金で買うこともあるという。

阿部さん:
「そのLINEちょうだいっていうことですね。常にお金で買うわけではないんですけど、そういう集め方をすることもあります。人間関係が薄い子はすぐにくれることもありますし、親御さんと本人を説得し続けて出してもらうこともあります。そういう証拠をすべて集めて学校に提出して、保護者と一緒に話し合って、被害にあっている子の名誉を回復するアナウンスをしてほしいと訴えます」

証拠集めをしなければならないほど、いじめの解決が難しくなっている背景には、SNSの普及によっていじめが悪質化していることがあるという。

阿部さん:
「今までのいじめでは、加害者は被害者にせいぜい口止めするくらいだったのですが、最近はインスタグラムのストーリーを使えば24時間で勝手に消えるといった証拠隠滅までしっかり考えた上でやっています。仮に何か問題になっても一切認めなければ大丈夫といった知恵がついて、より悪質化していると言えます」

「証拠をすべて集めて学校に提出して、保護者と一緒に話し合って、被害にあっている子の名誉を回復するアナウンスをしてほしいと訴えます」(阿部泰尚さん) ※写真はイメージです=Getty Images
「証拠をすべて集めて学校に提出して、保護者と一緒に話し合って、被害にあっている子の名誉を回復するアナウンスをしてほしいと訴えます」(阿部泰尚さん) ※写真はイメージです=Getty Images

子どもの多くがいじめの当事者に

国立教育政策研究所の調査によると、いじめを全く受けなかったと答えた子どもはわずか8.6%。逆に、いじめを全くしなかったと答えた子どもも14.6%と、ほとんどの子どもがいじめを受けたことがある、あるいはいじめをしたことがあると答えている。

さらに、暴力のいじめを全く受けなかったと答えた子どもは33.2%。暴力のいじめを全くしなかったと答えた子は52.8%。暴力だけに限っても半数の子どもがしたことがあると答えているのが衝撃的だ。

一方で、こうしたいじめの実態に対する保護者の認識は甘い。保護者へのアンケートでは、子どもがいじめの被害を受けたことがあると感じている保護者は20%で、前述の子どもの実感と比べるとかなり低い数字だ。

深刻なのは、子どもがいじめの加害者になったことがあると感じている保護者はわずか2.3%で、子どもたちが自覚している14.6%と比較するとかなり低いことがわかる。ほとんどの保護者は、自分の子どもがいじめの加害者になることを想像すらできていないのだ。

阿部さんによると、いじめの加害者にはある特徴があるという。

阿部さん:
「加害者となる子どもたちの特徴として、支配型の人間関係を持ちやすい習癖を持っているという印象があります。例えば、学校内での人間関係を1軍、2軍といったカースト制度のように見ているような子たちです。家庭環境の面でも保護者の話しぶりから人間関係で上下関係を持ちたがる傾向があります。人のことを勝ち組や負け組といった目で見たり、年収が高いか低いかで人を判断したり、そういった親の価値観が子どもにも影響を与えているように感じます。子どものいじめ問題というのは、大人の『映し鏡』です」

「子どものいじめ問題というのは、大人の『映し鏡』です」(阿部泰尚さん) ※写真はイメージです=Getty Images
「子どものいじめ問題というのは、大人の『映し鏡』です」(阿部泰尚さん) ※写真はイメージです=Getty Images

加害者に更生のための教育を

過去に音楽雑誌のインタビューで“いじめ自慢”したことが問題視され、東京五輪の開会式の音楽担当を辞任した小山田圭吾氏に対しても、阿部さんは厳しい視線を注いでいる。

いじめの加害者は、被害者に対して犯罪行為のようなことを繰り返し、相手が死を意識するくらいまで追い詰めているにもかかわらず、周りの子に対して武勇伝として語ったり、遊び感覚で話したりして反省していないケースがとても多いらしい。

阿部さん:
「小山田さんのケースは、いろんな対処の仕方が悪かったのかなということと、もうひとつ思うのは、いじめの対応を考えた時に、被害者にばかり注目されるけれど、加害者に対してどういう教育を行えばいいのかあまり語られず、更生への道がおざなりにされてきた結果ではないかということです。そのときに止めてもらって、ちゃんと教育してもらえていたら、こんなことにならなかったかもしれない。治療的なアプローチを含めて、社会的な仕組みをつくることが必要だと思います」

感情をむき出しにした反省を

いじめの加害者が本当に反省し、いじめをしなくなるためにはどんな方法があるのか。阿部さんはその場しのぎの和解では絶対に解決しないといい、日頃の取り組みを教えてくれた。

阿部さん:
「加害者は、だいたい自分もやられたからとか、自分の正当性を主張したり、仲間と口裏を合わせて嘘の証拠を出したりするんですけど、そういうのは全て僕が潰します。嘘は通用しないことを見せつけた上で、時間をかけてその子が本当に反省するか、謝りたいかというところを徹底的に話してもらう感じです。先生たちに対しては本人が本当に謝りたいという気持ちが熟成するまでは寝られないかもしれないけど頑張ってくださいと伝えています」

「その上で、謝りたい気持ちが頂点に達したところでやっと謝罪の会を開くという感じです。すると、ほぼほぼ、会う前からお互いに泣いているケースが多いです。加害者には自分がどうして悪いことをしたのか話してもらうし、被害者には許せない気持ちも話してもらう。気持ちをぶつけ合って、もう大丈夫かなというところで、今後互いに同じ空間で一緒にいられるかなという話をします。そういう時間と気持ちの整理が必要です」

原作・阿部泰尚/作画・榎屋克優『いじめ探偵』(小学館)

休んでもいい 学校を変えてもいい

阿部さんの話を聞くにつれ、いじめを解決するには相当のエネルギーを要することをあらためて感じた。証拠集めや仲直りの会など、被害にあった子どもの精神的な負担も大きい。被害にあっている子どもたちに対してはどんなメッセージを送ればいいのだろうか。

阿部さん:
「僕のNPO法人の宣言では、もし死にたいぐらいつらかったら、学校なんか行かなくていいよと伝えています。逃げろという言葉だとあまりいいイメージを持たない子もいるので、休んでもいいと言っています。もし、教育委員会や校長が全く動かない場合には、学校を変えましょうと勧めることもあります。僕はどちらかというと、裁判をすることに対しては消極的です。子どもたちがそこに時間を取られるくらいなら別の道を模索した方が早いと思うことも多いからです」

いじめの解決には今後、阿部さんのような積極的な介入がますます求められてくるだろう。一方で、子どものいじめ問題は大人社会の映し鏡だという言葉も印象に残った。

経済最優先の競争社会の弊害が、子どもたちの社会に悪影響を及ぼしているとしたら、まず変えるべきは私たち大人の価値観なのかもしれない。

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