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#4月8日はカレーを食べよう 発信続ける「カレー坊主」って何者?

「カレー坊主」こと吉田武士さんのツイッター画面
「カレー坊主」こと吉田武士さんのツイッター画面 出典: 吉田武士さんのツイッター

目次

 「#4月8日はカレーを食べよう」。仏教を開いた釈迦の誕生日を祝う「花祭り」を盛り上げようと、ツイッターでこう呼びかけているお坊さんがいます。長崎県大村市の「カレー坊主」こと、吉田武士さん(35)。同じインド由来のカレーを通じて、多くの人に仏教を身近に感じてもらおうと、今日も汗をかいています。(朝日新聞諫早支局長・中川壮)

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笑顔で合掌する「カレー坊主」こと吉田武士さん=長崎県大村市の長安寺
笑顔で合掌する「カレー坊主」こと吉田武士さん=長崎県大村市の長安寺 出典: 朝日新聞

花祭り「甘茶じゃ弱い」

 カレー坊主さんは、長崎県大村市にある浄土宗のお寺、長安寺のお坊さんです。

 呼びかけ始めたのは昨年はじめ。動機について「お釈迦さまをもうちょっとリスペクトしたい。(イエス・キリストの誕生日を祝う)クリスマスのチキンとケーキに対し、花祭りは甘茶じゃ弱い。カレーと言えば仏教、仏教と言えばカレーとなれば」と話します。

 もともとカレーが好きだったことも理由の一つです。自身のツイッターには「#仏教とカレーをこじつけるキャンペーン」とも記しています。

 しかし、呼びかけに賛同して、花祭りに合わせてサービスを実施するカレー店が出てきたり、仏とカレーを絡めたイラストを描いてツイッターに投稿する人が出てきたりするなど、キャンペーンは少しずつ広がりを見せています。

「#4月8日はカレーを食べよう」のキャンペーン画像=吉田武士さん提供
「#4月8日はカレーを食べよう」のキャンペーン画像=吉田武士さん提供

「いきなりカレー」で地域交流

 カレー坊主さんは3年前から、「いきなりカレー」と銘打ったイベントを月1回のペースで本業が休みの日に開いています。「カレーを一緒に作って一緒に食べる。ただそれだけ」。お坊さんの仕事には決まった休日がないため、いつも開催が「いきなり」になることからこの名前がつきました。誰でも無料で参加できます。

2月の「いきなりカレー」で、できあがったカレーにトッピングをする参加者やそれを手伝うカレー坊主さん=長崎県大村市
2月の「いきなりカレー」で、できあがったカレーにトッピングをする参加者やそれを手伝うカレー坊主さん=長崎県大村市 出典: 朝日新聞

 2月にあった「いきなりカレー」では開始1時間前の午後6時になると、続々と人が集まり出しました。常連さんもいれば初めて参加したという人も。和洋のポップスが流れる市内の公共施設のキッチンスタジオで、小学生からお年寄りまでの約20人が和気あいあいと話しながら調理を進め、約50人分のカレーを完成させました。

 午後7時を過ぎると、家族連れや高校生らが次々と来場。参加者たちはカレーを食べながら午後9時ごろまで語り合っていました。この日が2回目の参加という女子高校生は「今の時代、みんなでご飯を食べたりする機会はあまりない。いろいろな世代の人と交流できてとてもいい」と話していました。

2月の「いきなりカレー」で、高校生たちと一緒にカレーを食べるカレー坊主さん=長崎県大村市
2月の「いきなりカレー」で、高校生たちと一緒にカレーを食べるカレー坊主さん=長崎県大村市 出典: 朝日新聞

「仏教≒カレー」

 ところで、なぜカレーなのか。吉田さんは「インドカレー、タイカレー、スリランカのカレー、日本のカレー、それぞれの文化でかなり違うが同じカレー。仏教もすごく似てる。インドの仏教と日本の仏教はまるで別物。甘口や辛口、大変な修行やそうでもない修行……。その人に合うものがある」と説明します。

 昨年秋には、全国のカレー好きなお坊さん仲間とレトルトカレーを開発しました。その名も「ほとけさまのやさしい精進カレー」。肉、卵、乳製品、白砂糖、化学調味料を一切使わず、昆布やみそなど日本の伝統調味料で味付けしました。

 「いつでもどこでも食べられるのがレトルトカレーの良さ。仏教も同じようにいつでもどこでも手に取ってもらいたい」と話します。インターネットでは、3月31日まで販売されました。売り上げの一部は、お供え物の食べ物などを生活が苦しい家庭に届ける活動で知られる「おてらおやつクラブ」へ寄付されます。


やさぐれ時代、そして転機

 そんなカレー坊主さんですが、大学時代に就職活動を始めるまでお坊さんになろうと考えたことは一切ありませんでした。小学生時代に習っていた空手の指導者が現在勤めている寺の住職だった縁で、この道に入りました。

 20代の頃は、仏教を単なる「商売道具」だと思っていたそうです。夜はお坊さんとばれない格好をして遊び歩きました。「僧侶がだめなら実家の米屋を継げばいい」と考えていたといいます。

本堂で木魚をたたくカレー坊主さん=長崎県大村市の長安寺
本堂で木魚をたたくカレー坊主さん=長崎県大村市の長安寺 出典: 朝日新聞

 転機は、実家の米穀店の廃業でした。なぜ店を閉じなければいけないのか、自分は周りの人にどう見られているのか――。それまでの人生で最も悩み苦しんだそうです。

 救いを求め、寺の仏教書を初めて読みあさりました。たどり着いたのは「自業自得」。苦しみを作り出しているのは自分だと思えるようになると、苦しみが軽くなったそうです。この経験をへて、「仏教が仕事でなく生き方になった」とカレー坊主さんは話します。

鐘を突く回数について説明するカレー坊主さん=長崎県大村市の長安寺
鐘を突く回数について説明するカレー坊主さん=長崎県大村市の長安寺 出典: 朝日新聞

「いつでも手の届く距離に」

 カレー坊主さんが本格的にツイッターに投稿し始めたのも、呼びかけと同じ昨年初めです。昨年11月のこの投稿は、カレーは出てきませんが、2万回以上リツイートされました。投稿は思いつきでなく、以前から考えていたことをつぶやいたそうです。


 仏壇を置かない家が増えたり、家族が亡くなっても通夜や告別式をしない家が出てきたりしています。普段の生活で仏教に接する機会が減る一方、インターネットではカルト教団のサイトに容易にアクセスができる。そんな状況にカレー坊主さんは危機感を抱いています。

 「仏教は敷居が高いというイメージがある。伝統的な仏教へのアクセスをもっと身近にしたい。いつでも手が届く距離に置いてもらって、つながっていてもらいたい」。カレー坊主さんはそう願っています。

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