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「ポジションがなくなる…」アルコール依存だった漫画家・高浜寛さん

漫画「ニュクスの角灯」には、自身の成長が表れていると話します。

「ニュクスの角灯(ランタン)」 (リイド社) で、第24回手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞した高浜寛さん
「ニュクスの角灯(ランタン)」 (リイド社) で、第24回手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞した高浜寛さん

目次

19世紀の長崎とパリを描いた漫画「ニュクスの角灯(ランタン)」 (リイド社) で、第24回手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞した高浜寛(たかはま・かん)さん。20代から30代にかけて、アルコール依存に苦しんでいました。依存からの回復の途中に生まれたこの作品には、自身の成長が表れているといいます。地元・熊本県天草市で作家活動を続ける高浜さんに話を伺いました。

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ニュクスの角灯
「ニュクスの角灯」 1878(明治11)年、長崎。西南戦争で親を亡くした美世(みよ)は、道具屋「蛮(ばん)」で奉公を始める。ドレス、ミシン、小説、幻灯機……店主・小浦百年(ももとし)がパリ万博で仕入れてきた西洋の文物を通じ、美世は“世界”への憧れを抱くようになり……。文明開化の最前線にあった長崎とジャポニスムの最盛期を迎えつつあるパリを舞台に描く感動の物語。
©️高浜寛/リイド社ーー出典・朝日新聞デジタル
「ニュクスの角灯」 第24回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞特集
【10月30日公開】「ポジションがなくなる…」アルコール依存だった漫画家・高浜寛さん
【10月31日公開】「もう死ぬんだ…」漫画家・高浜寛を変えた熊本地震 作品で描く自立
【11月1日公開】全面信頼の作者に編集者がぶつけた重要設定「ニュクスの角灯」秘話
 

アルコールを手放せない日々

「明るく、希望が持てる」作品として描いた「ニュクスの角灯」。それまで「ネガティブで暗いテーマが多かった」高浜さんの、新境地とも言える作品の背景には「自分の成長があった」と振り返ります。

国内外で高く評価されている高浜さんですが、アルコールや薬物依存に苦しんできました。デビュー直後から海外メディアの注目を浴び、ヨーロッパの漫画祭へ出席。現地の作家と同じようにスピーチやファンサービスを求められました。

「当時は大学卒業をしてすぐ、22歳くらいでした。社会経験がない状態でも、慣れないシーンをうまく立ち回らないといけません。カメラが来たり、取材を受けたり、編集者の方といきなり会って名刺交換をしたり。もともと内向的で、対人不安のような面もあって……」

忙しさやパニック、急な環境の変化から、アルコールを手放せなくなりました。さらに、精神安定剤や睡眠導入剤を飲むことで自分をコントロールしている状態だったといいます。

「お酒の量は多かったと思いますが、増減はあります。ただ、血中のアルコール濃度が低くなると、お酒を飲まないといけなくなっていました。カバンの中に強めのお酒を入れた小瓶を持ち歩くようになって。種類は果実酒、カシス、ウイスキー、ブランデー……味が好きなお酒でしたね。20代初めから、32、33歳くらいまで持ち歩いていました」

アルコールを断つきっかけとなったのは、30代前半のころ。「小動物がたくさん周りにいるような、ザワザワ集まってくる幻聴や気配を感じました。お酒のせいで幻覚、幻聴が出たらまずいということは聞いていて、『仕事を失う』『完全に社会的なポジションがなくなる』と思ったんです」

自分を客観視する時間

まずは薬の摂取をやめることから始めましたが、アルコールをやめるまでには5、6年かかりました。アルコールに依存していた時期も漫画は描いていて、「ニュクスの角灯」はアルコールを断つ期間の終わりごろの作品です。

「お酒や薬をやめることだけではなく、自分を客観視するトレーニングもしていました。それまで興味の対象は自分自身だったのが、周囲にも目を向けるようになりました。漫画を描くことは自己満足ではなく、エンターテイメントとして描いて、きちんと読者に楽しんでもらい、出版社に還元する。いいサイクルをつくらないといけないと考えました」


漫画家としての姿勢を改めた高浜さん。キャリアをスタートさせた当初から、「自分の職業は漫画家しかない」と決めていました。何が創作活動の原動力となっているのでしょうか。尋ねると意外な答えが返ってきました。

「言葉が変かもしれませんが、義務感に近い感じがします。60歳くらいまでやって、あとは引退してゆっくりしようと決めているんです。ストーリーを描けて漫画も描ける人、特に歴史物を描ける人は少ないので、自分が今やらないとこのジャンルが伸びていかないと思っています。これまでは娯楽でやってきた部分もありましたが、仕事として全力でやるしかなくなりました。物づくりが真剣になったということでもあります。やりがいはありますし、すごく好きな職業です」

「ニュクスの角灯」に出てくる実業家「大浦慶」は、実在の人物をモデルにしました。歴史上の人物を描く際は取材が欠かせません
「ニュクスの角灯」に出てくる実業家「大浦慶」は、実在の人物をモデルにしました。歴史上の人物を描く際は取材が欠かせません

地元・天草で漫画を描く

高浜さんは昨年10月、15歳まで暮らしていた出身地の天草市に、熊本市から移住しました。天草島原の乱をテーマにした次作に向けて取材をしやすいことと、2016年の熊本地震で被災した経験から、自給自足で災害時に対応できる場所に住みたかったためです。

「四季の移り変わりを、リアルに見たり感じたりするようになりました。この時期にこんな花が咲く、虫が鳴くとか。家の庭に出るだけでリフレッシュになります。時々1、2時間鎌で草刈りをすることもあるんです。興味の対象が変わったこともあって、(幕末の長崎・出島を生きる少女を描いた)『扇島歳時記』を始めました。発売されるタイミングの季節を漫画に描いています」

出版社へはデータで入稿し、編集者とは年に数えるほどしか会いません。かれこれ15年ほど、このリモートスタイルで仕事をしています。

「自分の先祖が住んでいた地域に帰ってきたので、先祖たちがしてきたことの追体験ができていると思います。なぜこの場所を選び、どうやって管理してきたのか。作品を描く上でもいいことかもしれません」

「今のところ不便さは感じません。本はネット通販で届くし、ショッピングモールもあります。田舎に来て後悔したことはないんです」

「ニュクスの角灯」 第24回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞特集
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【第24回手塚治虫文化賞】受賞記念動画
熊本の山奥からマンガ大賞受賞『ニュクスの角灯』高浜 寛インタビュー。テレワーク歴15年の漫画家の仕事 出典: bouncy / バウンシー

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