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連載

#17 平成家族

働き方改革の闇「フリーランス保活」 出産後から仕事、でも内職扱い

厳しい子育て環境に置かれているフリーランス(写真はイメージです)
厳しい子育て環境に置かれているフリーランス(写真はイメージです)

目次

 企業に属さずに個人で仕事を受ける「フリーランス」。平成の「働き方改革」の中で裾野が広がっていますが、「保活」では弱者です。会社員を想定した保育園選考からはじき出され、「育児も仕事も」と追われます。我慢は限界を迎え、声が上がり始めました。(朝日新聞文化くらし報道部記者・中井なつみ、田渕紫織、斉藤純江)

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一時預かり、頼ろうとしたが

 東京都内でコンサルティング会社を経営する女性(41)は2015年8月、帝王切開で長男(2)を出産した翌日からメールで仕事を再開した。取引先への連絡や、アシスタントへの指示が必要だった。「いま目の前の仕事を断ったら、次に契約してもらえないかもしれない」。こんな思いからだった。

 自宅で育児をしながら少しずつ仕事を増やしていったが、長男が泣くのではと気になり、取引先との電話もままならない。「せめて少しの時間でも」と考え、自治体が整備する一時預かり専門の保育施設を頼ることを決めた。このとき、その施設の職員から掛けられた言葉が忘れられない。

 「朝5時から並んでもらえれば、きっと大丈夫ですよ」

 一時預かりの定員枠は少なく、予約は直接、施設に赴いて受け付けをしなければならない。この利用予約は前月15日の午前8時45分から開始される。人気の施設では夜が明けないうちから、長蛇の列ができていることを知らされたという。

 「育児と仕事を抱え、ただでさえつらい。子どももいるのに、そんなに朝早くから並べない」

 結局あきらめて、取引先とは「メールでのやりとり」を主とする契約に切り替え、産後の育児との両立を乗り切った。収入は減り、新規顧客の獲得に向けた営業もできなかった。

取引先とは「メールでのやりとり」を主とする契約に切り替え、産後の育児との両立を乗り切った(写真はイメージです)
取引先とは「メールでのやりとり」を主とする契約に切り替え、産後の育児との両立を乗り切った(写真はイメージです)

会社員なら出産前で評価されるのに

 一昨年秋からは長男の預け先を探す「保活」を始めた。自治体が行う認可保育園の入園選考では、保育の必要性を判断する「就労時間」がポイントになる。住んでいる自治体では、育児休業を取っている会社員なら出産前のフルタイムで働いていた実績で評価されるが、育休が取れない女性のようなフリーランスは「入園申請前の3カ月」で評価される。このため、育児をしながらフルタイムと同じ評価になる「1日7時間」の就労を確保しなければならなかった。

 早朝や昼寝の合間、深夜と、長男が眠っていて本来なら休める時間を削りながら、仕事を集中的に入れた。仲良くしていた育休中のママ友が「子どもが昼寝をしたら、私も一緒に寝ちゃう」と言っているのを聞き、不条理を感じた。

 就労時間は確保できて、昨年4月から認可保育園に預けることができたが、頻繁に高熱を出すなど体調を崩した。

 「保活にしても、一時預かりの利用にしても、私は産休も育休もなく働いているから少しは有利かも、なんて思ってたんです。いまは甘かったと思えるけれど、こんなの、おかしいですよね」

認可保育園の入園選考でも不利な扱いが残るフリーランス(写真はイメージです)
認可保育園の入園選考でも不利な扱いが残るフリーランス(写真はイメージです)

「会社員と同等に」当事者たちが署名集め

 フリーランスは厳しい子育て環境に置かれている。当事者らでつくる「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」がフリーランス女性らに行ったアンケートによると、出産後も働き続けた288人のうち45%が産後1カ月以内、59%が2カ月以内に仕事を再開していた。

 認可保育園の入園選考でも不利な扱いが残る。フリーランスは自宅を職場とする場合が多いため、育児も兼ねられる「内職扱い」とされる。選考の基準となる点数は、多くの自治体で会社員と比べて低くしている。

 厚生労働省は昨年末、職場が自宅の内か外か、で点数に差を付けないよう自治体に求めたが、今年4月の入園には間に合わない自治体が多い。同研究会は会社員と同等以上の勤務時間であれば、入園選考で同等の扱いをするよう求める署名を集めており、3月中に厚生労働相宛てに提出する。

フリーランス女性の働き方への理解を訴える当事者たち=東京・霞が関
フリーランス女性の働き方への理解を訴える当事者たち=東京・霞が関

仕事も育児も軽くみられている

 東京都板橋区に住み、私立高校の非常勤教師、カフェ経営、映像教材の編集、声優の仕事をかけ持つ市川愛子さん(37)もまもなく2歳になる長男の保活で、不利な扱いを経験した。

 昨年春、認可保育園の0歳児クラスに申し込んだ。区役所の申込書類一式の中に入園選考で用いられる「点数表」があった。

 フルタイムの会社員は「満点」で30点。仕事場が自宅の場合は、2点減点される。私立高校は受け持ちの授業が土曜日になったり、動画編集の仕事は発注元の都合で深夜になることもあったりと、勤務時間が不規則なため、さらに2点減点された。

 「想定されている働き方があまりに昔の紋切り型。公務員の『9時5時』プラス残業という働き方しかわからないんだろうな」

 「いつでも仕事ができる」「誰かが子どもをみられる」と、仕事も育児も軽くみられていると感じる。

入園選考の点数表。自治体ごとに異なり、親の就労時間や、仕事場が自宅の内か外かなどで差がついていることが多い
入園選考の点数表。自治体ごとに異なり、親の就労時間や、仕事場が自宅の内か外かなどで差がついていることが多い

 だが、発注元の都合に左右され、タイトな納期に追われているのは自宅でもオフィスでも同じ。私立高校の非常勤は産後2カ月で再開した。翌月には、動画編集の仕事が40本分来た。委託元の会社に自分の机はなく、家で作業するしかない。寝かしつけた後、パソコンを開き深夜までこなしても半年かかる。会社員の夫が9カ月間の育休をとって支えたが、長男の1歳の誕生日までが限界だった。

 入園の申込書は第5希望まですべて埋めて出したが落選。発注元の映像制作会社に就労証明をもらい、自宅での仕事のタイムスケジュール表を書いて書類をそろえたが、全て徒労に終わった。

 認可外保育園を探し、6園ほど電話した。7月、東京都が独自の補助をする認証保育所にようやく入れた。ホームページを見ると、認可保育園は1歳児だけで200人以上待機している。今春は「どうせ入れないので労力の無駄」と申し込みはあきらめた。ただ、認証保育所の預かりは原則3歳まで。今年、再び保活が待ち受ける。

東京都板橋区でフリーランスで働く市川愛子さんは、長男を出産した2カ月後から仕事を再開。夫が育休を取得した
東京都板橋区でフリーランスで働く市川愛子さんは、長男を出産した2カ月後から仕事を再開。夫が育休を取得した

やむなく通う認証保育所が閉園の危機

 東京都内で不動産業を営む女性(35)は就労時間がフルタイム勤務の人より少し短い。そのせいか、小学1年生になった長女は6年間ずっと認可保育園に入れない待機児童。3歳の長男は今年も1次選考で落ちた。

 仕事は1人で回しており、会社員の夫は海外出張も多く協力は得られない。「自営業だからといって、子どもを見ながら仕事ができるわけではないのに……」。ため息が出る。

 2人の子どもは認証保育所に預けた。フリーランスや短時間勤務のため認可保育園の選考に不利で、入れない人の子どもも多いという。このまま認可保育園に入れなければ、いまの認証保育所に通わせ続けるつもりだった。

 ところが、周辺の土地区画整理事業の影響で来年3月末で閉園する見込みとなった。女性はほかの保護者とともに、存続のための署名活動をして、区長や区議会議長あてに陳情書や請願書を出した。しかし、存続する見通しは立っていない。

 「働き方は多様化している。フルタイムの会社員や公務員だけでなく、フリーランスや自営業者の子どもも認可保育園に入れる社会になってほしい。自治体が入園者を選ぶのではなく、私たちが園を選べるようになればいい」。近隣の認証保育所の定員枠は少なく、高額な認可外保育園に預けることも考えざるをえない。

     ◇

 取材班は、保活や保育士の仕事についての体験談、ご意見をお待ちしています。メールseikatsu@asahi.comかファクス03・5540・7354、または〒104・8011(住所不要)文化くらし報道部「保育チーム」へぜひお寄せ下さい。

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「保活」を巡る体験や、ご意見を募集しています。(お話を伺える方は連絡先の明記もお願いします)

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 この記事は朝日新聞社とYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。家族のあり方が多様に広がる中、新しい価値観と古い制度の狭間にある「平成家族」。今回は「保活」をテーマに、その現実を描きます。

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