連載
#3 やせたい私
「下剤90粒」の過去、ブログで公開 過食で悩む「普通の子」救いたい
「どう過食から抜け出しましたか」「下剤をやめたいんです」……。東京都の会社員、野邉まほろさん(24)のもとには、ひっきりなしにSNSでメッセージが届く。高校・大学と6年間、摂食障害に苦しんだ経験をブログで発信し、同じ悩みを抱える子の声に耳を傾ける。つらい経験を聴いて、「良くなりたい」と強く願う子の気持ちが軽くなればと考えている。
「就活どう?」「大学で何の勉強してるの?」「一緒に服買いに行こうよ」
多いときには月数回、インスタグラムやツイッター経由でメッセージを送ってきた女の子と実際に会う。
話すのは、ふだん女の子の友達と話していることばかり。自分から摂食障害の話は持ちかけない。
会って他愛もない話をしているうちに、相手の子が過食や嘔吐の経験を打ち明けてくる。
家族に隠れて食べ物を口に詰め込んだり、友人と食事に行った帰りに吐いたり。誰にも言えず、SNSの「病(や)みアカ」(摂食障害の当事者と明かしたアカウント)でつらい気持ちをつづっている子も多い。
「SNSで前向きなことをつぶやくようにしたよ」「毎日必ず朝ご飯を作るようにしてみた」
自分の経験を伝え、別れる時には「絶対治そうね」と声をかける。医療的な助言はしない。
「治るきっかけは人それぞれだし、治し方は教えられないけど、同じ経験をしている人に話すだけで楽になることもあると思う」
「もう食べたくない。誰かわたしを止めて」と題したブログをハフポストに掲載したのは昨年5月だ。6年間の摂食障害の体験をつづった。
島根県・隠岐の島の生まれで、自然に囲まれてのびのび育った。島を出て進学校の高校に進んだ時、寮生活のストレスで高熱を出した。
授業についていけなくなり、テストの点も思わしくない。焦りが募り、コンビニで大量にお菓子を買って、やけ食いして気を紛らわせるようになった。
成長期だったので、一気に体重が増えた。それが気になり、インターネットで「ダイエット」を検索。ヒットした「下剤」をのむようになった。
食べては下剤をのんで、トイレにこもる。のむ量は90粒にもなった。
精神科を受診したが、「うつ病と摂食障害」と言われ、うつの薬を処方されただけだった。
薬をのんで治ると思えず、自助グループの雰囲気にはなじめなかった。摂食障害の講演会で「理論」を聞いても、「しんどいのは今。とにかく助けてほしい」と感じていた。
高校はほとんど不登校だったが、卒業間近に猛勉強し、大学生になった。
彼氏との予定のたびに下剤をのむ自分に嫌気がさし、「もうやめよう」と、下剤はすっぱりとやめた。
それでも、ストレスがたまると週1回は過食してしまう。「治らないんじゃないか」と不安になり、ネットを検索してツイッターにたどり着いた。
「同じように苦しんでいる子、でも治そうとしている子がいるんだ」と気づいた。
みんなと一緒に治したいと考えるようになり、ブログで摂食障害について打ち明けた。ツイッターでも「後ろ向きな言葉はつぶやかない」と決めた。
3年前には、ブログやツイッターで知り合った摂食障害の女の子と会うイベントを開いた。体重を減らすことにこだわるのではなく、ネイルや服でおしゃれを楽しもうと思い始めた。
毎日ワンプレートの朝ごはんを作る、お風呂にゆっくりつかるといった日々の生活を整えることも心がけた。
気づくと、大学3年生のころには、ほとんど過食をしていなかった。
昨春、社会人になった。忙しい毎日を送っているが、「下剤を買いにいこうと思っていたけど、まほろさんの記事を見つけて思いとどまった」。そんなメッセージが届くとうれしくなる。
ただ、全国各地からのつらさを訴える声を読んでいると、助けの手がなかなか届いていないと感じる。
中には、意を決して病院を受診したのに「髪を染めている子は病気じゃないよ」と言われた子もいる。
「実際に悩んでいる子のほとんどは一見、見た目は普通なんです。なのに『病人らしく』振る舞わないと、病気だと思ってもらえない」
自分の体験を知ってもらい、「治すきっかけにしてくれたら」と考えている。
1/11枚