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お金と仕事

新人教育、やってはいけない「残念な研修」リモート時代の落とし穴

企業の新人教育もリモートの時代。「失敗しない」方法をオンラインアウトソーシングのベンチャー企業で働く小澤美佳さんが紹介します(写真はイメージです)
企業の新人教育もリモートの時代。「失敗しない」方法をオンラインアウトソーシングのベンチャー企業で働く小澤美佳さんが紹介します(写真はイメージです) 出典: PIXTA

目次

新型コロナウイルスの影響は、企業の新人教育にも及んでいます。リモートでのプログラムも増える中、同じ社内にいないため、心理面や理解度を把握するのが難しいと感じる管理職の人もいるのではないでしょうか。オンラインでの「失敗しない」新人教育とは。リクナビの副編集長などリクルートで10年間人材領域に携わり、現在はオンラインアウトソーシングのベンチャー企業で働く小澤美佳さん@mica823が紹介します。
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相手の理解度が分かりにくいオンラインでの育成

4月に入り、新しい年度になりました。新型コロナウイルスの影響で今年度も引き続きリモートワークが推進されていくと予測されます。

人材育成の支援などを行うコンサルティング会社、ジェイフィールが1月に行ったリモートワークに関する調査によると、マネージャー(管理職)層の45.6%が「新人が経験値が高まらない」、27.9%が「スキルセットがしづらい」と新人教育に対して悩みを抱えていることが分かりました。春から新組織になったものの、対面で顔を合わせることなくオンライン上のやりとりで新人を迎えることに不安な方も多いのではないでしょうか。

私の会社は世界33カ国400人のメンバーがおり、フルリモートという形で勤務しています。

リモートワークは柔軟な働き方ができ、場所や時間に拘束されないという魅力がありますが、「相手の顔が見えていないため、心理面や理解度などを把握するのが難しい」という課題は創業当初からあり、長い時間をかけて向き合っています。今回は取り組みの中で分かってきた、オンラインでの教育方法をお伝えします。

ファシリテーターとして会社の会議を進行する小澤美佳さん(中央上)=knit提供
ファシリテーターとして会社の会議を進行する小澤美佳さん(中央上)=knit提供

最初から「高レベル」は要注意

新人を組織に定着させ、現場での戦力化までもって行くことを『オンボーディング』と呼びます。リモートの環境ではまず、「全てのコミュニケーションが完全に足並みが一致することが難しい」「人の育成には段階を踏んでいくことが大切である」という二つを念頭におきましょう。

組織に入ってすぐ新メンバーのオンボーディングが順調に行くことは「まず無い」と言っていいでしょう。だからこそ、フェーズを区切って段階的に目標設定をすることが大切です。それぞれのフェーズで何を行う必要があるのか、どのような対応が適しているか内容を作り込んでいく必要があります。

残念ながら、自社でも入ったばかりの方が短期間で辞めてしまうことがあったのですが、当時はフェーズを区切らない教育をしていました。最初からかなりレベルの高い目標を設定していたため、入社したばかりの人にとっては大きな負担になっていました。

また、「これができるようになって当然」というメッセージを与える形で研修を行ってしまうことにも注意が必要です。「この企業でこのまま自分はやっていけないかもしれない」と不安になり、誰にも相談できないという状況が生まれがちになります。

これは決して「高い目標を与えるな」と言うことではなく、「目標の見せ方」にポイントがあります。

「最終的にはここまでできるようになってほしい」「マネージャーにはこういうことまでお願いしたい」という目標は伝えてもいいのですが、その代わり「1カ月間でここまで達成してほしい」「次の1カ月はここまで」というように段階を踏み、直近の目標をセットで伝えることが大切です。これにより背伸びした目標ではなく、段階を踏んでチャレンジすることができます。

ニットでは入社から2カ月で「新メンバーが独力で業務を獲得し、自律的に働ける」という状態を「オンボーディングに乗っている」と定義しています。その上でフェーズごとに区切って新メンバーが業務の軌道に乗るようにサポートしています。

knitで実践している新人教育の一例=同社提供
knitで実践している新人教育の一例=同社提供

育成担当を誰にするか

また、新人と言っても新卒と中途入社の前提とするスキルや管理職側の思いは異なります。

新卒社員:社会人のイロハなど含め、何も知らない状態。
     業務だけでなく、会社で働くということは何かを身に付けてほしい。

中途入社社員:社会人経験があるという前提。
       それにプラスして、本人の得意を生かしてほしい。

さらに大切なことは「育成担当者を誰にするか」です。そしてこれは、新卒・中途で好ましいタイプが異なります。

新卒社員:手取り足取り教育出来る人。こちらから声をかけられる面倒見がいい人が理想。

中途入社社員:現場の配属部署で、得意を生かせるように、質問をしやすい人を育成担当者にする。

フェーズに応じて会社の流儀と仕事の進め方を伝えながら、オンボーディングを目指すこと目標にしましょう。

管理職が持つべき四つのモットー

次は、日々のやりとりでどのようなことを意識したら良いかです。フェーズごとの成長にはコミュニケーションの積み重ねが欠かせません。管理職が持つべき四つのモットーをご紹介します。

①本質的なマネジメント力向上と性善説に立つ
リモートになり、「本人任せだと、仕事をしているのか不安になる」という声もよく聞きます。しかし、仕事をサボりがちな人は、オフィスでも家でも同じことだと私は思うのです。そのため、まずは「仕事をしている」と信じましょう。

また、在宅の場合は長時間労働の危険があるということを念頭に置かねばなりません。例えば、移動時間というオンとオフの切り替えの時間がなくなり、夜中まで物理的に働けるため、真面目なメンバーが働き過ぎで体調・メンタルを壊しやすいというケースも多いです。

マネージャーは働く時間にも着目し、メンバーのケアをしましょう。特に新人は「頑張らないと!」という意識が強く、気にかけていくことが大切です。

②コミュニケーションの頻度を高める
オンラインでの対新人マネジメントにおいては、コミュニケーションの質や量ではなく、頻度を高めることが大事です。
月に1回2時間の1on1(1対1の面談)より、毎日5分の1on1の方が効果的です。

例)コミュニケーションのタイミングの一例
・9:30にオンラインで朝会。「気になったニュース」「今日のやること」など、1人1分ずつ話す。最後にマネージャーからみんなへの激励をし、「今日も一日頑張ろう!」と元気よく始める。
・18:30頃に、全員日報を提出。マネージャーは全員に対してコメントを返す。メンバーはマネージャーからのコメントに「オンラインでもきちんと見てもらえた!」「明日も頑張ろう!」と思えますし、他の人もそのコメントから学びを得ることができる。
・新卒入社などの社会人としての新人は、毎日5分間の1on1。毎日顔を見て話すだけで、緊張感が保てる。日報を元に会話をするのも良い。
・最低でも、週1回以上の30分の1on1を。「なぜ出来ていないのか?」よりも「どうやったら出来るかな?」を一緒に考えてみる。

③信頼関係を構築は褒めること
メンバーは上司のことを自分の想像以上に見ているものです。特に、今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような有事の時こそマネージャーのスタンスが問われているといえます。

オフィスに出社して顔を合わせていたら、上司の表情や必死さも伝わるし、飲みニケーションによって想いを伝えたりメンバーの悩みに寄り添ったりもしやすいですが、オンラインではそれが難しいですよね。

そのため、上司からメンバーへ歩み寄ることが大切です。メンバーを観察し、チャットなどで「昨日の商談、よくできていたね」「連絡してくれた情報、すごく勉強になった」など、「1日、1褒め」を心掛けて、オフィス以上に認める姿勢を持ちましょう。

自宅で自律的な仕事を促すためには、「信頼関係を構築して、メンバーのやる気を生み出す」ことが重要なポイントです。

④目標設定・役割分担・推進方法を策定し、PDCAを回す
リモートワークでは、途中の業務進捗を把握する機会を定期的に設けて推進していくことが重要です。

監視という形ではなく「あなたの業務内容や取り組みの姿勢はちゃんと見ているよ」という見守りが、心理的安全性を生み、信頼関係の構築につながります。

また、評価システムでは通説ですが、新人であればプロセスの評価も重要です。KPI(※)の設計とプロセスをやり切っているのかという進捗管理が肝になります。

※Key Performance Indicatorの略。目標を達成する上で、その達成度合いを計測するための定量的な指標のこと。

「人の育成」はコミュニケーションと信頼の積み重ね

企業としては「早く新人に成長してもらい、事業へ貢献してほしい」と思いがちです。しかし、自分の新人時代を思い出してみましょう。入社してからは「何がわからないかもわからない」という状態で、「自分が成長できているのか」という不安な気持ちはありませんでしたか。

新人育成は、一つずつコツコツと知識と経験を積み上げていくことが大切です。事業をオンライン化し、働き方をリモートワークにすることで「何か特別な施策があり、それを行うことによって組織運営もうまくいくのでは」と思いがちですが、それも誤りです。

リモートワーク導入後であっても「施策を根付かせるためには繰り返し試行錯誤していく必要がある」「マネジャーとしてメンバーを注視する」という組織に必要な根本部分はオフィスで出社していた時のコミュニケーション方法と変わりません。

この春は特にリモートワークで新人教育という新たなチャレンジをする企業も多いと思います。今回の内容がみなさまにとって一歩ずつ進んでいくヒントになれば幸いです。

小澤美佳 株式会社knit(ニット)広報。2008年に株式会社リクルート入社。中途採用領域の営業、営業マネージャーを経て、リクナビ副編集長として数多くの大学で、キャリア・就職支援の講演を実施。採用、評価、育成、組織風土醸成など幅広くHR業務に従事。2018年 中米ベリーズへ移住し、現地で観光業の会社を起業。2019年にニットに入社し、カスタマーサクセス→人事→営業を経て、現在、広報に従事する傍ら、オンラインでのセミナー講師やイベントのファシリテーターを実施。副業で嘉悦大学の大学講師。キャリアや就職などに関する授業を担当。Twitterアカウントは2.2万のフォロワーがいる。

Twitterアカウント:https://twitter.com/mica823
note:https://note.com/micakozawa

小澤美佳さん=同社提供
小澤美佳さん=同社提供

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