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「ステロイドは怖い」不安につけ込み2万個も……科学的根拠の測り方

誤解の多い皮膚の病気をメインに解説した「SNS医療のカタチ」
誤解の多い皮膚の病気をメインに解説した「SNS医療のカタチ」 出典: https://twitter.com/otsukaman/status/1187984254040330240?s=20

目次

医師たちがネットで直接、情報発信するようになりました。その先陣を切っている医師たち「SNS医療のカタチ」は、SNSの情報発信だけでなくリアルイベントを重ねています。昨年12月8日に京都市であったイベントでは、ツイッターやネット記事で発信をしている3人の医師が登場。見た目にも影響するため、偏見や誤った情報が流れやすい「皮膚の病気」について解説しました。

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イベントに登壇したのは京都大学大学院医学研究科・消化管外科の山本健人さん(ツイッターアカウント:外科医けいゆう)、東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科の堀向健太さん(ほむほむ@アレルギー専門医)、京都大学大学院医学研究科・皮膚科の大塚篤司さん(大塚篤司【医師・医学博士】)。総合司会は朝日新聞の朽木誠一郎デジタルディレクターがつとめました。

ネット上に「正しい情報」の量を増やしたい

大塚さんは外来診療や研究のかたわら、ツイッターやネット記事、新聞コラムなどで、医療の情報発信をライフワークのひとつとしています。「ネット上にある医療情報が玉石混交。患者さんがたどりつけるよう、正しい情報の量を増やしたい」からです。

特に皮膚に関する病気は、科学的根拠のない情報が広まりやすくなっています。
「ステロイドは怖い薬」などと誤った情報で不安をあおりつつ、「ステロイドを使っていない」とうたってネット販売しているクリームから、実は強いステロイドが検出されている事例もありました。

2000年代、「ステロイドを使っていない」と紹介されたあるクリームに含まれていたのは、ステロイドの強度では「最も高い」レベルにあたったそうです。大塚さんは「自分でも買えないかなと探してみたら、中国で50グラム7円で買えるんです」と話します。

この会社は、患者を装って「かゆみも赤みも引いた」「うちの子どもも治った」とだまし文句を大量に書き込み、2008年には半年間で2万個も売り上げていたといいます。

2016年にも別の化粧品クリームからステロイドが検出されており、都が発表しています。

大塚さんは、このような現状をふまえ、科学的根拠に基づいたアトピー治療について知ってほしいと、『世界最高のエビデンスでやさしく伝える 最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)を1月末に出版する予定です。

情報の「科学的根拠」の高さ・低さを見極めるには

さらに大塚さんは、医療を受ける私たちにも「エビデンス(科学的根拠)の高さ・低さ」について知っておいてほしいと訴えます。

たとえば、「○○を食べたら病気が治る」

魅力的なワードで、思わず信じたくなってしまいますが、まず「科学的根拠はしっかりしているのかな?」と疑ってみることが大事です。大塚さんはこんな例を出します。

〝南米の一部の地域ではある皮膚病の患者さんが少ないことが知られている。調査の結果、ここの住民は特別な果物を食べていたことがわかった。この成分を抽出したものをサプリとしてのむことでこの皮膚病は改善するだろう〟

「特別な果物」や「南米の一部の地域」と言われると、なんだか信じてしまいそうです。

しかしこれを、こう置き換えてみたらどうでしょうか?

〝日本の一部の地域(宇都宮)ではある皮膚病の患者さんが少ないことが知られている。調査の結果、ここの住民は餃子を食べていたことがわかった。餃子の成分を抽出したものをサプリとして飲むことでこの皮膚病は改善するだろう〟

一気に怪しく感じられます(念のため、いずれも架空の例です)。

大塚さんは「置き換えてみると、これは『偶然そうだったんじゃないか』と想像できますね。ただ関わりのある『相関関係』と、これを食べたら治るといった『因果関係』は違うんです」と解説します。

私たちがエビデンスの高い情報についてすべて知っておくのは大変です。そこで頼りにしたいのが、「エビデンスレベルの高い情報を知っている専門家」である医師たちです。

「本で知った治療があるのですが、これはエビデンスレベルが高いですか?」といった質問なら私にもできそうです。

皮膚の病気「乾癬」 「感染しない」と知って

大塚さんは、なかなか誤解がなくならない皮膚の病気「乾癬(かんせん)」についても解説しました。ミュージシャン・ヒャダインさんも当事者だと明かしている病気です。

赤い皮疹ができ、白い皮膚がぽろぽろとはがれるといった症状があります。病気の名前の響きから「感染する」という誤解が根強くあります。
「温泉に行けない、外に出られないなどつらい思いをしている患者さんもいて、心がすごく苦しい病気です。乾癬はうつらないと患者さん以外が知ることが大切です」と語ります。

会場からの質問にも答える大塚さん(左)と山本さん
会場からの質問にも答える大塚さん(左)と山本さん

そして、患者さんに対しては「早めに受診して治療する」大切さを訴えます。

頭皮の湿疹を放っておいたら乾癬だった患者さんもいるそうです。乾癬は全身の炎症から、心筋梗塞など重大な病気にもつながっていく「乾癬マーチ」が起こるリスクがあるとされています。
また、乾癬患者の1割ほどは「乾癬性関節炎」といわれています。「指の変形が進んでしまうと、現時点では治せる治療がありません。関節炎が疑われたら、進行させないことが大事」と言います。

「この治療が効く」が広まった掌蹠膿疱症

さらに、エビデンスレベルの低い治療法が広まっている皮膚の病気「掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)」についても紹介しました。足の裏や手のひらにうみのあるブツブツができますが、一見すると水虫や手湿疹にみえることもあり、治療しない人もいるそうです。

この病気にかかった芸能人が本を出し、ビタミンH製剤(ビオチン)で完治したという情報が一気に広まりました。しかしこの治療法は「症例報告レベル」で、科学的根拠のレベルは低いもの。ただ、それはあまり広がっておらず、「ビオチンを出してほしい」という患者さんも多いといいます。

大塚さんは「最近は新薬が出始めていて、よい治療法を逃している可能性もあります。はじめは科学的根拠の高い治療を試してほしい」と呼びかけます。 

▼大塚さん執筆のコラム「手のひらや足の裏にブツブツが… 歯周病が原因で起きる皮膚病とは?」https://dot.asahi.com/dot/2019100700003.html

ネット情報でも、フェイクニュースが広がったあと、それを指摘したり、修正したりしたものが拡散されないということがあります。

大塚さんは「みなさんがエビデンスのレベルを知っていれば、誰かの体験談を知った時に、『これはレベルが低い情報かも』と見極められるかもしれません」と言います。

根拠のある医療情報にたどり着くにはどうしたら?

このように、リアルイベントやSNS、ネット記事などで医師たちが医療情報を発信している背景には、根拠のある医療情報を一般の人が探し出す難しさがあるからです。

大塚さんは「ネットも書籍も含めて、皮膚の病気に関して根拠のある情報を探し出すのは本当に難しい。美容サイトや民間療法の情報がたくさんあるからです」と話します。

「私たちも含めて、医者が発信することが増えていますが、やっぱり不安なことや病状は直接、会って話ができる主治医に聞くのが一番です」

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