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暗記勉強に最適なペンは「あの色」だった! 元宝塚が見つけた記憶術

暗記に最適なペンの色は…何色?
暗記に最適なペンの色は…何色?

目次

 3時間、喋りっぱなし。歌いっぱなし。舞台に出る俳優や落語家は一体、どのように膨大なセリフを覚えているのか。元宝塚歌劇団、雪組トップスターの早霧せいなさんに聞いたところ、気になる一言が。「青ペンを使うと記憶しやすいって聞いて、台本は、受けたダメだしなどを書き込んだ青字のメモでいっぱいです」。え?そうなの? 専門家と一緒に考えて見ました。

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元宝塚トップスターの記憶法

 まずは宝塚の舞台人の実践法です。早霧さんはピンクの紙に青色ペンで書くのが、一番覚えやすいと言います。

 宝塚には一回台本を見ると、すぐに覚えてしまう俳優も多いそうですが、早霧さんは努力派。ドラえもんのアンキパンが開発されたらいいなと思いながら、のたうちまわってセリフを覚えるそうです。

 とにかく青色ペンで書いて、そのセリフを声に出し、耳にたたき込む。その繰り返しと話してくれました。

早霧せいなさんと愛用の青ペン。1公演で1本を使い果たすそうです
早霧せいなさんと愛用の青ペン。1公演で1本を使い果たすそうです

「新しいもの」は覚えやすい

 プロが実践しているとなると、青字の記憶方法を試したくなります。脳と記憶について研究するプロ中のプロ、東京大学大学院薬学系研究科の助教、佐々木拓哉さんに、そのカラクリを聞きました。

 佐々木さんによると、人間の脳は「新しいもの」を覚えやすい性質があるといいます。新聞も教科書も、プレゼン資料も、多くは黒字で書かれていることが多いので、黒とは違う色で書かれている場合、脳が「おっ」と記憶しやすいそうです。

 脳は今までの人生で培ってきた経験とは違うことを検出しやすいメカニズムがあるといいます。

出典: pixta

 例えば、喫茶店でお茶を飲んでいるスーツ姿の会社員がいても「普通だな」。一方、バットを持ったユニフォーム姿のスポーツ選手がいると「なんで?」。

 違和感を感じるかどうかは、場所によって違ってきます。同じスーツ姿でも、場所が喫茶店からグラウンドに変われば、「なんで?」。つまり、人間には危機管理を察知しようとする本能が備わっていて、自分の周りで起こることを脳は予測しています。

 だから、違和感があると、検出しやすい。学術的に言えば、「予測誤差」というものが生まれるそうです。

青は効果的?どの色が記憶にいいのか

 佐々木さんは、そこには感情が関係していると言います。

 青や緑は心も落ち着き脳にも優しい。一方、赤のような興奮しやすい色は一瞬なら記憶に残りやすいものの、一方で長い間見ているとストレスを感じるといいます。

 脳はストレスに弱い。なので、赤字をずっと見ていると、脳の機能が弱ってきてしまうそうです。

 つまり、計算問題など暗記する必要がない場合は黒、歴史の登場人物など記憶が必要な単語は青や緑、そしてテスト直前の超短期間で頭にたたき込みたい場合は赤と色を使い分けることが記憶に効果的な可能性があるといいます。

 ずっと同じ色を使っていると、脳がそれに慣れてしまうので、交互に青と緑を使い分けるのも効果的だそうです。

 ただ、一つ注意しなければいけない可能性があるのは文字の太さ。脳の処理能力には限界があるといいます。「あれ?これ何書いたんだっけ?」と一生懸命見ると、そこに集中力を使ってしまい、記憶するときに弊害があるそうです。

出典: 朝日新聞社

200話以上覚えている落語家 志らくの記憶術

 舞台人には「耳から覚える」という人が多いようです。

 故立川談志の弟子・立川志らく師匠。ワイドショーでもおなじみです。200以上の話を覚えているそうです。

 落語では三編稽古という、師匠に3回話してもらって、メモも録音もせずに、ひたすら耳で覚えるというやり方があるそうです。そこにも、感情+記憶の関係があると佐々木さんは分析します。

立川志らく師匠。歴史を覚える時は、例えば「エロジジイの平清盛がアイドル系の源頼朝に嫉妬し島流し」と話を作って覚えていたと言います
立川志らく師匠。歴史を覚える時は、例えば「エロジジイの平清盛がアイドル系の源頼朝に嫉妬し島流し」と話を作って覚えていたと言います

感情によって、覚えやすくなる

 記憶はその時の感情や、声の抑揚やリズムとも関係が深いそうです。落語は、何役もの登場人物が怒ったり、おびえたり、喜んだり、感情を巧みに伝える話芸です。

 師匠が表現する感情によって、覚えやすくなっているのではないかと佐々木さんは指摘します。

 だから、文字の羅列を書いたり、見たりするより、耳からの情報のほうが、感情が入る分覚えやすい。そう言われてみれば、歴史の名教師、予備校の名講師はまるで講談のように教えるとも聞きますね。

「記憶と記録」

 ところで、脳には何百億の細胞がひしめいているそうです。理論上は人間の脳はコンピューターよりも複雑なことが出来ると佐々木さんは話します。

 ただ、すべてが解明されているわけではありません。自分の体なのに、わからないことがあるって奇妙ですよね。佐々木さんと話していて、一番記憶に残ったのは、「記憶と記録」の話でした。

 コンピューターが記録を残すとすれば、人間が残すのは記憶です。でも、なぜ、人間はどんどん重ね書きされる記憶を選んだのでしょうか。

あいまいさ選んだ人間

 佐々木さんの説はこうです。

 ぴったり合わなければ間違いというのがコンピューター。あいまいさは許されない。

 例えば、子供とスポーツ選手が喫茶店にいたとき、「『子供を連れた父親』と思うのが人間。異物がいるというのがコンピューター。喫茶店に野球帽の人がいる時、違和感があっても、異常ではないという考えが人です」。

 確かに、すべての違和感を「異常」と認識していたら、人間の生活は成り立ちません。一方、記録は一度異常だと思ったらそこを警戒します。パソコンや紙に書いたら変わりません。

 人間はあいまいさを選びました。そのおかげで生きていけるのかもしれません。

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