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#25 ことばマガジン

面接「官」に試験「官」、役人じゃなくてもOK? 文字の由来や実態は

就活での「面接官」、テストの「試験官」――。これらに対して、役人以外を『官』と呼ぶのは正しくない」という指摘があります。

問題用紙を配る「試験官」=高松市
問題用紙を配る「試験官」=高松市 出典: 朝日新聞

目次

【ことばをフカボリ:8】

 就活での「面接官」、テストの「試験官」、私大の「教官」――。これらに対して、「役人以外を『官』と呼ぶのは正しくない」という指摘がしばしばあります。確かに、官房長官、事務次官、裁判官など、「官」がつくのは国にかかわる仕事や公的な職業ばかり。民間の人に使うのは間違いなのでしょうか。(朝日新聞校閲センター・有山佑美子/ことばマガジン)

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飯間浩明さんに聞く


 「~官」について、国語辞典を編纂(へんさん)する飯間浩明さんは「基本的には役人を指しますが、使用実態は単純でなく、判断の難しい言葉の一つです」と話します。

 飯間さんは、戦後発行の書籍約1千冊をデジタルデータ化し、末尾に官がつく3字熟語がどのくらいあるか調べました。計4344件あり、うち面接官は157件。裁判官(1位・603件)や警察官(2位・584件)、外交官(4位・315件)などに続き、7番目に多かったそうです。試験官も143件で9番目。書記官(75件)や自衛官(37件)より上でした。

 「面接官や試験官だけ毛色が違う言葉なのに、奮闘しているなという印象でした」

法廷の真ん中に座る「裁判官」=新潟地裁高田支部
法廷の真ん中に座る「裁判官」=新潟地裁高田支部 出典: 朝日新聞

広辞苑では


 これを裏付けるように、「官」をめぐっては国語辞典の書き方にも変遷がみられます。分かりやすいのが「教官」の項目です。

 広辞苑は初版(1955年)で「(1)学術を教授する官吏(2)教育に関することをつかさどる官吏」と、国の役人を指す二つの語釈を示していました。ところが、第3版(83年)になると、「ひろく大学・高等専門学校などの教員」が加わり、91年の第4版で「俗に、私立大学や専門学校などの教員にも用いる」と変わります。

 三省堂国語辞典は、第5版(2001年)では「学問や技術を教える(研究する)国家公務員」と狭義の語釈でした。しかし、第6版(08年)で「教育や指導に当たる人。『自動車教習所の教官』」とゆるめています。

 他にも「俗に」「俗用で」「一般に」などの前置きをしつつ、国家公務員以外に使うのを認める辞典がいくつかあります。

合同就職面接会で企業の「面接官」と話す=大阪市北区
合同就職面接会で企業の「面接官」と話す=大阪市北区 出典: 朝日新聞

「官」の字の来歴は


 そもそも、「官」の字にはどんな来歴があるのでしょう。漢字研究の第一人者・故白川静さんは「常用字解」で、軍の駐屯地を意味していたとします。ウ冠は建物の屋根、その下に軍隊が行動する時に守護霊として携帯した肉を安置した形。のちに、「役所・役人」や「つかさどる」という意味に発展しました。

 同じく漢字学の大家・故藤堂明保さんは「漢字語源辞典」で、もとの意味は周囲を垣でめぐらし、その中に養われている人々とします。ウ冠は上から屋根や覆いをかぶせて囲むことを示し、下の部分は人の集団を意味するそうです。

 法律や公文書では、現在も官は「国の役人」などに限定しています。国家公務員法の中に「官職に欠員を生じた場合~」と欠員補充について定めた項目があります。これに相当する部分は、地方公務員法では「職員の職に欠員を生じた場合~」。官が登場するのは国家公務員法のみです。

 自動車教習所は民間の運営のため、「教官」は法律上は存在しません。「教習指導員」または「技能検定員」が道路交通法での正式名称です。

対話を重視しているという自動車教習所の「教官」(左)=東京都小金井市
対話を重視しているという自動車教習所の「教官」(左)=東京都小金井市 出典: 朝日新聞

「言葉の天下り」に違和感?


 実際の社会ではどうでしょうか。書店などで目にする就職試験対策の書籍は「面接官」という表記が多いですが、「官」以外を使う団体もあります。埼玉県和光市役所、島根県庁などは採用試験に際し、「面接員」「試験員」という表記を用いています。

 来年度から一部の入試に面接を採り入れる東京大学。選抜要項には「面接員」と明記しています。日本英語検定協会が行う英検は「面接委員」。「員」は官に比べると、特殊な背景や権威性を感じさせにくい印象があります。

 公から民へ、「官」は進出し、定着もみられます。ただ、語感は人により異なります。「言葉の天下り」に違和感を覚える人が一定数いるのも確か。現状は俗用であること、もとの意味とは違うということには留意したいところです。

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