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エンタメ

フワちゃん、朝日奈央の躍進に“メンター” 替えのきかない存在に

ネット動画で築いた唯一無二のポジション

「2020ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に「フワちゃん」が選ばれ、壇上で喜ぶフワちゃん=2020年12月1日午後2時45分、東京都千代田区、上田幸一撮影
「2020ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に「フワちゃん」が選ばれ、壇上で喜ぶフワちゃん=2020年12月1日午後2時45分、東京都千代田区、上田幸一撮影
出典: 朝日新聞

目次

現在、テレビをにぎわせているバラエティータレントの朝日奈央とフワちゃん。アイドル、お笑いコンビからともに独り立ちした先にネット動画があり、やがてテレビで頭角を現すようになった。バカリズムの洗礼によってバラエティーに目覚めた朝日、放送作家の一言で今のビジュアルが誕生したフワちゃん。2人がブレーク後も人気を維持している理由はなにか。2人の足跡から、今求められている「替えのきかない」タレントのあり方を考える。(ライター・鈴木旭)

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『アイドリング!!!』の愛されキャラ・朝日奈央

朝日は中学生の頃から芸能の世界に身を置いている。2007年からファッション誌『ラブベリー』(徳間書店)の専属モデルとして活動し、翌2008年には女性アイドルグループ「アイドリング!!!」の2期生として加入。フジテレビ発のグループということもあり、CS放送および地上波に出演するアイドルとしての顔も持つようになった。

『アイドリング!!!』の総合司会は、コンビを解散してピンになったばかりのバカリズム。体を張った企画が中心だったこともあるが、アイドルである彼女たちに容赦のない対応を見せて笑わせた。その中、朝日はガヤとしてのポジションを担いながら、“おバカ”な一面ものぞかせる愛されキャラだった。

メンバーのファッションセンス批評、ボーイッシュキャラ、相撲対決企画など、朝日が目立つシーンはあったものの、残念ながら番組の枠を超えて支持されるには至らなかった。2012年に同グループの菊地亜美がバラエティーでブレークを果たしたが、これを受けて朝日の人気に火がつくこともなかった。

委嘱状を手に敬礼する朝日奈央さん=2020年9月19日、埼玉県警機動センター
委嘱状を手に敬礼する朝日奈央さん=2020年9月19日、埼玉県警機動センター
出典: 朝日新聞

テレ朝動画『青春バカリズム』で覚醒

2015年10月、「アイドリング!!!」は、“全員卒業”という形でアイドルグループとしての活動を終了する。その後、朝日はバラエティータレントへの道を模索するも、チャンスには恵まれない時期が続いた。

そんな時に出演したのが、2016年にテレ朝動画やauビデオパスで配信された『青春バカリズム』だった。表向きは「大阪にいる東京03に会いに行こう!!」という企画で、バカリズムと朝日は新幹線で大阪を目指して移動する。しかし、実際にはバカリズムの思いつきで途中下車し、朝日が振り回されるという内容だ。

駅構内や街を歩きながら立ち寄った店でご当地グルメを口にする2人。すかさず朝日はバラエティーのいろはを相談するが、バカリズムは執拗に視線や手振りで「食え」と指示する。

東京、新横浜、名古屋、大阪と移動する中で、手羽先唐揚げ、海老どて、味噌串カツ、どて煮、味噌煮込みうどん、みそかつ、ひつまぶし、牛肉ひつまぶし、小倉トースト、ういろう、肉うどん……など、時に涙目を浮かべながら朝日は食べに食べた。しかも最終的には、大坂に東京03はいないという結末だ。それでも朝日は笑顔で撮影を乗り切った。

『青春バカリズム』の最終回では、今後の番組企画を朝日がプレゼンした。しかし、バカリズムと東京03からことごとく案を却下され、朝日は声を上げることもなく泣き出してしまう。ただ、朝日はこれで終わらない。めげずに提案し続け、泣いたことが嘘だったかのように場を盛り上げていった。

この時に「どんなに追い込まれてもやり切る姿勢」を見せたことで、朝日のバラエティータレントとしての才能が注目される。

2017年4月には、産休により休養することになった松丸友紀アナウンサーの代打として『ゴットタン』(テレビ東京系)のMCに就任。以降、しばらくは野呂佳代とともに番組の顔となる。2018年7月には、『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ系)に出演し、目と鼻に10円玉を入れる変顔を披露して話題になるなど、着実に自分のポジションを確立していった。

そして、『青春バカリズム』最終回の3年後、「2019上半期ブレイクタレント」(ニホンモニター調べ)で10位にランクイン。現在でも、朝日はバラエティータレントとして活躍中だ。バカリズムから直々に洗礼を受け、朝日は徐々に覚醒していったのである。

朝日奈央=2019年11月、大阪市北区、杢田光撮影
朝日奈央=2019年11月、大阪市北区、杢田光撮影
出典: 朝日新聞

目立たなかったフワちゃん

朝日の後を追うように注目を浴びたのがYouTuber芸人のフワちゃんだ。

大学2年生の頃にワタナベエンターテインメントのお笑い養成所に入学。在学中に同期生と「SF世紀宇宙の子」というコンビを結成するも鳴かず飛ばず。一度だけ『有吉ジャポン』(TBS系)に出演してネタを披露したこともあるが、フワちゃんは黒衣役に徹するのみで今のような自由奔放なキャラは見られなかった。

転機は2017年6月に出演した静岡朝日テレビ制作のインターネットテレビ局「SunSetTV」(現在は配信終了)で配信された『Aマッソのゲラニチョビ』だった。事務所の先輩であるAマッソの2人に説教されるという設定の動画で、フワちゃんのマイペースな切り返しが面白いと一部の視聴者から熱烈な支持を受けた。

同年9月にコンビは解散。事務所も離れ、フリー芸人としての活動を余儀なくされる。一見下降しているようにも思えるが、フワちゃんが本領を発揮したのはここからだった。

「2020ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に「フワちゃん」が選ばれ、あいさつをするフワちゃん=2020年12月1日午後2時46分、東京都千代田区、上田幸一撮影
「2020ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に「フワちゃん」が選ばれ、あいさつをするフワちゃん=2020年12月1日午後2時46分、東京都千代田区、上田幸一撮影
出典: 朝日新聞

放送作家の一言でフワちゃんのビジュアル誕生

2017年12月、先述した『Aマッソのゲラニチョビ』の企画「台湾・タイマン・ツアー」に再びフワちゃんが登場する。

内容は旅の道中でAマッソとフワちゃんがひたすらボケ倒し、獲得ポイントを競い合うというシンプルなものだ。これだけでも十分面白いのだが、なによりもこのツアーで意味深かったのは、フワちゃんのビジュアルが誕生したことだろう。

この台湾ロケに同行していた放送作家・白武ときお氏は、著書『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社)の中で「ボサボサのありのままのロングヘアで出ようとしていたから『フワちゃん、ここから変身するんだよね?』って振ってみたんです。そしたらフワちゃんは『え?』と考えたあと『もちろん!』と言って、空港のトイレにこもりはじめた。戻ってきたら、ビビアン・スーの髪型になっていました。実はあのスタイルは『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』で一大ブームとなった『ブラックビスケッツ』のメンバー、台湾出身のビビアン・スーさんから来ているのです」と、その経緯を明かしている。

その後、2018年4月にYouTube個人チャンネル『フワちゃんTV/FUWACHAN TV』を開設。お笑いマニアのバラエティータレント・指原莉乃が、翌2019年4月に放送された『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ系)の中で“イチオシ芸人”として紹介したことをきっかけに、テレビの世界でも注目を浴びるようになった。

天性のポジティブさ持つ朝日奈央

朝日とフワちゃんに共通するのは、地上波の番組ではなくネット動画をきっかけにキャラクターが開花したこと、そして潜在能力を引き出した“メンター”の存在があったことだ。とはいえ、ブレーク後に失速してしまうタレントも多い中、なぜ2人は長く支持され続けているのだろうか。

朝日は、いろんな意味で柔軟さに富んでいる。現場の空気を読んで、メインにもサブにもなれるのが特徴だ。また、師と仰ぐバカリズムから褒められると嬉し泣きし、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)のドッキリに戸惑って涙目になるなど、人柄のよさも支持されている。

朝日の人柄が伝わるのが2018年12月15日放送の『ゴットタン』(テレビ東京系)での一コマだ。「(『アイドリング!!!』時代の朝日に)泣こうがわめこうか徹底的にやらせた」と語るバカリズムに、朝日が「升野さんは人を追いつめるのが得意なんですよ」と軽いトーンで返すやり取りを披露している。

朝日はどんな仕打ちを受けても、ポジティブに変換してアウトプットできるのだ。この部分は、教えられたものではなく天性のもの。朝日の最大の特徴と言えるだろう。

企画の着地点をイメージできるフワちゃん

一方のフワちゃんは、空気を読まないマイペースキャラを売りとしながらも、そのグラデーションのつけ方が秀逸だと感じる。ネット動画とテレビとで“キャラの強弱”をつけ、求められているものは瞬時に放つ。これはSNSを巧みに活用し、自身で動画編集をしていることも大きいのかもしれない。自身を俯瞰した視点が垣間見える。

2020年11月21日に放送された特番『まつもtoなかい~マッチングな夜~』(フジテレビ系)では、それが顕著に現れていた。内容は意外な2人を何組か対面させ、どんな会話に発展するか見届けるというもの。フワちゃんは、ロサンゼルスを拠点に活動するモデルのローラと初対面した。

ある種の緊張感が漂う中で言葉を交わし合う2人。キャラの濃さがお互いを打ち消し合い、予想通りトークは噛み合わない。終盤でフワちゃんは共通の趣味というヨガを話題に挙げ、披露する段になってMCのダウンタウン・松本人志を端に呼んだ。普通にやるべきか笑いをとるべきか相談を持ち掛けたのだ。

結局、この相談も功を奏することなくローラと打ち解けることはなかったが、番組としては盛り上がりを作ることができた。バラエティーとしては大成功だろう。フワちゃんの頭には、その着地点の映像が浮かんでいたに違いない。

「このタレントでしか成立しない」存在に

奇しくもネット動画で地盤を築き、テレビでブレークを果たした朝日とフワちゃん。今年2020年もその勢いは健在だ。「現代用語の基礎知識選 2020ユーキャン新語・流行語大賞」では「フワちゃん」がトップ10入りし、朝日は初の冠番組『朝日奈央のキラめきスポーツ〜キラスポ〜』(MBS毎日放送)がスタートするなど好調ぶりを見せている。

とはいえ、それぞれの特性と求められているポジションはだいぶ違う。

数年前まではバラエティータレントと言うと、「体当たり」「NGなし」という枠があり、そこに追随する者が番組に呼ばれる印象が強かった。また、そこを目指して全力で食らいつくタレントが評価されていたとも言える。

ところが最近の番組は、「このタレントでしか成立しない」という印象が強くなった。表向きのキャラや取り繕ったような対応は、すぐに視聴者から見透かされてしまう。だからこそ、自分の特性を理解し、無理なく立ち回れるタレントに声が掛かるのだと思う。

朝日とフワちゃんは、その端境期に現れた。それぞれのスタンスは、今後のタレントの新しいひな型となっていくに違いない。

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