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子どもは静かに溺れます! 医師が注意喚起 映画とは違う理由とは?
乳幼児の不慮の事故で2番目に多い「溺水」。溺れる時、バシャバシャもがくのは映画の世界だけです――。そんなツイートが注目を集めています。
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乳幼児の不慮の事故で2番目に多い「溺水」。溺れる時、バシャバシャもがくのは映画の世界だけです――。そんなツイートが注目を集めています。
【ネットの話題、ファクトチェック】
乳幼児の不慮の事故で2番目に多い「溺水」。溺れる時、バシャバシャもがくのは映画の世界だけです――。そんなツイートが注目を集めています。投稿したのは長野県佐久市の小児科医たちで作るプロジェクトチーム。「実際に我が子も自宅の浴槽で溺れかけた」と話すリーダーの医師に話を聞きました。
先月27日、ツイッターにこんな文章が投稿されました。
「乳幼児の不慮の事故で2番目に多い『溺水』。溺れる時、バシャバシャもがくのは映画の世界だけです。溺れた状況を理解できず、もしくは呼吸に精一杯で声を出す余裕もなく、静かに沈みます(本能的溺水反応といいます)。隣の部屋にいれば音で分かると思ったら大間違い。入浴中は気を付けましょう」
このツイートに続けて、「さっきの溺水のツイートを、制作チームのイラストレーターがイラストにしてくれました」と今度はイラストが投稿されました。
「想像」と書かれた横には、水面から顔と手を出してギャーと叫びながら助けを求める子どもの絵。「実際」の文字の近くには、水中で目を見開いたまま横になっている子どもが描かれています。
この投稿に対して、「自分も小さい頃こうなりました」「息子が海で溺れ掛けたとき、まさにこんな感じ」といったコメントが寄せられ、リツイートは最初の投稿が2万2千、イラスト付きの方は3万を超えています。
一連のツイートをしたのは、「教えてドクター!プロジェクト」。メンバーは長野県佐久市にある佐久総合病院の医師らで、「小児科医は診察室を飛び出そう」「こどもの健康を守る主役は医療者ではなく保護者」「小児救急外来の負担を軽減する」の3つをテーマに活動しています。
地元での出前講座や、症状・病名別に受診の判断の目安や対処法などを解説する冊子の制作、それをもとにしたスマホアプリ「教えて!ドクター」開発などを手がけています。
プロジェクトリーダーを務めているのは、佐久総合病院佐久医療センターの小児科医・坂本昌彦さんです。つい先日、我が子が自宅の浴槽で溺れかけたという坂本さんに詳しく話を聞きました。
――ツイートの中に登場する「本能的溺水反応」について教えてください
「初めて提唱したのはアメリカのFrancesco Pia博士です。彼はライフガードとしての仕事をしていた1960~70年代に、溺れている人が救助されるまでの過程をビデオに収めて観察した結果、溺れている人が助けを呼んだり叫んだりしないことに気づき、これを本能的溺水反応と呼びました」
「呼吸をすることに精一杯で声を出したりすることができない、手や腕を振って助けを求める余裕がない、上下垂直に直立している、助けが確認できない状況では足は動かない、と博士は言います。この現象は米国の沿岸警備隊の間では常識のようです」
「したがって、子どもだけに当てはまる現象ではなく、大人でも同じだということです。ただ、特にこどもは自分に何が起きているかわからず、また沈む速度も速いため、特に『静かに早く溺れる』ようです」
――坂本さんのお子さんも溺れかけたそうですね
「先日、1歳3カ月の息子と一緒にお風呂に入っていたときのことです。私が先に脱衣所に出たのですが、ジョウロで遊ぶ水の音がしていたのが、15秒か20秒後に振り返ったら、仰向けに目を見開いたまま沈みかけていました」
――今回の呼びかけはご自身の経験がきっかけなんですか
「その時にはそこまで考えませんでした。それからしばらくして文献で本能的溺水反応のことを知り、『これは啓発しなければ』と思ったんです」
――万が一、子が溺れてしまった場合の処置について教えてください
「水中での時間が5分を超えると、脳に後遺症を残す可能性が高くなるといわれています。処置としては、まずは引き揚げて、平らな場所に寝かせる。意識があるかを確認して、意識がなければ人や救急車を呼んだ上で、絶え間なく心臓マッサージと人工呼吸を行ってください」
――子を溺れさせないために注意すべきことは
「小児では、冷たい水と比べると温かい水では死亡や脳障害が30倍になると言われています。また3歳以下も予後(今後の病状についての医学的な見通し)が悪いと言われています。子どもの方が大人より助かりやすい、というわけではありません。乳幼児の入浴時の溺水は非常に予後が悪く、短時間でも後遺症を残すため危険であること、そのためには予防が大事で、『静かに沈む』ことをもっと認識すべきです。『音がなく、静かな時は何かが起きている可能性がある』と考えておくのがよいと思います」
「最近、お風呂用の首浮輪を使っていて、親が目を離したすきに溺水してしまう事故がいくつか起きています。使用はお勧めしません。もし使う場合には、そのリスクを十分に理解し、浮輪をつけているからと言って視線を外さないように気をつけることが大事です」
――話題になったことについては
「多くの人に届いたのは、プロジェクトチームのメンバーである江村康子さんが描いたイラストのおかげです。われわれ医療者は啓発のための文書を作って、それで自己満足してしまうことがありますが、大切なのは啓発の仕方です。届かなければ意味がありません。そのために制作したスマホ向けアプリなので、ぜひ活用してください」
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