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共感できない!漫画で人気の小山コータローさん 常識人が生む狂気

「作者はどんな人なんだろうか。いや、たぶん変な人だろう」と思わせる作品ばかり。しかし、取材場所に現れたのはあまりにも「お笑い」に真摯な青年でした。

小山コータローさんの4コマ漫画「ロボたるる」
小山コータローさんの4コマ漫画「ロボたるる」 出典: コミチ

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「いいね」「シェア」「リツイート」何より共感が求められるネットの世界で、共感できないことが魅力の漫画を毎日、書き続けている人がいます。小山コータローさん(33)。いきなり「よ~し『両手に乗るもの限定しりとり』だ!」から始まる唐突な世界観。そのシュールさが受け、WEB連載するまでに。いったいどんな人なのか。元お笑い芸人で、今は社長。eスポーツ選手の個人スポンサーという顔も。どれだけ破天荒な人かと思いきや、真面目すぎるほど「お笑い」に懸ける横顔が現れました。
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共感できないのに、なぜが読んでしまう

小山コータローさんの8コマ漫画「限定しりとり」(1/2)
小山コータローさんの8コマ漫画「限定しりとり」(1/2) 出典:コミチ

『狂おしいほど限定しりとりがやりたいんだよ』「わかるよ~」

そんなセリフから始まる8コマ漫画。1コマ目から、飲み込みにくいストーリー設定です。

『よ~し「両手に乗るもの限定しりとり」だ!』「想像力が試されるなあ」

ずっと理解も共感もできない内容なのに、なぜか読み進めてしまう。「共感」が大事とされるSNS時代を、まさに逆行していく漫画。もちろん、オチも非常に独創的。

小山コータローさんの8コマ漫画「限定しりとり」(2/2)
小山コータローさんの8コマ漫画「限定しりとり」(2/2) 出典:コミチ
「読み手が思わず一言言いたくなる」理不尽さとシュールな作風が受け、2019年4月からは転職サイト「doda」で4コマ漫画の連載「#サラリー漫」を持ちました。

「作者はどんな人なんだろうか。いや、たぶん変な人だろう」と思わせる作品ばかりですが、取材場所に現れたのはあまりにも「お笑い」に真摯な青年でした。

センスじゃなく、勉強で学んだ「お笑い」

幼い頃からバラエティが大好き。ダウンタウンさんに憧れ、ふんわりと「人を笑わせる仕事ができたら」と考えていたという小山さん。中学生の頃には、将来の夢は「お笑い芸人」になっていました。

学校でムードメーカー的な存在だったかと思いきや、「地味な方です。クラスの中心で笑いを取ってる男子を、指をくわえて見ているような感じでした」。しかし、そこに悔しさがあった訳ではなく、「みんなの笑いが取れていいなあって、憧れの気持ちですね」。

小山コータローさん
小山コータローさん

お笑いに夢中になった理由を「人とのコミュニケーションにコンプレックスがあったからかも」と話す小山さん。「人と仲良く接するのが少し苦手だったから、その裏返しかもしれません」

好きなラジオを録音し、繰り返し聴きながら面白かったフレーズを書き写す。次は日常生活での練習です。好きなフレーズを会話に差し込んで、相手の反応を見る。「ああ、人はこういうタイミングで笑うんだっていうのを、勉強していった感じですね」。シーンを変えて応用し、「どうしたら人が笑うのが考えるのがすごく楽しかった」と話します。

真面目すぎるほどのガリ勉タイプ。「だから、センスとかないんです」

「ロボたるる」
「ロボたるる」 出典:コミチ

NSCへ、そこで待っていたのは

高校1年生のとき仲の良かったクラスメイトと、高校生のお笑い選手権「M-1甲子園」に周囲には秘密で出場(後に「ハイスクールマンザイ」に名称変更し、霜降り明星の粗品さんなどを輩出)。結果は予選突破ならずと、ふるいませんでしたが、会場の反応には手応えを感じたと話します。

「初めてネタを作ったんですけど、思ったよりウケたんです。僕がやりたいと思っていたことは、そこまで間違ってはなかったんだな、と」

翌年も予選突破こそはできませんでしたが、小山さんの中で「お笑い芸人になりたい」という気持ちは揺るぎないものになりました。

芸人への道を踏み出した(写真はイメージ)
芸人への道を踏み出した(写真はイメージ) 出典: PIXTA

高校卒業とともに、東京のNSC(吉本興業のタレント養成所)に入学。千人規模の同期で最年少にもかかわらず、当初から6組のみの選抜クラスに決まるなど順風満帆だったといいます。ところが、「あまりにも最初からうまくいきすぎたんです」。高校から続けてきた相方とのコンビを解消し、新しいコンビでのスランプを抱えたままNSCを卒業。気付くと、千人近くいた同期は、200人程度になっていました。

「評価されるのが早かったのと、ネタを書いていたのが僕だったので、最悪僕だけでもなんとかなるって思い込んでしまっていたんです。今思えば、過度な自信でした」

そこから始まったのは、心がヒリつくような毎日です。チャンスは月1回、1分だけネタを披露できるライブのみ。そこで1位になれば、1ランク上のライブに出演できるというシステムでした。バイトをしながら毎月やってくる1分にかける日々。何度出ても1位にはなれず、1位になったコンビのネタを見てもなんだか納得いかない。

「1回ついちゃった自信と結果が結びつかなくなっちゃって、しんどかったですね。丸1年やったときに、これからもこの月1の1分にかけるのかと思うと、途方もない感じがしちゃって……。『いつか諦めるなら』と、まだ起こっていない最悪の未来に負けてしまった」

小山さんは地元・静岡に帰ることを決めました。このとき、まだ20歳でした。

「お笑いに救われることがあまりにも多かった」

地元で家族が営む会社を手伝う傍ら、小山さんはやはりどうしてもお笑いをあきらめきれずにいました。最初の相方に声をかけて地元の公民館で漫才をしたり、ひとりで東京に出てコントライブを開催したりしたことも。そんな20代を経て、お笑いへの思いに変化が起こってきます。

「それまでは『僕の面白さを知って欲しい』『認められたい』っていう思いが強かったですが、落ち込んだ人をちょっと元気づけたいとか、誰かの幸せを少しだけ底上げしたいという気持ちに変わってきた」

それは、とてもシンプルな願いであり、幼い頃に夢見ていた姿でもありました。

小山さん
小山さん

「結局、どれだけ心が折れても、お笑いを嫌いになることはなかったんですよね」。テレビで同期が活躍するのを見ると、自分の「もしも」と重なって胸がきゅっとしめつけられる時もあります。それでも、バラエティ番組を見て笑うと、知らず知らずのうちに回復していました。

「僕自身がお笑いを見て救われることがあまりにも多かったから、やっぱり救う側になりたいんですよね」

会社社長へ、「できること」だけで始めた漫画

30歳で家業を継いだ小山さん。お笑いとの両立を模索する中で、絵という表現に出合います。1年半ほど前から漫画家が所属するコミュニティ「コミチ」に参加し、漫画を描き始めました。

コマ割りもわからない、画力もない。でも、ギャグはできる。自分の持っているものだけで始めたのが、4コマ漫画「図形家族」でした。すると、漫画には小山さんの思いにぴたりとはまる部分がありました。

「もともとコントをつくっていた理由が、設定の自由度が高いからでした。漫画になると更に制限がなくなったなと感じます」
「KOSURU」
「KOSURU」 出典:コミチ
「漫画って今までやってきた活動に比べると、かなりコスパがいいんです。もちろん画力は度外視ですけど、僕が勝負しているのはそこではないので。漫才やコントって毎日発表するのってかなり難しいけど、漫画だとそれができる。アウトプットできる喜びもありました」

仕事の合間にテーマを考え、短時間で描き上げて投稿する。ほぼ毎日、それを続けてきました。漫画で賞金や原稿料を得るようになっても、やっぱり従業員の生活と顧客との関係を背負う会社社長。「漫画を暮らしの中心に据えるつもりはないです」

そこでもぶれないのは「誰かの幸せを思う気持ち」。漫画で得た収入で、「大乱闘スマッシュブラザーズ」のeスポーツ選手・keptさんの個人スポンサーになりました。

「僕は20歳のとき、あれだけ自分の中で強く思い描いていた夢をあきらめました。僕よりもっと若い人たちがそうならなくてもいいように、応援する役目にまわる年齢なのかなって」

「誰かの口角をちょっと上げたい」

取材を通して、記者が作風とのギャップに驚いていると、「いや、ちゃんと常識人ですよ」と笑います。

「結局、異常な行動で笑ってもらおうと思うと、何が異常じゃないかわかっている必要があるんです。一般的な回答が何なのか知っている人でないと、そこから外した答えは出せないんです」

自身の漫画を通して、「誰かの口角をちょっとでも上げたい」と話す小山さん。「本当にどん底の人を救える力はないけど、ちょっと元気になる一歩目になればいい。毎日Twitterに漫画を上げていれば、どこかでそういう人に届く可能性はあるはずだと信じています」

小山コータローさん
小山コータローさん
   ◇

小山さんが参加する漫画家のSNS「コミチ」では、withnewsとコラボして毎月漫画作品を募集しています。今回のお題は、これからの「子育てする男性」を考える「#ミライのイクメン」です(募集期間:9月23日~9月29日)。みなさまの応募をお待ちしております。

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