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#5 金正男暗殺を追う

<金正男暗殺を追う>2カ月半前のグルメ旅「現金払い」貫いた理由

2015年にドイツのミュンヘンで食事する金正男氏=関係者提供
2015年にドイツのミュンヘンで食事する金正男氏=関係者提供

目次

 思春期を欧州で過ごした金正男(キム・ジョンナム)氏は、2017年2月に殺害されるまで、スイスやドイツ、フランスなどを旅して回った。各地にひいきの店を持ち、ごちそうを食べあかした。お代がかさんでも気にしなかったが、なぜか支払い方法には、こだわりがあったという。(朝日新聞国際報道部記者・乗京真知)

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青春過ごしたスイス

 2016年11月末。正男氏はスイス西部のジュネーブにいた。

「たった今、おいしいチーズフォンデュを食べたところ。よければ今度、一緒にどうですか?」。友人を誘い、さっそく店に予約を入れた。「金曜の昼、席をおさえました」

 正男氏は10代のころ、北朝鮮を離れてスイスで学んでいたことがある。「留学先で素晴らしい友人に出会えた。その人脈がいまに生きている」。食事をしながら、当時の思い出を語ることがあったと、知人は振り返る。

2015年、ドイツのミュンヘン中心部のマリエン広場で記念撮影する金正男氏=関係者提供
2015年、ドイツのミュンヘン中心部のマリエン広場で記念撮影する金正男氏=関係者提供

地中海でクリスマス

 ジュネーブでは他にも、レマン湖を望む絶景のフランス料理店やスイス料理店に出向いた。

 12月中旬にはスイス南部のイタリア語圏ルガノへ移り、クリスマスイブには地中海に面したフランス南部ニース、クリスマスには隣国モナコへ。王道のイタリア料理から穴場のスシまで、美食家ぶりを発揮した。

 ドイツにも足を運んだ。南部ミュンヘンで開かれる世界最大のビール祭り「オクトーバーフェスト(10月祭)」。落ち葉が散る街に紺色のニットキャップをかぶって繰り出し、露店でソーセージをほおばった。

 お酒は赤ワインを好んだ。夕食の相場は1人2~3万円ほど。友人の分を払うことも珍しくなかった。

ドイツのミュンヘンで食べたソーセージ。フォークを持つのは金正男氏=関係者提供
ドイツのミュンヘンで食べたソーセージ。フォークを持つのは金正男氏=関係者提供

各国紙幣とりそろえ

 外食時に特徴的だったのは、ほとんどの支払いを現金で済ませていたことだ。ドルをはじめユーロやフランなど多くの紙幣を持っていた。財布には中国の銀行のクレジットカードが入っていたが、使うことはめったになかったという。

 過去にはカードをめぐる金銭トラブルが報じられた。カードの履歴から、いつどこを訪ねたかが筒抜けになる恐れもあった。

 世界のどこを旅していても、気を抜けない宿命を背負っていた。

     ◇

【金正男氏とクレジットカード】2012年、正男氏がクレジットカードを使えず、滞在先のマカオのホテルから追い出されたと、ロシアの週刊紙が伝えた。同紙は地元当局者の話として、正男氏は中国政府や北朝鮮の援助を受けてきたとした。2011年に弟・金正恩(キム・ジョンウン)氏が北朝鮮の指導者になった後、正男氏への送金が止められた可能性を示唆している。

金正男氏が殺害された時に持っていた遺留品の各国紙幣。米ドル(左上)やユーロ(中央上)、スイス・フラン(左下)、人民元(右下)などがある=関係者提供
金正男氏が殺害された時に持っていた遺留品の各国紙幣。米ドル(左上)やユーロ(中央上)、スイス・フラン(左下)、人民元(右下)などがある=関係者提供

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