マンガ
ひとりぼっちの夜、ファミレスがくれた〝かけがえのない時間〟漫画に
「夜のファミレスでしか得られなかった空気感、過ごした数々の夜は、大事だったなぁと思うんです」
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「夜のファミレスでしか得られなかった空気感、過ごした数々の夜は、大事だったなぁと思うんです」
真夜中のファミレスで味わう孤独の味と、同じ空間を共有している客の存在。それを「深夜の列車」に例えたエッセイ漫画が、ツイッターで話題になっています。作者に話を聞きました。
仕事帰り、改札を出た主人公の「オオカミ」。空に浮かぶ月を見上げ「ちょっと遅くなっちゃったな…」と疲れ切った顔。家路を急ぎます。
そんなとき、ふとこうこうと光るファミレスの看板が目に入ります。一度は立ち去ろうとしたのですが、立ち止まり、足はファミレスへ。
「接客をした帰りは無性に客になりたくなってしまいます」
メニューを開いても、疲れきった脳と空腹のおなかで選ぶのはおなじみのメニュー。
ドリンクバーで、家では飲まないカルピスを入れ、フライドポテトと、ミニパルフェがテーブルに並びます。
目をとじて、パルフェを味わうオオカミ。
「深夜のファミレスでは何を食べても孤独な味がします(孤独味のふりかけがかかっているカンジ)」
でもそんなオオカミの顔は、けっして「孤独」ではありません。
周りを見渡すと、真夜中なのにぽつぽつと客の姿があります。読書をしている人、がっつりステーキを食べる人、勉強をしている人。
それぞれの客の気配を感じながら窓の外に目をやるオオカミはこう思います。
「まるで深夜の同じ列車に乗り合わせた仲間のよう」
ファミレスの窓から漏れる明かりは、いつの間にか、夜空に浮かぶ車窓の光に変わっています。
「ごちそうさまです」。
真夜中のレジに立つ店員に感謝の言葉をかけるオオカミ。
店を後にしたオオカミはのびをしながらつぶやきます。「目的地到着!」。
「と言うと旅人感が出て少し楽しい」
自宅に到着して振り返ると、乗っていた「列車」ははるか彼方。光る車窓に「またね」と声をかけて、家に入るのでした。
この作品には、「すごく心がほわっとなった」「大人向けの優しい絵本」「列車に乗り合わせた仲間と例えるなんて、とても詩的」「日常の風景がファンタジーに変わった」などのコメントが寄せられました。
「今は深夜までやっているファミレスがなくなり、懐かしくなった」「子どもが夜寝られないとき、フラフラあやしながら立ち寄ったファミレスで店員さんの笑顔に救われた」など、それぞれの深夜のファミレスの思い出も語られました。
作品の「いいね」は計15万件以上になりました。
真夜中にファミレスに行く話1/2 pic.twitter.com/BZlN2JSclB
— 午後 (@_zengo) October 16, 2020
作者の午後さんは、今年5月から、自分の暮らしを題材にしたエッセイ漫画をツイッターで発表しています。
学生時代からデザインを専門にしてきましたが、心には、子どもの頃から好きだった漫画への強い思いがありました。
「書きたいこと」が見つかったのは、自分が孤独にさいなまれた時期のことでした。
不規則な睡眠時間。長い夜。
孤独な時、ツイッターを見ていると、「いいね」を押し合う人たちの存在に救われました。「あなたの孤独感をどうすることはできなくても、見守っているよ」と言われているような気持ちになったといいます。
コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたことをきっかけに、「フォロワーさんに恩返しがしたい」と漫画作品を書いて発信するようになりました。
⚡️ “マンガコレクション”https://t.co/tkNYhao7WJ
— 午後 (@_zengo) May 30, 2020
ファミレスに通っていたのは、コロナ禍の前でした。
午後さんも、飲食店で接客業をしていた時期。「働いた後は疲れきっているし、ファミレスに寄れば、休む時間もなくなります。せっかく働いたお金を使うことになる。『無駄』って感じる人もいるかもしれないですが、私は、夜のファミレスでしか得られなかった空気感、過ごした数々の夜は、大事だったなぁと思うんです」
「『無駄』なものを大事にすることで、気持ちの余裕をはぐくんでいました」
大事な時間の中には、同じように真夜中のファミレスに集まる客の存在もありました。
「みんなこんな時間なのに、こんなところにいて。一種の一体感があるんですよね。ひとりぼっちの夜が集まると、結果、ひとりぼっちじゃないねって」
ファミレスを「列車」に例えたのは、夜という時間が、子どもの頃に読んだ「銀河鉄道の夜」を思い起こさせたからでした。
「『目的地到着』って、頭で思うだけですが、それだけでちょっと楽しい。その後、暗い夜道を帰る憂鬱な気分を払拭してくれる気がします」
コロナ禍前によく利用していた24時間営業のファミレス。先週、この漫画を書くために、午後さんが久しぶりに行くと、深夜営業はなくなっていました。
社会は少しずつ変わっています。
「恩返し」のために始めた漫画の配信でしたが、午後さんにとって、自分を見つめて、アウトプットすることで、自分の孤独感を救ってくれるきっかけにもなっているといいます。
ほかの作品では、眠る前に、次の日の朝食を作るようになったら、明日への希望になった、など、午後さんが夜をやり過ごした孤独との向き合い方も描いています。
「『自分を大事にして』と声をかけられることはあっても、具体的にどうしたらいいかはなかなかアドバイスされません。もがきながら見つけた自分なりのやり方が誰かの手がかりになればと思っています」
深夜のファミレスに寄せられた大きな反響には戸惑いつつ、「あの感覚を感じている人が多くいることが分かってうれしいです」。
「私は、常に孤独だと思って生きてきました。でも、私の孤独な気持ちが、誰かの孤独な気持ちを肯定できればうれしい。一種の仲間意識が生まれたら、孤独ではなくなります。うまく言葉にできませんが、私もマイペースにやっていくので、どうかあなたもマイペースにやっていきましょうって伝えたいです」
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