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連載

#29 金曜日の永田町

枝野さんへの「最終通告」男性ばかりの党幹部、足元揺るがす本多発言

立憲に残っていた「泥舟的価値観」

党首討論に臨む立憲民主党の枝野幸男代表=2021年6月9日午後3時55分、伊藤進之介撮影
党首討論に臨む立憲民主党の枝野幸男代表=2021年6月9日午後3時55分、伊藤進之介撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.29) 2021.6.14】

通常国会が会期末を迎えるなか、立憲民主党の枝野幸男代表は内閣不信任案を提出することを決めました。新型コロナウイルスの迷走や、十分な説明なく東京五輪・パラリンピックを開催しようとする姿勢など、菅義偉首相に「不信任」を出す理由は積み上がってきています。しかし、その足元では潜在的な支持層から突きつけられている「最後通告」が――。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

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#金曜日の永田町
※クリックすると特集ページに移ります。

アクティブバイスタンダー

傍観者として性暴力被害を見過ごさずに、状況に応じてできる限りの行動をしようと呼びかける性暴力防止プロジェクトが、全国各地の大学で進められています。

「アクティブバイスタンダー(Active Bystander)」

まだ耳慣れない言葉ですが、「積極的に被害を止める第三者」という意味です。欧米の大学では学生向けに周知され、日本でも、昨年10月の国際ガールズデーにあわせて、作家のアルテイシアさんと助産師のシオリーヌさんが作成・公開した動画で注目を集めました。

プロジェクトの中心にいるのは、性暴力・性差別のないキャンパスを実現するための活動を行っている慶応義塾大学の学生団体「Safe Campus」のメンバーです。

「Safe Campus」の原点は2019年5月、学生や卒業生による性暴力事件が相次いで発覚した際、明確な意思を示さない大学側に対し、「性犯罪の防止に取り組む意思を明示的に示してください」などと求めた有志の署名です。同年11月に団体として発足し、キャンパス内の性暴力実態調査を実施。性的同意の重要性や、ハラスメント・性暴力の現場に居合わせた第三者の役割を盛り込んだ「性的同意ハンドブック」の作成などに取り組んできました。

昨年秋に実施した実態調査で、被害が最も多かったのは「先輩からの被害」です。とくに「不均等な力関係において権力を持つ先輩が加害者になる傾向」が浮き彫りになりました。

そうしたなかで現在、各地の学生団体と連携して進めているのが、「被害者が相談しやすい環境づくり」と「アクティブバイスタンダーの認知向上」を目指したピンバッジのデザインコンテストです。

「私は性暴力に断固として反対する」という思いが伝わるもので、多くの学生や教員、大人が日常的につけられるデザインを――。6月30日まで募集し、バッジ制作の費用を募るクラウドファンディングも実施しています。

【関連リンク】ホーム | 学校から広めよう、アクティブバイスタンダ― - 性暴力から目をそらさないために -

コンテストを経て、9月以降に全国の学生団体や教員などに配布する予定です。

「日本では性教育がきちんと行われず、ジェンダー観にもずれがあります。バッジを身につけることで、アクティブバイスタンダーが認知され、被害者が助けを求めやすい環境と加害をしにくい雰囲気をつくっていきたい」

メンバーはそうした願いを込めて、応募や支援を呼びかけています。

アクティブバイスタンダーのクラウドファンディングのページ
アクティブバイスタンダーのクラウドファンディングのページ 出典:ホーム | 学校から広めよう、アクティブバイスタンダ― - 性暴力から目をそらさないために -

「感想が残らない党首討論」

大学から地道な取り組みを続ける「Safe Campus」のメンバーにとって、もっと変わって欲しいと感じる対象の一つが国会です。

「女性が少ないですよね…。ジェンダーに関する人々の意識を変え、また女性がより広い選択肢を持てるようにするには、もっと女性議員、リーダーが多くいないと。いまの力を持っている人たちにそうした理解がどこまであるのか。常々疑問視しています」

その国会では6月9日、菅さんが首相に就任してから初めてとなる党首討論が行われました。5人の討論者はすべて男性で、傍聴者も含めても女性はほとんどいません。最も問われたのは、国内外が注目している新型コロナ対策と東京オリパラ開催の是非です。

菅さんは「感染対策はワクチンが出てから大きく変わった」と主張。「今年10月から11月にかけて、必要な国民、希望する方、すべての(接種を)終えることも実現したい」と新たな目標を表明しました。

しかし、「昨日は100万回を超えてきた」と豪語したワクチン接種の回数は、実際には「80万回ぐらい」と河野太郎行政改革相が下方修正しました。党首討論で首相が事実とかけ離れた数字を語っていたのです。さらに、質問に正面から答えようとせず、「オリンピックについても、私の考え方をぜひ説明させていただきたい」といって、前回の1964年東京五輪の思い出を2分半も語って、時間をつぶしました。

「ほとんど感想が残らない党首討論だった。国会(中継)は無料だから良いけど有料だったら金返せって怒られちゃうよ」

国会内の受け止めは、この与党幹部のつぶやきに象徴されています。

ただ、その責任の一端は、衆院選を前に党首討論の開催を求めた立憲民主党の枝野さんにもあります。菅さん同様、あらかじめ用意した原稿を読み上げる場面が多く、「オリパラ中止」要求や、「開催を強行して感染が拡大した場合の首相の進退」を迫るなど、印象に残る見せ場がありませんでした。

このとき、枝野さんの足元を揺るがしていたのは、自身の秘書も務めていた立憲の本多平直衆院議員の発言です。

「例えば50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」

刑法で性行為が一律禁止される「性交同意年齢」について、現行の「13歳未満」から「16歳未満」へと引き上げる議論をしていた党のワーキングチームで、成人と中学生の性行為を肯定する発言を繰り返していたことが発覚したのです。

「12歳と20歳代でも真剣な恋愛がある」
「日本の性交同意年齢は他国と比べて低くない」

実際には、日本の性行同意年齢は明治時代から100年以上変わらず、国際的に低さが指摘されています。しかし、本多議員らが上記のような趣旨の議論を展開したこともあり、ワーキングチームの寺田学座長は6月7日午後、中学生以下との性行為の一律禁止を求める報告書をワーキングチームとしては取りまとめられなかったことを表明しました。

この時点ですでに産経新聞と日本テレビが発言者を匿名にして、「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら~」という発言を報じていましたが、党執行部は当初、「本人がその言葉については『言い過ぎた』というということで『撤回だ』と言っているので、それでいいのではないか」(福山哲郎幹事長)と不問に付し、発言者も公表しませんでした。

しかし、直後に朝日新聞デジタルが実名を入れて本多発言を報じると、党執行部は6月7日夜になって幹事長から厳重に口頭注意した、と発表。本多氏も「私の理解が足りていないとのご批判は当然と考えます。真摯に反省し、認識を深めていきます。お詫びして撤回します」とのコメントを公表しました。

衆院本会議の後、記者団の取材に応じる立憲民主党の本多平直議員=2021年6月8日午後、国会内、上田幸一撮影
衆院本会議の後、記者団の取材に応じる立憲民主党の本多平直議員=2021年6月8日午後、国会内、上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

男女差別を固定化する言説

6月8日午後。衆院本会議に出席した本多議員は、「限界事例」という言葉を使って、自身の発言の意図を記者団に説明しました。

「人を処罰する法律ですから、例外を考えるべきか、いらないのか。どんな例外がいるのか。それから、本来は想像できないような『限界事例』をどう考えるのか。こうした幅広い緻密な検討をしたいと考えているなかでありました」

刑事罰の対象を広げるという議論の際には、確かに慎重さは必要です。性暴力やジェンダーの問題に理解のある立憲議員も「国家権力を縛る刑事法制を厳粛に考えるかどうか」と指摘します。刑事罰を導入するのに、あいまいな規定が多く、住民の権利侵害が想定される「土地規制法案」の審議で、さまざまな事例を挙げて、政府を追及した本多議員の質疑はそうした実践例と言えます。

しかし、この間、性暴力に関する本多議員たちのような議論は、泣き寝入りしている被害者の女性たちの壁になってきました。

被害者に寄り添い、「with you」の声をあげるために2年前の4月に始まった「フラワーデモ」。そのきっかけになった2019年3月の無罪判決4件のなかには、たとえば、中学2年生のときから女性に性的虐待を行っていた父親に対し、「(女性が)抗拒不能の状態だったと認定するには合理的な疑いが残る」などという理由で無罪が言い渡されているものがあります。

こうした理不尽な現実を変えるため、フラワーデモに集うメンバーたちは、性交同意年齢の引き上げや、暴行や脅迫を立証しなければ罪に問えない要件の見直しを中心とする刑法改正を訴えてきました。心身共に傷ついた被害者を救い、新たな被害者を出さないための切実な訴えです。

その訴えに、「自由な恋愛まで処罰するのか」「無罪判決を批判するな」「me tooもいいけど人権も考えるべきだ」などと主張し、抵抗してきたのが、一部の法律家や国会議員です。フラワーデモの参加者たちを傷つけ、法改正の足を引っ張ってきました。

こうした法律家や国会議員たちは、たとえば、派遣労働に関しては、経営者側が「自ら派遣を望んでいる労働者もいる」と主張しても、「労働者の保護や格差是正のために法律で禁止すべきだ」と訴えている人が少なくありません。なぜ、性犯罪に関しては、同じように被害者を守るためのルールに変えようとしないのでしょうか。「国家」や「資本家」の権力性と比べて、「男性」という権力性への認識が弱いのです。

性暴力は、女性の被害が圧倒的に多く、女性の人生を狂わせる深刻な犯罪です。加害者になることが多い男性側に都合のいい現在のルールを温存させる言説は、結果的に、いまの男女差別の構造を固定化する働きをしているのです。

花とプラカードを掲げる「フラワーデモ」の参加者=2021年3月8日午後、東京都千代田区、遠藤啓生撮影
花とプラカードを掲げる「フラワーデモ」の参加者=2021年3月8日午後、東京都千代田区、遠藤啓生撮影 出典: 朝日新聞

「最終通告」

本多発言への批判が高まるなか、立憲は6月10日の政策審議会で、性行同意年齢を13歳未満から、16歳未満に引き上げるべきだとする中間報告をまとめました。

枝野さんは6月9日の党首討論終了後、本多発言に関して、外部有識者による「ハラスメント対策委員会」に調査と答申を依頼した、と発表しました。適正な手続き(デュープロセス)を確保する観点では一理ありますが、本多議員の党の役職はそのままでで、判断を先送りした形です。

衆院選を控えるなか、委員会の調査が本多議員の発言の問題をどのように認定し、その発言を当初不問にした執行部の責任も含めて、「お手盛り」と言われない結論を出すのか。あるいは、共産党など野党各党は衆院選で本多議員を「野党統一候補」と認めるのか。さまざまなことが問われ続けることになります。

野党支持者のなかには、「与党を利するだけだから、本多問題で足を引っ張るべきではない」という声もあります。しかし、一連の問題で浮き彫りになったのは、「ジェンダー平等」を掲げながら、代表、幹事長、国会対策委員長、政調会長、選挙対策委員長という要職を男性だけで占め、多様性が欠如した立憲の党運営の体質です。

国民民主党の大半と合流した昨年9月の新・立憲民主党の結党大会の来賓あいさつで、町田彩夏さんは「組織に女性はいるのに幹部や指導的な立場に女性が一人もいない状況は、どこか不自然だと思いませんか?選出の過程や評価基準そのものが公正ではなかったという可能性はありませんか?私たちが求めるのは、女性が差別されている社会構造を見つめ、正していくことです」と警鐘を鳴らしていました。本多発言をかばう言動が相次いだ立憲に対して6月11日、ツイッターで次のように投稿しています。

「女性蔑視は今後淘汰されていく泥舟的価値観だと思うので、そこからいち早く降りないとその人自身の政治生命も終わるんじゃないかな。それでいいならどうぞ。仮に政権交代目指すなら、ここでそれが出来るかですね。多分これが最終通告だと思う」

6月11日の金曜日の夜。東京都内各地の街頭では、本多発言に関するスピーチが相次ぎました。

ひとつは、安全保障法制反対運動のときから、立憲主義を大切にする野党を応援してきた「総がかり行動実行委員会」が有楽町駅前で開いた「ウィメンズアクション」です。

「Metoo Withyou」のプラカードを持った女性が「女性が稼げない、チャンスが奪われている社会なのに、性の問題になると『大人と真剣な恋愛をする子もいるんじゃないか』と14歳、15歳に自己責任論を押しつける。性的な存在として消費するような社会であると、今回の(本多)発言でひしひしと身に染みて感じた」と指摘。「立憲民主党の議員にも自覚して変わってほしい」と訴えました。

ほかの参加者からも「理解しがたい差別発言。おかしいことにはわきまえず、おかしいと言っていくことが、私たちが暮らしやすい、性差別のない社会をつくっていく一歩だと思う」と呼びかけました。

もうひとつは、東京駅前で開かれた本多発言に抗議する「フラワーデモ」。

「迷ったのですが、でも、皆さんにはお伝えしないといけない」

そういって、立憲の衆院選公認内定者である井戸正枝さんがマイクを握り、過去にも同様の問題が繰り返されてきたことに触れたうえで、こう訴えました。

「こういうことを言うと、またプレッシャーがくると思うんです。だから、それにひるんで、なかなかできない人もいる。党幹部も今回、非常にコメントを出すのが遅かったと思う。何でだったのか。このこともしっかり検証し、選挙の時には、こうしたことに対してひるまずやれるメンバーをそろえて、正々堂々、選挙で戦える政党に私は生まれ変わらせるために、自分なりに努力したいと思っています。本当に今回、申し訳なかったと思いつつも、ここを変えるために行動あるのみだと思っています。一緒に頑張りましょう」

秋までにある衆院選は、コロナ禍や、オリパラ組織委員会の森喜朗元会長の発言で浮き彫りになった男女格差、女性差別の社会構造を変えることが大きな争点です。

その選択肢になれるのか。それとも「変わらない」という絶望感を植え付けるのか。

立憲の議員1人1人が傍観者とならず、行動できるかどうかが、問われていると思います。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

〈南彰(みなみ・あきら)〉1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連の委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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