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「ほうとうはちょっと…」髭男爵・山田ルイ53世が触れた山梨のタブー

MCを務める番組で、誕生日を祝ってもらった髭男爵・山田ルイ53世さん=本人提供
MCを務める番組で、誕生日を祝ってもらった髭男爵・山田ルイ53世さん=本人提供

目次

山梨の‶週一県民〟を名乗る髭男爵・山田ルイ53世さんですが、かつて郷土料理に対して取った態度が波紋を呼んだそうです。「ウマい!」、「最高!」ではなく、口から出たのは「ほうとうはちょっと……」。山梨名物との浅からぬ因縁について、つづってもらいました。

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これといって縁などなかった山梨

昨年今年とお盆やお正月、GWなどの連休明け、
「実家から母が泊まりに来てー……」
「正月、田舎に戻ったんだけどー!」
といった台詞を耳にする機会がめっきり減ったのは、言うまでもなくコロナ禍の影響だが、筆者はそもそも‶里帰り〟を一度もしたことがない。
この20数年の間、両親と顔を合わせたのは2~3回。
場所は全て東京だった。
基本、年に一度電話で話せば良い方という疎遠ぶりだが、別に不仲というわけでもない。
詳しくは拙著『ヒキコモリ漂流記』に任せるとして、まあ、‶そういう家族〟というだけである。
いずれにせよ、江戸時代の国替え大名よろしく、とっくの昔に実家そのものが他県へと引っ越していることもあって、「ココが地元だ!」と胸を張れるほどの地元が筆者にはないが、一応の出身地は兵庫。
大学で愛媛の松山に少し、あとはずっと東京住まいだ。

これといって縁などなかった山梨との〝馴れ初め〟は、かれこれ10年ほど前まで遡る。
いや、芸人となってからは、ショッピングモールやお祭り、学園祭のお笑いステージといったイベントごとに招かれ何度も足を運んでいたし、富士急ハイランドのジェットコースターで悲鳴を上げ、方位磁石片手に樹海を彷徨うなど、テレビ番組のロケでも何かとお世話になってはいた。
しかし、それを言うなら、他の46都道府県とて同じこと。
‶地方営業〟が主戦場の一発屋にとって、訪れていない県を探す方が難しい。

そんな筆者に、山梨放送(YBS)から、
「ラジオのパーソナリティーを!」
とのオファーが舞い込んだのが、先述の‶10年ほど前〟の話。
以来、昼の3時間半の生放送で喋るべく、週に1度の甲府詣でを欠かさない。
リスナーと電話をつなぐと5割以上の確率でブドウ農家の方だったり、盗難車のナンバーを読み上げ発見のご協力を仰ぐ県警のコーナーがあったりと、ローカル色は濃いものの、SNSやラジオアプリのお陰で全国からメールが届くので、やり‶甲斐〟も十分である。

今では自ら‶週一県民〟を名乗る筆者。
ここ数年、家族旅行も山梨一辺倒なので、厳密には週一どころの騒ぎではない。
八ヶ岳でスキー、フルーツ狩りなら笛吹市、河口湖畔の温泉宿から眺める富士山は大きいとか美しいを通り越して……‶コワい〟。
(これが畏怖というヤツか……)
と山に睨みつけられているような感覚に陥り、反射的に身を隠す場所を探してしまう。


「明日って、‶ほうとうの日〟でもあるんですよ!」

さて、ひと月ほど前のこと。
件(くだん)のラジオ番組の打ち合わせ中、
「明日って男爵の誕生日ですよね?」
とどこか得意気なディレクター氏に、
(まさか、ケーキでも出てくるんじゃ……)
と筆者は思わず身構えた。

その日は、4月9日。
仰る通り、翌日46歳を迎えるのは事実だったが、人付き合いに疎く普段から社交がゼロの筆者にとって、‶皆に誕生日を祝われる〟というシチュエーションは、
(なんか申しわけないな……)
と恐縮するだけで、居心地が悪いことこの上なかったからである。
大体、50を目前に一発屋と揶揄される身ではちっともめでたくなどない。
言っちゃ悪いが、正直しんどい……などと悶々としていたがすべて杞憂。
結局、何も起こらなかった。
色んな意味で恥ずかしい。

ちなみに、4月10日生まれの有名人と言えば和田アキ子に堂本剛、木村佳乃と実に豪華なラインアップ。
徳川幕府に開国を迫ったペリーが生を享けたのも、タイタニックがイギリスのサウサンプトン港から旅立ったのもこの日だそうな。
黒船から豪華客船、筆者のごとき‶泥船〟までバリエーション豊かだが、ここで、
「明日って、‶ほうとうの日〟でもあるんですよ!」
とディレクター氏からマメ知識が飛び出した。
その口振りが‶運命的でしょ!?〟と言わんばかりの熱を帯びていたのは、山梨名物と筆者の間に浅からぬ因縁があったせいだろう。

4月10日の「ほうとうの日」に山梨県庁地下食堂でほうとうを食べる人たち=2018年、甲府市丸の内1丁目
4月10日の「ほうとうの日」に山梨県庁地下食堂でほうとうを食べる人たち=2018年、甲府市丸の内1丁目
出典: 朝日新聞

県外の人間の戸惑いも当然あって良い

問題は‶ほうとう〟につきもののカボチャ。
もともと好きではない上に、うどんの出汁に溶け込んで‶甘~く〟してしまうので、関西人の端くれとして(なのかどうかは、自分でもよく分からぬが)どうにも受け入れ難かった。
とは言え、それだけならただの好き嫌い。
本当にマズかったのは、番組の中で、
「ほうとうはちょっと……」
と筆者が公言していたことである。

何も闇雲に毒づいていたわけではない。
本来郷土料理とは、地元の人間だけで楽しんでいた‶内輪ウケ〟の味覚だったはず。
県外の人間、よそ者の、
「このカボチャが良い味出してるよね!」
といった称賛も大歓迎だろうが、
「うぇ~……なんでカボチャ入れるの?」
との戸惑いも当然あって良い。
むしろ郷土色、異質性のアピールに一役買っているのは後者の方ではという気さえするが、昨今の‶ご当地グルメ〟ときたら「ウマい!」、「最高!」以外のコメントはほぼ禁忌(タブー)。
いささか窮屈ではないか……そんな思いの丈を包み隠さず披露しただけである。

この問題提起、お叱りの声も寄せられたが、意外と多かったのが、
「わたしも、ほうとうのカボチャ苦手です!」
という県民のエール。
お陰様で、首の皮一枚つながり番組は今も続いている。
とにかく、そんな一悶着あった相手の特別な日が自分の生まれた日と‶被った〟のには驚いた。

観光客用に売られているほうとう=山梨県地場産業センター
観光客用に売られているほうとう=山梨県地場産業センター
出典: 朝日新聞

もはや魔法……「カボチャが必要だ!」

なんとなく想像はついたものの、
「どうしてまた、4月10日が?」
とディレクター氏に記念日制定の経緯を尋ねると、
「4は英語でフォー、10はトーとだからフォート―……ふぉうとう……ほうとうです!」
と案の定の答え。
(いや、もう‶フォー〟って言ってるやん!)
と引っかからずにはいられない。
知ってか知らずかほうとうの前に、よりメジャーな麺類、ベトナムの‶フォー〟を登場させてしまうあたり痛恨の‶香盤〟ミス。
お笑いライブで、霜降り明星やぺこぱのあとに髭男爵が出てくるようなものだろう。
ある意味、郷土愛のなせる業、もしくはただの‶天然〟かもしれぬ。

この春。
山梨との絆が、さらに深まる出来事があった。
『やまなし調ベラーズ ててて!TV』……毎週金曜夜7時からYBSでOA中の情報バラエティー番組、そのメインMCに筆者が抜擢されたのだ。
いや、有難い。
都内ではしがない一発屋芸人が、JR新宿駅から1時間半ほど電車に揺られると‶ゴールデン〟のMCに早変わり。
もはや魔法……シンデレラさながらだが、となるとほうとうについても、
「カボチャは絶対必要だ!」
と宗旨替えせざるを得まい。
カボチャがなくては、馬車もない。
馬車がなければ、お城の舞踏会へ向かうことも叶わぬからである。

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