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連載

#18 SDGs最初の一歩

「ガンダムに出てきそうな演説」SDGs宣言、アーティストが読んでみた

「キュンチョメ」が絶賛する理由「すごいんです、めちゃくちゃ熱くて。もう、SFなんですよね」

インタビューに応えるキュンチョメのホンマ氏=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影
インタビューに応えるキュンチョメのホンマ氏=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影

目次

「ガンダムに出てきそうな演説」。現代アーティスト「キュンチョメ」の2人は、国連総会で採択されたSDGsの宣言全文を読んだ感動を熱く語り出しました。その一方で、有名な17の目標については「標語化することによって失敗している」。自身の作品では、答えを整理せず感情を揺さぶるメッセージを発信してきた2人。沖縄の基地問題をテーマにした作品では「YESかNOのどちらなのか」見た人に投げかけています。一体どんな思いがあるのでしょうか。

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〈キュンチョメ〉
ホンマエリとナブチの男女二人のアートユニット。2011年、東日本大震災をきっかけに活動をスタート。大震災だけでなく、沖縄の基地問題、香港のデモ、ジェンダー問題など様々な社会課題を元にした作品が多い。最近では「表現の現場調査団」でハラスメントの実態を発表するなど社会活動も行う。アートにとどまらない活動で注目を浴びている。
キュンチョメ 公式WEB(https://www.kyunchome.com/
 

SDGs宣言「ガンダムに出てきそうな演説」

――SDGsって知っていましたか?

ホンマ)
なんとなくは知っていましたが、今回改めてSDGsのことを聞かれるぞと思って、全文読みました。40ページくらいの資料で、すごい長かったです(笑)。

ナブチ)
アートも、芸術祭や大学など国の助成金で動いている部分があるので、SDGsの文字を最近よく見かけるようになりましたね。良いか悪いかはさておき、オリンピックや日本博なんかもそうですが、国策とアートは連動する部分もあるので。

ホンマ)
そういう意味でアートの世界でも聞くようになってはいるのですが、SDGsについて書かれているWebサイトを見ても、超漠然としているじゃないですか? 標語だけがバンバンバンと載っているだけ、みたいな。これはようわからんぞと思って、全文を読んだんです。


――国連総会で採択された宣言の全文ですか?

ホンマ)
国連の全文ですね。読んだら全然印象が違うんですよ!すごいんです、めちゃくちゃ熱くて。もう、SFなんですよね。『人間、地球及び繁栄のための行動計画』という言葉から始まる40ページのSFなんです。興奮する!(笑)。全人類の誰一人を取りこぼさずに、私たちはこの目標を達成します、ということを、握りこぶしを天空に突き上げながら熱く語っているんです。我々人類はより上位の平和と繁栄を手にすることができるんだ!という熱い思いにあふれている。

ナブチ)
ガンダムに出てきそうな演説という感じだよね。

ホンマ)
そう、読んで真っ先に思い浮かべたのがガンダムだった。SDGsって、全方位に対して意識を向けていくという途方もない目標に思えますよね。全人類を取りこぼさず全ての目標を達成するって、もはや神話にすら聞こえる。でも、それを本気でやろうとしているスケール感と本気度にしびれました。

読みながら気持ちが高ぶってしまって、これは実はすごく良いものじゃないかと興奮したんです。でも、全文はそんなに読まれていないから、SDGsと聞くと、ただの標語、ただバッチつけるものだと思われている節がある。でも、全文の熱さこそがSDGsの核なんだろうなと思いました。


――全文を読む前は、標語的な印象がありましたか?

ホンマ)
標語的な印象でしたね。目標がずらっと並んでいて、あなたはどれを達成しますか? みたいな感じで、熱を感じることも興奮することもなかった。

本当はポジティブに世界を作り替えるための積極的な選択って感じなのに、どうしても「〇〇してはいけない」というような、ただの行動制限に見えちゃう。

ナブチ)
逆にいうと、標語化によって色々なものがそぎ落とされちゃっているということだよね。良くある話だけど、わかりやすさを追求しすぎるとうまくいかないこともある。

そもそも全文には『平和なくしては持続可能な開発はあり得ず、持続可能な開発なくして平和 もあり得ない』と書かれていて、本質はそこにあるはずなんだけど、標語を見るだけだとわからないよね。

キュンチョメのアトリエでインタビューをさせていただく=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影
キュンチョメのアトリエでインタビューをさせていただく=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影

非難を覚悟し挑んだ「沖縄の基地問題」

――お二人は、被災地の問題から沖縄の問題まで様々な問題を作品で扱っている印象が強いのですが、どんな思いで社会課題に向き合っているんですか。

ホンマ)
問題というと語弊があるかもですね。

ナブチ)
例えば『沖縄の問題』って良く言ってしまうけど、本当は日本とアメリカの問題であって、沖縄の問題じゃない。沖縄に押し付けている私たちの問題なんですよね。決して遠くのものではないし、遠くのものにしてはいけないんです。

ホンマ)
SDGsの話とも繋がるんだけれど、社会課題って複雑に繋がっていて、独立して存在しているわけじゃないんですよね。だから、例え沖縄の米軍基地のことを取り上げたとしても、それは私の問題であって、すなわちそれは人類の問題だと思ってます。

そして、私にとっての社会課題って、向き合うものとか作家としてテーマに選ぶものじゃなくて、向こうからぶつかってくるものなんですね。人間として生きていこうとすると、次々に豪速球が私に向かってぶつかってきて、「痛い!」と感じるわけです。だから「なにくそ!」と打ち返す。その打ち返す方法がアートと呼ばれたりするだけ、って感じです。だから、自分は社会派アーティストだ、と思ってやっているわけではないんです。私なりのやり方で抵抗しているだけというか。

ナブチ)
ただ、打ち返し方が少し変わっているというか、野球をやっているはずなのにバットを使わないでどう打ち返すか、みたいなことを考えてやっているんですね。既存の野球のルールの中でやっていても、月まで球を打ち返すことはできないじゃないですか。でも、それができるのがアートだと思ってるので、日々その方法を練っています。

ホンマ)
基本的には自分たちのやっていることは詩だと思っているんです。素振りの練習をほとんどしないで、月まで球を打ち返す方法を延々と考え続けているわけですから、はたから見たら、「ふざけてんのか?」と思いますよね。でも私たちは本気なんです。普通、詩は言葉でしかないですが、詩を行動に移すことでそれは現実になるんです。私はそれがしたいんです。


――沖縄で取り組んだ『完璧なドーナツをつくる』も、同じでしょうか?

ナブチ)
最初は、穴の空いたアメリカ式のドーナツと、まん丸のドーナツ、つまりサーターアンダギーを合体させたら、穴がない完璧なドーナツができるんじゃないか?という言葉が自分の中から出てきたんですね。ただその直後に、それをやったら大変なことになるだろうなって冷静になって思うわけです。

『完璧なドーナツをつくる』
『完璧なドーナツをつくる』

『完璧なドーナツをつくる』
沖縄で制作された、米軍基地をめぐる映像作品。 「穴の空いたアメリカのドーナツと、丸い沖縄のドーナツ(ここではサーターアンダギーの意味)を、米軍基地のフェンス越しに合体させたら、穴のない完璧なドーナツができるのではないか?」という問いから始まるプロジェクトの記録映像。

――穴の空いたドーナツ、つまりアメリカの食べ物と、サーターアンダギー、つまり沖縄の食べ物を比喩的に合体させると。沖縄の基地問題を想起させるということですね。

ホンマ)
そうです。ドーナツの話だけど、ドーナツの話ではなくなってしまう。『完璧なドーナツをつくる』という言葉を実行するのは簡単ではないぞと。


――どのように進めたのですか?

ナブチ)
『完璧なドーナツをつくる』の内容を、沖縄の友達に伝えました。そうしたら、速攻でめちゃくちゃ怒られて。

ホンマ)
すげー仲いい友達なんですけど、「おまえらは沖縄に行って、沖縄の人間にそれを話して、靴を投げられてくればいいんだ!」って言われて。

ナブチ)
最後は「ボコボコされてこい」と言われましたね。

ホンマ)
その怒られた当日が沖縄に行く日だったんですよ。なので、自分たちがやろうとしていることって一体なんなんだろうって、超ナーバスな気持ちでLCCの飛行機に搭乗して。

ナブチ)
やらないこともできたんですよ。そこまで怒らせてしまったのは、僕個人としてすごく責任を感じたし。でも、他の人はどう思うんだろうなと知りたくなってしまった。

ホンマ)
私たちは『完璧なドーナツ』を想像してしまった。でも、その先には我々の想像を超える複雑な感情や、深い怒りや、悲しみがあるとしたら、それをしっかりと知らなければいけないんじゃないかと考えたんです。だから、ちゃんとボコボコにされたり、靴を投げられるべきなんだと思ったんです。だから2つのドーナツを持って、めっちゃ緊張しながら沖縄中を回りました。いつも手汗でドーナツが湿ってしまって、しっとりしていた。

ナブチ)
ただ、ドーナツの話をした時の反応は、怒られるというだけでなく千差万別でした。

ホンマ)
結果がどんどん意外になっていくんですよ。絶対に怒られると思いながら基地反対運動をしている人のところに行ったら、「いいじゃん、やりなよ、ラブアンドピース!」と言われたり、逆に米兵向けのバーを経営していた方は、「難しい、良いとは言えない」とすごく悩んでいたり。

『完璧なドーナツをつくる』
『完璧なドーナツをつくる』

完璧なドーナツを完成させない理由

――取材できなかった人もたくさんいましたか?

ナブチ)
もちろん、たくさんいました。話しができた人でも、一人一人3時間以上は話していたりするんです。映像では10分程度に短くしているので全てを伝えられているわけではないんですが。

ホンマ)
なんなら、もっとだよね。その人と半日沖縄を小旅行して、その後、「ところで…」と切り出して話を聞いたり。

ナブチ)
結局、合計5~6カ月ぐらい沖縄に住むことになって。

ホンマ)
自分の気持ちもシッチャカメッチャカになった半年間でした。


――最終的に『完璧なドーナツ』はできたんですか?

ホンマ)
この作品では、正確には『完璧なドーナツ』を完成させてないんですよ。完璧なドーナツが存在して良いのかどうかは、この作品を見た人が決めた方がいい。

完璧なドーナツを完成させて「ハッピーエンド!」みたいに見えたらダメだと思って、オープンエンディング(自由に解釈ができる終わり方)になっている。でも一方で、完璧なドーナツを通して、YESかNOかを明言することの大切さを学んだんです。

ナブチ)
今は、完璧なドーナツ投票プロジェクトというのをやったりしていて、あの映像作品を見た後に、みんなに投票してもらうようにしています。「完璧なドーナツはできた方がいいと思いますか。それとも、できない方が良いと思いますか。YESかNOで答えてください」と。

ホンマ)
実はこの投票プロジェクト、最初に「靴投げられてこい!」と怒った沖縄出身の友人と一緒にやっているんですけど、その友人が「どちらでもない、という選択はあり得ない。YESかNOの二択を選択させることが大事なんだ」と言っていて、その言葉がずーっと心に残っていて。

ナブチ)
その一言の大事さ、今ならわかる。中立はあり得ない。世の中にはYESかNOかしかないことがたくさんある。

ホンマ)
わかる!確かにアートは、YESとNOの答えの外だったり、機微だったり、二分することで見えなくなる部分を拾い上げることもできるんです。

でも一方で、すぐに動かなければならない社会課題を前にした時や、社会運動をするときは、YESかNOをしっかり表明しなければいけない時がたくさんある。その感覚が、ハラスメントの実態を調査発表する『表現の現場調査団』とか、アートではない社会運動を行うことにつながってるんです。

SDGsを体で表現するキュンチョメ(キュンチョメのアトリエにて)=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影
SDGsを体で表現するキュンチョメ(キュンチョメのアトリエにて)=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影

「加害性への責任」社会課題に向き合う覚悟――取材を終えて

SDGsの宣言全文に注目し、「ガンダムに出てきそうな演説」と評したキュンチョメ。想定外の面白い指摘でしたが、これこそがSDGsを普及させる上で鍵になる切り口だと感じました。

正直、私も宣言全文はかなり長いので、さらっとしか見たことがありませんでした。英語の原文は読むのが大変ですし、日本語版は仮訳なので、読み解くのがやや難しい。

ただ、じっくり読んでみると、たしかに、熱いメッセージがこれでもかと詰め込まれています。国連という国際的組織が発表する公的な書類なのに、こんな熱いメッセージが書けるのかと驚きます。

【関連リンク】持続可能な開発のための2030アジェンダ日本語仮訳(外務省)
 

なぜ、SDGsの全文に着目したのか。二人に聞くと、「なんかありそうだなと感じたんです(笑)」。物事の本質から見極め、世の中から抜け落ちてしまったものを突き止めていくキュンチョメらしい発見だなと、あらためて思いました。

SDGsに対して、今までにないポップな解釈をしてくれる一方で、沖縄の基地問題では、難しい課題に向き合っています。

『完璧なドーナツをつくる』は、沖縄の基地問題の状況を捉えた痛快なアイデアと感じる人もいるかもしれません。でも、当然、基地問題は現地の方々にとって先が見えない困難をもたらす存在です。

インタビューの最後、何か一つの問題を提起しようとするときに、誰かを傷つけてしまうことについて尋ねました。

「万人に配慮するのは表現をする上で難しい部分」とした上で、「自分の加害性には、常に敏感にいなきゃいけない」と語りました。

あらゆる人をケアするのは表現としては弱くなってしまいます。しかし、表現だから、アートだから、という理由で許されるという気持ちはなく、「作品を発表するからには、しっかり責任を取る」と力強く語りました。だからこそ、作品をつくっている時には沖縄に5カ月以上住み込み、そして、今も沖縄に通い、課題に寄り添い続けているのでしょう。

キュンチョメの二人が異彩を放つ発想や行動を貫く裏には、社会課題に向き合うたしかな覚悟がありました。

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