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アヘン・身売り・餓死……リアルすぎる「100年前の上海」ドラマに

松田龍平さんが演じた上海時期の芥川龍之介
松田龍平さんが演じた上海時期の芥川龍之介 出典: NHK提供

目次

100年前の中国の姿を、文豪、芥川龍之介はどのように見ていたのか。疲弊した経済、混迷した政治、庶民たちの生活、租界の華やかな世界……それらを8K映像で鮮明に復活させたドラマが生まれました。NHKスペシャルドラマ「ストレンジャー 上海の芥川龍之介」は海外放送を意識し、海外に住む人のための国際版(NHKワールドJAPAN、28/29日放送)が国内版(総合テレビなど、30日放送)より先行放送される予定です。芥川の滞在から数十年後、上海に近い浙江省に生まれた私は、ドラマを見てタイムスリップした気持ちになりました。ドラマが浮かび上がらせた100年前の中国が訴えるものについて、考えます。

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試写会の松田龍平さん=2019年11月27日、渋谷
試写会の松田龍平さん=2019年11月27日、渋谷 出典: 朝日新聞社

ドラマがあぶり出した100年前の中国

1921年、すでに文壇で地位を確立していた芥川龍之介は、大阪毎日新聞の特派員として上海に4カ月ほど滞在しました。

芥川が『西遊記』などの文学作品を通して想像した中国の現実は、悲惨なものでした。

清王朝が滅びた後、軍閥が混戦する時代に入り、民衆は苦しい生活を強いられていました。芥川が滞在していた上海の町には、外国人が行政自治権や治外法権を持つ「租界」が存在し、経済が疲弊し、政治も混迷し、革命家が「奇跡を待つしかない」と発言する状態でした

ドラマでは、芥川と妓楼の女性との交流を軸にし、街頭の庶民の姿、京劇を演じる俳優、アヘンを吸う人々も描いています。

当時の中国の日常から徐々に政治の話へと進み、政治家たちとの対話、弾圧されたデモ、戦争の影などに話は広がっていきます。

1920年代初頭の明るいとは言えない、希望を見いだしにくい中国の姿があぶりだされています。

ドラマで再現された100年前の上海の風景
ドラマで再現された100年前の上海の風景 出典: NHK提供

「リアルさ」の正体

上海に近い中国浙江省に生まれた私は、ドラマの試写を見て、なぜか100年前にタイムスリップした気持ちになりました。

8Kの画像がとても繊細かつリアルで、一つ一つのシーン、現実なのかフィクションなのか、分からなくなる瞬間がたびたびあったのです。

故郷は上海に近いこともあり、テレビに出る方言のセリフを親切に感じたり、八方美人の妓楼のママさんも、どこか現代の商売上手な女将さんなどと重なった雰囲気がありました……。

そして現実に戻り、ドラマで描かれた時代の中国に生まれなくてよかったと、心底、思いました。

100年前の庶民の生活は、惨憺そのものでした。民衆は子どもを売り、アヘンを吸い、貧しく餓死してもおかしくない、それは日常生活でした。

政治家ですら「英雄を待つしかない、つまり奇跡を待つことと等しい」と言うほど、絶望感が漂っていました。

日本に留学経験がある革命家もいましたが、彼が語った理想はどこか悲壮でありながら、「机上の空論」とも聞こえました。

それが100年前の中国でした。ドラマの描写が「リアル」だったからこそ、与えられた衝撃も大きかった気がします。

妓楼の男娼と一緒にいる芥川龍之介
妓楼の男娼と一緒にいる芥川龍之介 出典: NHK提供

ドラマの見どころ

芥川龍之介を演じたのは俳優の松田龍平さんです。淡々とした演技を通して若き文豪の風格を演じました。

ロケはほぼ全部中国でした。スタッフは9割が中国人で、役者の多くも中国の俳優。異文化、特に100年前の服装、庶民の姿をリアルに再現しました。

見どころの一つは、超高精細の8Kです。映画館のような巨大スクリーン、8K映像が広がり、俳優たちの表情の細部までを捉えました。その迫力は時々、ドラマであることを忘れさせ、時空を超えて登場人物の一部になった気持ちにさせるほどでした。

中国の京劇を鑑賞するシーン
中国の京劇を鑑賞するシーン 出典: NHK提供

なぜ100年前の芥川?

今回、なぜ芥川が見た中国を主題にしたのでしょうか。

制作統括の勝田夏子さんは「企画段階から、海外発信を意識しました。現在、海外で大きな関心を集めているテーマというと、『大国』としての中国がまず浮かび上がったのです」と話します。

ドラマは、100年前の中国が、一人の日本人の視点から描かれます。日本屈指の文豪が、作家としての鋭い目で、当時の上海に対し比較的フェア(客観・公正)な記録を残した『上海游記』などをベースに構成されています。

ドラマ『ストレンジャー 上海の芥川龍之介』は中国をテーマに、中国語字幕をつけて中国へも発信する予定です。

試写会で記者会見をするドラマの関係者たち=2019年11月27日、渋谷
試写会で記者会見をするドラマの関係者たち=2019年11月27日、渋谷 出典: 朝日新聞社

100年後の中国 変わったもの、変わらなかったもの

ドラマから100年後、中国は経済が発展し、世界が注目する大国になりました。100年前に芥川が予言したように、「巨竜はいずれ目が覚める」が現実になったのです。

大昔、おばあちゃんの世代が上海に行くために、舟に乗って長い時間をかけなければなりませんでした。私は小さい時、上海に行くには列車で少なくとも2時間から3時間かかりました。今では時速250キロを超える新幹線で、23分で上海に着きます。

そこに至るまでには、戦争、中華人民共和国の建国、文革、改革開放など、激動の歴史がありました。

現在も環境問題、食品安全、医療、教育改革など、問題は山積していますが、100年前と比べれば、中国の人々は確かに豊かになり、昔と比べ安定的な生活を手に入れました。

変わらないのは、社会を変革させ、よりよい生活を手に入れたいという気持ちでしょう。

もし芥川龍之介がタイムスリップし、100年後の中国を見たら、彼の目にまた何が映るのでしょうか。

ドラマで再現された100年前の上海の風景
ドラマで再現された100年前の上海の風景 出典: NHK提供

【放送予定】

2019年12月28日(土)・29日(日)
国際放送版(英語・2K) タイトル “A Stranger in Shanghai”
※(海外向け)英語による国際放送…NHKワールド JAPAN(40分×2本・前後編)

2019年12月30日(月)
※(国内向け)3波同時放送 …BS8K・BS4K・総合テレビ

中国語(簡体字・繁体字版)はオンデマンド配信
2020年3月9日~https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/zh/ondemand/video/

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