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連載

#4 わたしの中の #健康警察

「ダイエットで若返り」を目指したアラフォーの反省 #健康警察

「太ってきたかも」と思ったときに※画像はイメージです
「太ってきたかも」と思ったときに※画像はイメージです 出典: PIXTA

目次

いきなりですが筆者、コロナ禍でリモートワークが続いているからか、今年に入って3kgくらい太りました。ニュースでは「肥満は新型コロナウイルス感染症の重症化リスク」と言われることもあり、気になりますよね。

でも、この3kgって、そんなに大騒ぎするようなことなのでしょうか。そもそも肥満ってどういう状態? 「やせたい」と思う気持ちの奥にあるものを改めて考えてみると「自分の中の #健康警察 が自分を監視しているのかも」ということが浮き彫りになります。(医療ジャーナリスト・市川衛)
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【連載】わたしの中の #健康警察

新型コロナ禍のいま、「他人の健康行動」について、ついつい気になっちゃう人、増えているみたいです。「感染症をうつされないよう、身を守るのは当たり前だろ」という声も聞こえてきそうですが、「見ず知らずの他人」の行動にまでひとこと言いたくなってしまうというのは、不思議なことでもあります。医療ジャーナリストとして10年以上、取材/発信してきた私の中にもある、「他人の行動にひとこともの申したくなってしまう気持ち」。それを自分の中の #健康警察 と名づけて、考えてみることにしました。

第一回:なぜ他人の行動が気になる?クレーム対策の手袋やアクリル板の流行 生きづらい世界を作る #健康警察
第二回:なぜ若者世代は「悪者」にされるのか?カラオケ・飲み会のイメージ…でも背景には「格差」も #健康警察
第三回:ワクチン「説得」は逆効果? #健康警察 、善意の「おすすめキャンペーン」の落とし穴 カギは「共感」

「ダイエットは常に善」という前提

かく言う私はかつて、熱心なダイエッターでした。4年前に書いた私の記事です。

「アラフォーが、20歳のころの体重に戻ろうキャンペーンをしてみた」
https://www.huffingtonpost.jp/mamoru-ichikawa/around40_20_b_16811666.html

なんだかニヤケた写真を載っけちゃって、お恥ずかしい……。「40近くなったオッサンが、20歳のころの体重に戻ろうとダイエットし、当時の服を着られるようになった」という、説明してみると衝撃的にどうでもいい内容の記事です。

個人ブログに書いたところ、それを読んだ知り合いのネットメディアの編集者さんから転載の打診をいただき、「どうぞどうぞ」と軽い気持ちで返したら、思いがけず多くの方の目に触れる結果に。コメントもたくさん頂いたのですが、基本的にみな好意的なもので、ホッと胸をなでおろしたのを思い出します。

で、記事の中で、4年前の私はこんなふうに提言しております。

>ダイエットに、「義務感」ではなく「ワクワク」を。
>そういうふうな気持ちになれる方法がたくさんあれば、いまなかなか一歩を踏みきれない人たちが、ちょっと幸せな方向にがんばれるために必要な「一押し」になるのではないか。そんなことを思いついたのでこの記事を書きました。

「うん、その通り。いい話にまとまった!」と、4年前の私は思っていました。

しかーし! いま読み返してみるとどうにも気になる。「XX歳のころの自分の体重に、戻りたい」こんなふうに、自分で自分を監視するのって、本当に「健康的」なの?

「ダイエット」という身近なテーマだからこそ、自分の中の #健康警察 の存在を実感した瞬間でした。

「肥満」ってそもそもどういう状態?

では、あらためて「なぜダイエットするのか?」と聞かれたら、まず思い浮かぶ理由は「健康のため」ですよね。

コロナ禍において、体重を気にする人は増えています。肥満が、新型コロナに感染した場合の重症化や死亡のリスクになっている、というデータは実際にあります。

たとえば昨年12月に発表されたアメリカの研究では、BMI(体格指数※)が40を超えるようなかなり肥満した人(身長170cmの人であれば体重115kgを超える)の場合、普通の体重の人に比べ、死亡リスクが2倍以上になると報告されています。

※[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値。肥満度を表す指標として国際的に用いられる。

実際のところ、そこまで太めのかたは日本だとあまりいらっしゃらないのですが、それでも肥満が死亡リスクになると言われれば気になるところ。

食品大手のマルコメが昨年行った自社製品ユーザー243人に対するウェブ調査では、「コロナ太り」に関しておよそ7割が「意識した」と回答。うち過半数が、予防策として「ヘルシーな食材を使う」を選択したといいます。太ると身体に良くない、食事などに気をつけなければ、という意識は幅広く共有されているようです。

たしかに「大学生くらいの体重をキープしているのが理想ですよ」なんて話はよく聞きますよね。「メタボ」という言葉を耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。お腹まわりがたっぷりしていて、高血圧や高血糖なんかがあったりすると、脳卒中や心筋梗塞などになるリスクが高くなるとするデータがあります。

職場でも、特定健康診査(いわゆる「メタボ健診」)ではお腹まわりをチェックされ、数値が基準を超えていると、場合によっては生活上の「指導」が行われたりするわけです。

「健康のためにやせる」は正しい?

だとするとやはり「ダイエットは大事?」とも思いますが、では冒頭にお示しした記事で「太っている」と自認していた私の体格は、実際に肥満だったのでしょうか。

日本肥満学会ではBMIが22(身長170cmで体重63.6kg)を「適正体重」として定めています。30~59歳の日本人男女およそ5000人の健康診断の結果を調べたところ、高血圧や高血糖など「異常値」となる項目が、これらの人たちが最も少なくなったなどの結果が出ているからです。

他にも、40~59歳の日本人男女およそ2万人ずつを10年間追跡し、BMIと総死亡率(その期間に病気などで亡くなった人がどのくらいいたかを示す値)との関係を調べた研究※もあります。

※Tsugane S,et al. Under and overweight impact on mortality among middle-aged Japanese men and women: a 10-y follow-up of JPHC study cohort I.Int J Obes Relat Metab Disord. 2002;26(4):529-37.

こちらの研究の結果では、最も死亡率が低かったのはBMI23~24.9の人たちでした。日本肥満学会では、このあたりを含む範囲、すなわちBMI18.5~24.9を「普通体重」としています。

では上記を前提に、冒頭の記事の私は「太っていた」のかを調べてみます。

記事では言及していませんが、最も重かったときの体重は70kg。私の身長は171cmですので、BMIを算出すると、23.94となります。これは……あれ、普通体重の範囲内。ちなみにダイエットした後の体重は63kgで、BMIは22くらいとなります。つまり私は、ダイエットしたことにより「普通体重」から「普通体重」になっただけだったのでした。

ところで、ここで紹介した研究の結果を改めて見てみると、BMI25以上の「肥満」とされる人は、普通体重と比べて確かに、死亡率が高まる傾向が見て取れますが、一方で意外なのは、やせている側でも死亡率が高まっていることです。

BMI18.9未満の「やせ」とされる人の場合、むしろ30以上の人より、男性女性ともに死亡率が高くなっていました。つまり「やせすぎ」も身体に悪いのです。やせすぎると、栄養状態の悪化によって骨がもろくなったり、筋肉が減ったり、ホルモンのバランスが崩れたりすることがあるからだと考えられています。

最新の国民健康・栄養調査によれば、20歳以上の女性の場合、やせ(BMI18.5未満)とされるのは12.9%です。20代に限定すると20.7%にのぼります。日本においては肥満と同じように、「やせている人が多い」ことも課題と言えそうなのです。

「健康のために」が悪影響になることも

ではなぜ、私は太っていないのに「自分は太っている」と感じ、「やせなければならない」と思ったのか? その背景を考えてみると、私が普段触れている情報の「不均衡」があるのかもしれない、と思いつきました。

私たちの周りは「太っているといけない。健康のためにやせよう」というメッセージで満ちあふれています。逆に、やせている人が多いことも課題なのに、「やせ」が身体に悪いという情報って、目にしませんよね? むしろ世のテレビ番組や街中のポスターなどでは、かなりスリムな人が「美」の象徴として描かれているようにも思います。

この連載の過去記事で「可用性バイアス」について触れました。私たちの脳には「よく触れている情報ほど、思い出しやすい」というクセがあるということでした。

「平均的な体重に比べて(かなり)太っていることは身体に悪い」「やせているほうが美しい」そうした情報にばかりに触れているうち、私のなかに「平均的な体重に比べて、(ちょっとでも)太っているのは身体に悪い」という #健康警察 が育ってきたのではないか。その結果、鏡を見たときに、ちょっとでも丸くなっている自分を許せなくなってきていたのかも……。

もちろん、ワクワクしながらボディメイクとしてトレーニングをしたり、食事管理をしたりしている人もいらっしゃるでしょう。「それが悪い!」と言いたいわけではありません。でも、たとえば雑誌のグラビアに載っている、ストイックなまでにメイクされたモデルさんの身体を見て、「自分はだらしない」と思って追い込まれてしまうと、かえって体の調子をおかしくしてしまうことも考えられます。

先ほどの研究結果を見るに、もし本当に「健康な体」を求めるのであれば、役に立つのは「ほどほどでOK」という考え方を身につけることかもしれません。しかし先ほど紹介した「可用性バイアス」は、人間の脳にそもそも備わっているクセなので、タチが悪い。

これだけ「太っていることはけしからん」という情報に晒される世の中で、それを無視するのは難しいことです。どうすればよいのか。自分なりに、まずは次のことを心がけようと思っています。

①自分の体形と、他人(テレビ番組のモデルも含め)を比べない
②鏡を見て「丸くなった?」と思ったら、自分の中の #健康警察 が騒いでいないか自省する
③「ちょっと丸いも個性のうち」と受け入れる

けっこう難しそうな3カ条、ですが、ダイエットブログを書いて4年が経過し、立派な40代となった自分が今後、ほどほど健康に生きていくうえでのひとつの大事な「たしなみ」として心に留めておこうと思います。

(注)なお、BMI30を超えるような肥満のかたは、健康維持のためにもダイエットがおすすめされています。また、適切な体重には個人差があり、BMIの基準でやせや肥満に分類されたとしても、直ちに何らかの病気など健康問題を抱えるわけではありません。もしご自分の体重に不安を抱えておられたら、職場の産業保健職の方などにご相談してみてくださいね。

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