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コロナウイルスで生まれる情報格差 見落とされがちな「テレビ手話」

新型コロナウイルスの情報、いち早く知りたい気持ち、みなさんあると思います。それは障害者も同じです。

新型コロナウイルスについて会見する小池百合子都知事=年3月30日午後、東京都新宿区、北村玲奈撮影
新型コロナウイルスについて会見する小池百合子都知事=年3月30日午後、東京都新宿区、北村玲奈撮影

目次

新型コロナウイルスの感染拡大で、「緊急事態宣言は出されるのか」「外出自粛による影響への補償はどうなるのか」「休校はいつまで続くのか」――など、多くの人が情報を求めています。一方、様々な障害のある人たちにとって、情報収集のための手段は十分とは言えません。中でも、聴覚に障害がある人たちにとって、いち早く情報が欲しい場合、テレビ局などが生中継する記者会見の場に手話通訳者がいるかいないかは大きなポイントです。「一般財団法人全日本ろうあ連盟」理事の中西久美子さんと、非常時における「情報格差」について考えました。

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情報収集のツールは多様、でも高齢者は

新型コロナウイルスが各地で確認されるようになってから、多くの地方自治体も会見を開くなどして情報を発信しています。

しかし、中西さんによると、自治体ごとに開かれている新型コロナウイルス関連の会見では、手話通訳を配置するかどうかの対応が一律ではないそうで、もし会見の場に手話通訳者がいたとしても、テレビ局などの放送では、通訳者が映されないカットになってしまうことが多くあるようです。

「連盟では、今回の新型コロナの関連だけでなく、首長からの重要な発表の際には手話通訳を付けてほしいと要望を出しています。ですが、『放送の自由』という観点から放送局の問題にされてきました」
「一方、放送局側からは『話し手の表情をアップにしたい』という事情があるという話を聞いたこともあります。放送局には、重要な情報を伝える使命について一考していただきたいと感じています」

他方、自治体のホームページを見ると、会見の内容がテキストになったものや、手話通訳者が映った映像が掲載されている場合もあり、情報収集の手段は多様であるようにも感じます。そこで中西さんが懸念するのは、高齢者への情報伝達です。

「聴覚障害者の中でも自治体ホームページやツイッター、Facebookなどを利用して情報を得ることが可能な人もいますが、比較的高齢の方はそのような方法での情報収集が困難な方もいます」

同連盟は2月末、厚労相宛てに「新型コロナウイルスに関係する記者会見での手話通訳を配置してほしい」という要望書を提出しています。中西さんによると、4月1日時点で回答はないとのことでした。

福井県、手話通訳者つきで会見生配信

新型コロナウイルス感染者についての、福井県の記者会見=4月3日 出典: 福井県の公式YouTubeチャンネル「fukuikouhou」
そんな中、福井県では現在、新型コロナウイルス関連の記者会見に手話通訳者を配置し、その様子を、県の公式YouTubeでライブ配信する取り組みを始めています。

福井県では、3月18日に県内の感染者が初めて確認されました。その後、新型コロナウイルス関連の記者会見を定期的に行っており、26日以降はYouTubeでのライブ配信を開始。ほぼ毎日開いている記者会見ですが、会見者の中央に手話通訳者を配置し、報道機関にも手話通訳者が映り込むように撮影・放送してほしいと口頭で依頼しているそうです。

福井県では2018年から手話言語条例が施行されています。普段の記者会見には手話通訳者は同席していませんが、記者会見の様子を動画で県のホームページにアップ。動画はワイプで手話通訳者を映したものに編集しています。

県の担当者は「(新型コロナウイルスの発表に関して)聴覚障害者の方にも健常者の方にも、同時に同じ情報を届けたいと思っている。誰も置き去りにしたくない」と話しています。
 
福井県の新型コロナウイルス関係の記者会見では、手話通訳者が中央に。
福井県の新型コロナウイルス関係の記者会見では、手話通訳者が中央に。 出典:福井県の公式YouTubeチャンネル「fukuikouhou」

口元見えない国会中継のマスク「それよりも…」

また、聴覚に障害のある人は、手話以外にも、話す相手の口元から言葉を読み取るという手段をとることがあります。

4月1日に開かれた参議院決算委員会でも、新型コロナウイルス関連の質問・答弁が相次ぎました。この委員会では、マスク姿の閣僚も多く、口の形をみることができないものもありました。しかし中西さんは、「国会中継はそもそも口形を読み取るのが困難なケース」といいます。

「確かに聞こえない人のコミュニケーションでは、口形も大事な情報になります。しかし、国会中継のような長時間に渡る場合や、映像が話し手を正面から捉えていない場合、テレビ画面をとしてみる場合などは、口の形を読み取るのは非常に困難です」

「それよりは、手話通訳や字幕でしっかりと情報が得られるようにすることを望んでいます」

3日の参議院本会議は、NHKが字幕付きで中継しました。

4月3日の参議院本会議。NHKの中継は字幕をつけることができました。
4月3日の参議院本会議。NHKの中継は字幕をつけることができました。

きこえる人と同じように情報を

手話が言語であることは障害者基本法にも明記されています。障害者差別解消法でも合理的配慮について言及されています。

中西さんは「手話の言語的認知がまだ十分でないこともあり、法律ができたことと現状との乖離があります」と指摘します。

「私たちは、きこえない人だけが優遇された環境を求めているのではなく、きこえる人と同じように情報が得られるような環境の整備を求めています」と訴えます。

「緊急災害時を含めて、テレビ放送での情報配信を充実させることや、「アイドラゴン」(手話や字幕のない番組にそれらを付けることの出来る「聴覚障害者用情報受信装置」)を活用した情報配信を期待したい」

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