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丸山桂里奈さん、本並健治さん「師弟」が開いた女子サッカーの未来

芝の練習グラウンド探しから始めた監督業、駐車場を使うチームも……

2015年3月11日、スペランツァ大阪高槻の本並さんの取材をした。丸山は写真左。滝沢美穂子撮影
2015年3月11日、スペランツァ大阪高槻の本並さんの取材をした。丸山は写真左。滝沢美穂子撮影 出典: 朝日新聞

目次

9月5日、ともにサッカー元日本代表である本並健治さん(56)と丸山桂里奈さん(37)の結婚が発表されました。なでしこリーグ・スペランツァFC大阪高槻では、本並さんが監督、丸山さんが選手でした。当時、2人を取材していた私には、丸山さんが本並さんについて語っていた忘れられない言葉があります。2人の吉報から、スポーツにおける指導者と選手の「心地いい関係」。そして、男子サッカーに比べると、厳しい環境にある女子サッカーの未来について考えます。

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出典: 朝日新聞

丸山桂里奈さん
まるやま・かりな 1983年生まれ、東京都出身。 2011年ワールドカップドイツ大会で、準々決勝のドイツ戦に途中出場して決勝ゴールを決めるなど、日本の初優勝に貢献。日本代表では通算79試合に出場し、14得点を挙げた。なでしこリーグのスペランツァ大阪高槻では12年からプレーし、16年シーズンで引退。

出典: 朝日新聞

本並健治さん
ほんなみ・けんじ 1964年、大阪府生まれ。大商大を卒業後、87年から松下電器(現ガ大阪)、97年からヴ川崎(現東京ヴ)でプレー。日本代表GKとして3試合に出場し、2002年に引退。京産大、大阪・東海大仰星高のコーチを経て、12年8月から大阪高槻で指導し、16年12月に退任。現在は千葉県で高校の監督を務める。

なでしこリーグ監督時代の本並監督 厳しいけれど選手思い

2015年3月、当時、スポーツ部でサッカー担当だった私は、本並監督にインタビューをしています。

スペランツァ大阪高槻は、なでしこリーグ2部から1部に返り咲いたばかり。本並監督は、1部で戦っていくため、チームを基礎からたたき上げようと熱いを思いを語っていました。

本並監督が心配していたのが、女子サッカーを取り巻く環境です。2012年に監督になった時、チームは、中学や高校のグラウンドで練習していました。本並監督は、選手が練習に集中できるように、知り合いに頼んで、芝生の練習場を探してくるなど、環境を整えるところから始めたと教えてくれました。

選手のプレーを真剣に見つめる大阪高槻の本並健治監督(右)=2015年3月11日、大阪府高槻市、滝沢美穂子撮影
選手のプレーを真剣に見つめる大阪高槻の本並健治監督(右)=2015年3月11日、大阪府高槻市、滝沢美穂子撮影
出典: 朝日新聞
――入った時のチーム状況は。
 「代表選手とのレベルの差が大きいと感じました。中学生の男子に教えるつもりで、ロングボールの蹴り方など基礎から教えました」

 「問題は練習環境。自分がいた男子の社会人よりあかん状況でした。『本当に1部のチーム? 高校や中学のグラウンドで、選手が自分でラインを引くの?』と驚きました。環境が悪ければいい選手もとれないし、選手のやる気も出ない。知り合いに頼んで芝で練習できるようにしました。ただ、夕方まで仕事のある選手が多いので練習は夜から。練習前に仕事で疲れてしまう。理想は全チームがクラブ化し、練習に集中できるようになることです」

――女子を教える難しさは何ですか。
 「派閥を作るとチームが分裂してしまう。だから、常に情報をキャッチして観察しています。本人に直接言うとややこしくなる。練習中のグループの組み合わせで、仲の悪い者同士をわざと一緒にします」

 ――指導のモットーは何でしょう。
 「チーム力です。選手ありきのチームにはしたくない。能力のある選手でも、問題を起こしたらやめてもらう。Jリーグ時代、個々の能力はあってもまとまらない時があった。選手を集めて話したりご飯を食べたりし、サッカー以外でコミュニケーションを取ることで少しずつ結束力が上がった経験があります」
2015年3月26日付夕刊 (スポーツ好奇心)「なでしこ」大阪高槻1部復帰、本並監督の思いは

チームの練習は厳しかったと思います。本並監督は、男子サッカーの新しい練習方法を女子にも取り入れ、限界まで走りながらプレーさせていました。

ただ、感情を表に出すのではなく、選手一人一人に目配りをしていて、選手との対話に力を入れていたのが印象的でした。普段からの丁寧なコミュニケーションがあったからか、選手たちも監督を信頼しているように見えました。

ピッチから降りると、気さくな方でした。本並監督の趣味は車。当時、「今まで40台くらい乗ってきたね」と話していました。ただ、練習には小さなコンパクトカーに乗ってきていて庶民的な一面も見せていました。

選手のプレーを真剣に見つめる大阪高槻の本並健治監督(右)=2015年3月11日、大阪府高槻市、滝沢美穂子撮影
選手のプレーを真剣に見つめる大阪高槻の本並健治監督(右)=2015年3月11日、大阪府高槻市、滝沢美穂子撮影 出典: 朝日新聞

丸山選手には、2015年6月、なでしこリーグ後半戦に向けた記事で取材をしています。他の選手と同じように、本並監督も全幅の信頼を置いていました。

丸山選手は前年の2014年10月に膝の怪我をしていましたが、リハビリに励んで2015年2月、チームの中心選手として復活しました。その年のワールドカップの代表は逃しましたが、「今度は力を100%リーグ戦に注ぎたいです」とチームの主力として練習に励んでいました。

丸山さんの取材で覚えているのは、本並監督と同じく、高校を卒業したての若手の選手にも気さくに声をかけている姿です。

本並監督は「技術的に一枚も二枚も上の丸山がチームを引っ張って欲しい」と話す。

 サッカーの技術以外でも、丸山はチームにとって重要な存在だ。DFの武田ありさ(24)は「練習も皆より早く来て走っている。チームみんなに声もかけてくれる。学ぶところがたくさんあります」。
2015年6月25日付 大阪県版 (アディショナルタイム)スペランツァFC大阪高槻 スピードと存在感、丸山に期待
W杯中断後の試合にむけ、練習に励む大阪高槻の選手ら。中央はエースの丸山桂里奈選手=2015年6月19日午後、滝沢美穂子撮影
W杯中断後の試合にむけ、練習に励む大阪高槻の選手ら。中央はエースの丸山桂里奈選手=2015年6月19日午後、滝沢美穂子撮影 出典: 朝日新聞

丸山選手 「本並監督についていきたいという気持ち」

2016年2月、丸山さんが、任期を1年延長した本並監督への思いを語ってくれました。

指導者として尊敬している本並さんが1年続けるから、ついていこうという気持ち。監督を信頼しています。
2016年2月の取材メモ
なでしこリーグ1部残留を決めて喜ぶ大阪高槻の選手たち=2015年12月12日、橋本佳奈撮影
なでしこリーグ1部残留を決めて喜ぶ大阪高槻の選手たち=2015年12月12日、橋本佳奈撮影

出典: 朝日新聞

そして、丸山さんは2016年10月の試合で現役を引退、本並監督さんも同じ年の12月に監督を退任しました。

女子サッカー選手の地位向上へ

2人の取材を思い返して考えるのは、女子サッカー選手の地位向上の必要性です。

女子サッカーの地位向上向けてまず必要なのは、結果を出すことで、そこには、2人も強くこだわっていました。

男子選手に比べると、女子選手はグループとして行動する傾向があります。そんな中で、信頼でき引っ張ってくれる監督に「ついて行きたい」という雰囲気があれば、結束力が生まれます。その時、必要なのは強いリーダーシップと、コミュニケーションです。

本並さんは、選手皆と食事を囲むなどコミュニケーションを大切にしていました。そこから、選手との絆も生まれていきました。さらに、本並さんは、練習環境を整え、男子と同じ最先端の練習を取り入れるなど、女子サッカーの地位向上に尽力していました。

本並さんが高槻の監督に就任した2012年当時、女子サッカーの練習環境や集客はかなり悪く、男子と比べてかなり差がありました。

丸山さんが出場した2011年W杯で優勝したことをきっかけに、知名度が上がり少しずつ環境は改善されてきました。目玉選手の丸山さんや澤穂希さんが活躍していた時期は、選手を応援するためサポーターも集まり注目されました。

それでも、まだまだ課題は多いです。

W杯優勝メンバーが多く引退すると、2019年W杯では3大会ぶりにベスト8を逃すなど苦戦、報道も減ってしまいました。練習環境も、多くのチームが芝でできるようにはなりましたが、まだ男子との格差は歴然です。

今年の8月に、日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属の日本女子代表GK山下杏也加選手が、リーグ公式サイトのブログでこう訴えました。

「シーズンを通して、グラウンドが変化します。夏のシーズンになると、よみうりランドの駐車場になります」
「グラウンドが硬くなり、めちゃくちゃ痛いです」

「冬のシーズンになると、イルミネーションの関係でグラウンドの半分のライトが消え、ガソリンで動く小さなライトに変わります」
「もちろん、ライトが届かない範囲はボールが黒く見えて、たまに消えます」

「一つでも多くのクラブチームが、環境もプロフェッショナルなチームになる事を願います」
ゼッタイヨメ | ブログ - 日テレ・東京ヴェルディベレーザ | 日本女子サッカーリーグ オフィシャルサイト

現在は、女子選手はサッカーで食べて行ける選手は一握り。多くの選手は日中に仕事をしています。

来年2021年は日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が誕生します。女性の社会進出への後押しを背景に、再び世界一を目指しています。丸山さんがテレビで活躍し、本並さんとの結婚報道もありました。女子サッカーの注目度も上がることで女子選手の地位向上につながることを願っています。

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