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「夫婦別姓」願った結果が…夫の母は叫んだ「洗脳されている!」

事実婚の夫婦だと証明するための公正証書を作ったが、夫の勤め先には「結婚」を認められなかった(公証役場の名や住所などにモザイクをかけています)
事実婚の夫婦だと証明するための公正証書を作ったが、夫の勤め先には「結婚」を認められなかった(公証役場の名や住所などにモザイクをかけています)

目次

 結婚しても姓を変えずに暮らしたいと願う人たちがたくさんいます。それなのに、日本では夫婦同姓が義務付けられています。そのために、不利益を被ったり、家族との関係が悪化したりするケースも少なくありません。別姓を選べるようになって欲しいと願う都内の女性(32)の思いを聞きました。

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「向こうのお母さんがかわいそう」

 「向こうのお母さんがかわいそうだからやめなさい」。

 昨年11月、女性の姓で婚姻届を出そうとしたところ、自分の母親が猛反発した。父は「婿養子」で、両親は母の姓だ。改姓の苦しみを知っているからこそ気持ちを分かってくれると思っていた父までもが、「男が姓を変えるのは社会的に大変なんだ」と言った。自分の夫になる男性に、母はこっそり「私が説得する」と言った。

 姓を変えて欲しかったわけではない。望んだのはただ一つ、「自分の名前を変えたくない」ということだ。だが、日本で結婚するには、どちらかが姓を変えるか、事実婚になるかしかなかった。

 2015年春、夫との結婚を決めた。そのころ、選択的夫婦別姓をめぐる訴訟が進んでいた。国際的には夫婦別姓も選べる国が多い。当然、判決で日本もそうなると思っていた。

 「判決が出てから、別姓で結婚すればいい」

 ところが、12月に出た最高裁判決は、現在の夫婦同姓を義務付ける制度を「合憲」と認めた。職場でニュースを見ていた女性は、血の気が引いた。「結婚できないかもしれない」。トイレに駆け込み、しばらく動けなかった。

女性が期待した夫婦別姓を求めた訴訟。「合憲」の判決を受け、会見で悔しそうな表情をみせる原告の塚本協子さん=2015年12月16日、東京都千代田区、井手さゆり撮影
女性が期待した夫婦別姓を求めた訴訟。「合憲」の判決を受け、会見で悔しそうな表情をみせる原告の塚本協子さん=2015年12月16日、東京都千代田区、井手さゆり撮影 出典: 朝日新聞社

「名字を変えたくない」

 家族の食事会など結婚に向けた準備が進んでいた。姓の話はできないままだった。判決の約2カ月後、勇気を出してパートナーの男性に電話をかけた。

 「名字を変えたくない。どうしたらいいか分からない」

 男性は驚き、「もっと早く言ってほしかった」と言った。

 翌日、カフェで4時間かけて話をした。女性に偏る改姓への憤り、「嫁」という意識への嫌悪感、パートナーとは対等でありたいこと……。なぜ姓を変えたくないのか説明した。店員や他の客が見ているのが分かったが、涙が止まらなかった。

2018年1月、「サイボウズ」社長の青野慶久さん(左)と作花知志弁護士が選択的夫婦別姓制度を求めて国を提訴した=東京・霞が関の司法記者クラブ 、後藤僚太撮影
2018年1月、「サイボウズ」社長の青野慶久さん(左)と作花知志弁護士が選択的夫婦別姓制度を求めて国を提訴した=東京・霞が関の司法記者クラブ 、後藤僚太撮影 出典: 朝日新聞社

「彼女に洗脳されているのよ!」

 男性が提案したのは、婚姻届をださずに一緒に住む「事実婚」だった。法律婚したかったが、やむを得ず同居を始めた。

 半月後、夫が自分の実家に帰って説明すると、両親は激怒した。

 夫の母親は「彼女に洗脳されているのよ!」と叫んだという。女性にも夫の母親から「話がしたい」などのメールが頻繁にきたが、夫が「いまはすごく怒っていて話せる状態じゃないから」と対応を引き受けてくれた。

今年3月には、夫婦が別の姓を選べる法制度がないのは「法の下の平等」を保障した憲法に違反するとして、事実婚の夫婦4組が別姓使用を求める申し立てを家裁に行った。申し立て後の報告集会には、支援者らが駆けつけた=2018年3月14日、東京都千代田区の参議院議員会館
今年3月には、夫婦が別の姓を選べる法制度がないのは「法の下の平等」を保障した憲法に違反するとして、事実婚の夫婦4組が別姓使用を求める申し立てを家裁に行った。申し立て後の報告集会には、支援者らが駆けつけた=2018年3月14日、東京都千代田区の参議院議員会館

「経済的な損が大きすぎる」

 周囲の戸惑いに加えて、事実婚には思わぬ落とし穴があった。

 夫の会社が結婚と認めず、結婚休暇や祝い金が出ない。それだけならまだしも、月4万円の住宅手当も対象外となった。事実婚の夫婦であると証明するための公正証書を作って提出しても、対応は変わらなかった。

 「経済的な損が大きすぎる」

 昨年11月、男性が改姓して、婚姻届をだすことにした。

 報告に行こうと夫が自分の実家に連絡したところ、返事は「いらない」だった。「二度とうれしくない報告はしなくていい」。家族のだれも祝福しない結婚になった。

 夫の母に最後に会ったのは、同居する前の食事会だ。それ以来、今日までずっと会っていない。

 女性は夫に姓を変えさせた罪悪感に、いまも苦しんでいる。自分の姓で届く夫の郵便物は、自分が一番したくなかった改姓を夫にさせてしまった「犯行現場」のようなものだ。普段ぐちを言わない夫があるとき、「戻せるなら元の姓に戻りたい」とぼそっと言ったことが忘れられない。

夫婦別姓も選べるようにすることを目指す集会には、各党の国会議員がかけつけた=2018年3月8日、衆議院第2議員会館
夫婦別姓も選べるようにすることを目指す集会には、各党の国会議員がかけつけた=2018年3月8日、衆議院第2議員会館

「目くじらを立てる」社会って?

 女性はいま、夫婦別姓も選べるようにしてほしいと、国会議員や地方議員に陳情している。なんのつてもないが、議員の事務所や議会の控室に直接連絡し、アポをとり、会いに行くという地道な作業だ。

 「なんとか夫を元の名前に戻してあげたい」という思いが女性の原動力だ。

 世界的にみれば、法律で同姓を義務付けている日本は極めて特殊な存在だ。

 選択的夫婦別姓制度は、別姓を強制するものではなく、同姓も別姓も自由に選べるようにする制度だ。同姓でいたい人を、妨害するものではない。夫婦の話で、他人に迷惑をかけるものでもない。

 一方で、いまの「同姓強制」の制度のもとで、傷つき、苦しんでいる人がたくさんいる。

 夫婦別姓の話をしたら、知人にこう言われたことがある。

 「そういうことに目くじらを立てる人が嫌いだ」

 同じような意見は、しばしば耳にする。権利の主張が嫌いな人は多いようだ。だったら、お願いしたい。「目くじら立てなくても、自由に選択できる社会に、早くしてください」、と。

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