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「カメラを止めるな!」 お団子ADが語る「監督が教えてくれたこと」

お団子頭のAD・栗原綾奈役として、演技未経験ながら出演した合田純奈さん(右)
お団子頭のAD・栗原綾奈役として、演技未経験ながら出演した合田純奈さん(右)

目次

 東京都内の2館での公開から、全国200館以上に上映館数が拡大した「カメラを止めるな!」。上田慎一郎監督が無名の俳優たちと作り上げ、異例のヒットとなったこの映画には、演技未経験の大学4年生もオーディションを経て出演しました。お団子頭のAD・栗原綾奈役で出演した合田純奈さん(24)です。「大学時代の最後のチャンス」と上田組に飛び込み、映画への熱い思いに触れた合田さん。一年後には社会現象にまでなったこれまでを振り返りました。

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西日本最大級のスクリーンを誇るTOHOシネマズ梅田の舞台挨拶に参加した合田純奈さん(中央右)。700人以上の観客と記念撮影をした
西日本最大級のスクリーンを誇るTOHOシネマズ梅田の舞台挨拶に参加した合田純奈さん(中央右)。700人以上の観客と記念撮影をした

「エンドロール」に憧れて

 「カメラを止めるな!」に出演したのは、大学4年生だった昨年の夏。演技は未経験。特段映画が好きでもない。

 ただ、幼い頃から「1度でもいいから映画のエンドロールに自分の名前が流れたら」と憧れていた。

 人前に立つことは好き。でも自分自身を表現することは苦手。矛盾するそんな自分に自信が持てず、挑戦することを諦めていた。

オーディションでパニックに

 きっかけになったのは、監督と俳優の養成スクール「ENBUゼミナール」(東京)が開く、新人監督と新人俳優で映画をつくる「シネマプロジェクト」に出演していた知り合いの姿。演技未経験ながらも奮闘し、東京国際映画祭のレッドカーペットを歩いた姿を見て、「1歩踏み出せば何か変わるかもしれない」と上田慎一郎監督が手がける次回作への応募を決意した。

 時間に余裕のある大学時代で最後のチャンス。地元の関西から上京する覚悟で、ありったけの思いを履歴書に書いて送った。

 オーディションでは事前に台本を渡されていたが、自分の番になるとパニックに。何も話せなくなった。失敗したと思ったが、上田監督は何も言えずに慌てまくる姿に「不器用さが良かった」と言ってくれた。

メガホンを取った上田慎一郎監督。長編映画は今作が初めて=合田純奈撮影
メガホンを取った上田慎一郎監督。長編映画は今作が初めて=合田純奈撮影

夢語り合った仲間たち

 ワークショップで8日間、演技の基礎を学び、台本を使ったレッスンをこなした。プロジェクトに選ばれた12人と長い時間を過ごし、お互いの夢を話し合った。

 頂いた役は、関西弁で髪をお団子に結ったAD。仕事はこなすが、どこか抜けている人物。上田監督が出演者一人ひとりに合わせて脚本を書いていたので、とても愛着を持った。

撮影中に上田監督(中央右)ら出演者と写る合田さん(左)
撮影中に上田監督(中央右)ら出演者と写る合田さん(左)

自分と役がまじり合う瞬間

 撮影現場では初めて見る撮影用カメラにおどおどしながらも、次々と生まれるものに楽しさを感じた。現場は、出演するキャストの撮影隊と私たちを撮影する本物の撮影隊がいる。複雑な構成に混乱しながら、監督が描く形に近づけようと必死だった。

 振り返ると、演技をしているのか、素の状態だったのかわからない。後で聞くと、ほかのキャストたちも自分と役がまじり合う瞬間があったという。

見ていて笑える映画を

 撮影が終わると、血のりで汚れた体を流しに、みんなで銭湯にいくこともあった。余ったお弁当でおにぎりをつくり、スタッフの人手が足りなくなれば、出演者もスタッフとして手伝った。現場から生まれる一体感のとりこになった。

 「映画は娯楽。メッセージではなく、ただ見ていて笑える映画をつくりたい」

 そう語る上田監督の言葉通り、楽しみながら撮影は進んでいった。

クランクアップの日、キャストと熱い抱擁をした上田監督(中央左)=合田純奈撮影
クランクアップの日、キャストと熱い抱擁をした上田監督(中央左)=合田純奈撮影

いまだに夢の中にいるよう

 そんな現場の雰囲気が、スクリーンを通じて観客に伝わっているのかも知れない。都内2館から始まった上映館数が200館を超え、観客総動員数は100万人を突破した。いまだ夢の中にいるような気持ちだ。

 昨年11月に映画館「新宿K'sシネマ」(東京)で初上映されたとき、私の夢はかなった。それだけでも十分だったのに、映画館では今もお客さんの笑顔にあふれ、SNSでは共感や口コミが広がっている。静かにしなければならないという雰囲気がある映画館で、手をたたいて笑う人がいる。上映後には不思議な一体感が生まれる。

 映画の力を初めて見た気がした。

 作品を愛してくれている人に感謝の気持ちを伝えたくて、私も7月末にツイッターを開設した。「映画への愛を感じた。ありがとう」という言葉に喜びを感じ、「この映画を見て、諦めていたことをまたはじめようと思った」という言葉に勇気をもらった。この映画が多くの人に届き、見てくれた人の日常が少しだけ変わったなら、それは奇跡だと思った。

カメ止めが教えてくれたこと

 私はこの春、新聞社に就職した。福岡県に赴任し、役同様、新人の記者として、現場を走り回っている。福岡でも上映されるようになったことで、カメ止めの話題を記事にすることもできた。

異例のヒットを伝える合田記者の記事(8月8日、朝日新聞西部本社夕刊)。上田監督を始め、関係者に取材をした
異例のヒットを伝える合田記者の記事(8月8日、朝日新聞西部本社夕刊)。上田監督を始め、関係者に取材をした

 一方、映画の原作をめぐって、ファンの人たちを心配させる事態も起きた。製作側によると、弁護士を交えて協議をしていたようだが、作品外でこうした注目を集めるのは残念だ。

 それでも、上田監督を始め、カメ止めのみんなと過ごした日々から教わったものは変わらない。もの作りへの熱い思いは、予想や限界を越えるのだと「カメラを止めるな!」が教えてくれた。一つ一つの記事も同じだ。今は、福岡の話題をより多くの人たちに届ける――。そんな新しい目標に向かって、不器用なりに頑張っている。

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