連載
#37 #となりの外国人
「外国人はどう思う?」炎上したひらがなツイートに疑問、見えたもの
「外国人をバカにしてる」と批判が集まったあのツイートに新たな疑問……
話題になったツイートはこちらです。
【がいこくじん の みなさんへ】
— NHKニュース (@nhk_news) October 10, 2019
たいふうが つぎの どようび から にちようび、とうかいちほう や かんとうちほう の ちかくに きそうです。
とても つよい かぜが ふいて、あめが たくさん ふるかもしれません。きをつけて ください。 https://t.co/47Pb7NhZu6https://t.co/kHlFxQUAnG pic.twitter.com/FSULDk4qqU
多くの人が疑問に思ったのは、「それで、実際、外国人はどう思ったのか?」という点でした。記事には日本に暮らす外国人からの感想も寄せられました。
withnewsでは11月から「やさしい日本語」でニュースを配信してきました。意見を聴いた外国人も、出身地や日本語能力によって反応はさまざまでした。
来日したばかりの技能実習生のインドネシア人男性は、日本語学習歴は半年でしたが、「ひらがななら問題なく読める。漢字があるなら、ふりがな付きが良い」。一方で、子育て中の中国人女性は「ひらがなだけだと絶望的。漢字圏なので、漢字があれば日本語が分からなくてもだいたい意味が分かる」と話していました。
「ひらがなだけの方が読みやすい」「漢字がある方が読みやすい」という意見で二分した印象です。
多国籍の社員が働く「メルカリ」で、日本人に「やさしい日本語」、外国人に「やさしい英語」でのコミュニケーションを教えているジョン・ヴァンソムレンさんは、日本に住んで15年。「僕にとってはふりがな付きの漢字が分かりやすいですが、伝え方に正解はない。総ひらがなのツイートは、『伝えたい』という目的や思い自体を評価したいです」と話しました。
反響の中には身近な外国人と「やさしい日本語」を実践している人たちもいました。
海外で逆に「外国人」としての立場を経験し、「やさしい日本語」の必要性に理解を示す人もいました。
「本当にひらがなだけが『やさしい』のか」という疑問を持つ人もいました。「やさしい日本語」記事の監修もしていただいている一橋大学国際教育交流センター教授の庵功雄さんに、これらの疑問について聞きました。
庵教授「防災情報である以上、「いつ」「どこで」は必要ですし、どんなことが起こりそうなのか(大雨か地震かなど)も最低限必要だと考えます」
庵教授「そういう側面もありますが、『ある程度わかる』の『ある程度』には幅があります。漢字圏以外から来た人の場合、漢字がないから困るということは少ないので、ひらがなだけで情報を出すことは、特に問題はないと考えます。ただ、漢字圏から来た人にとっては、ひらがなだけの文は読みにくいので、別の対応が必要です。ひらがなのツイートをしたNHKは、通常『News Web Easy』というサイトでやさしい日本語のニュースの配信もしており、閲覧者はふりがなを消すことを選べます」
庵教授「ひらがなだけのツイートは、それだけで最もわかりやすい日本語の表現で情報を出したものです。もし、それを読んでもわからないという方の場合には、(ひらがなを自動翻訳するのではなく)母語での対応をするか、近くにいる日本語ができる人に助けを求めるのが、現状では現実的であるように思います」
庵教授「災害時には多言語での対応が重要というのはその通りです。ただ、定住外国人の95%をカバーする国・地域の公用語は17言語あり、さらに99%までカバーしようとすると37言語にもなります。これだけの言語をカバーすることは難しいです。定住外国人の中には、簡単な日本語なら理解できる(でも、英語はほとんどわからない)人が非常に多いことを考えれば、正確さに問題がある自動翻訳に頼るよりも、『やさしい日本語』を使った方がより正確に情報を伝えられると考えられます」
庵教授「利用者がふりがなをつけるかどうかを選べる機能がついているサイトなら、日本語学習の状況に応じて、徐々にふりがなを外していくことができます。識字障害の人にとってもふりがなは邪魔になるので、『情報のバリアフリー』という観点からも、利用者がふりがなをつけるかどうかを選べるようになっていることが望ましいと言えます。ただし、こうしたサイトを作るのは費用がかかりますし、現状のツイッターなどの仕様ではこうした選択肢を設けることは難しいと思われます」
日本語が苦手な外国人に、もっと「やさしい」伝え方を提案する人もいました。
ふりがな付きの画像をツイートに添付してみる方法は、withnewsの「やさしい日本語」ツイッターアカウントでも試してみました。「これがベスト」と言ってくれる人もいましたが、一方で「画像だとツイッターにある翻訳機能が使えないので困る」という声もありました。翻訳用にテキストも付けてみる方法を試しています。
名古屋市にあるカトリック五反城教会に、ベトナムから来た神父がいます。
— やさしい日本語ニュース/withnews・朝日新聞 (@yasashiinews) November 25, 2019
大海明敏神父(55歳)です。
大海神父はインドシナ難民で、1984年に日本に来ました。
毎月1回、ベトナム語でミサをします。https://t.co/2zIJrMFxhR#yasashiinews #やさしい日本語 pic.twitter.com/7P43XeKZ4U
「やさしい日本語」がさらに使いやすくなるように期待する声もありました。
庵教授「災害時に外国人向けに発信する文章については、防災の専門家が内容を定め、それを語学関係者が『わかりやすい日本語』に翻訳し、それを多言語に翻訳するのがよいと考えられます。多言語の中に『やさしい日本語』も含まれます」
庵教授「ただし、日常で使う日本語(普通の日本語)の他に、『やさしい日本語』を作り、外国人はそれを使えばよいというのは正しくないと考えます。特に、子どもの場合は、日本社会の中で生きていく上で、普通の日本語を習得することはどうしても必要だからです」
ネットの反響を見ていて、「これが正解」と決められるものではなく、いろいろなニーズがあることを知り、どうすれば伝わるかを試行錯誤していくしかないのだなと思いました。
だからこそ、さまざまな方法で発信された情報があることが、望ましいようです。
今回初めて「やさしい日本語」を知ったという人もいました。その中には家族に障害がある人や、子どもを持つ親たちもいました。「障害者や子どもにもやさしい情報ですね」と感想が寄せられました。受け手を考えて「やさしい」情報を考えることは、外国人だけでなく、ほかの多くの日本人にとってもやさしい社会を考えることになりそうだと感じました。
これからも、やさしい伝え方に向き合っていきたいと思います。
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