連載
#22 ことばマガジン
「~させていただく」って使っていいの? 敬語の専門家に聞きました
「~させていただく」は使っていいのか、悪いのか? 敬語の専門家に聞きました。
【ことばをフカボリ:5】
歓送迎会や地域の会合などで、人前で何か話をすることになった時、「お話しします」で十分なのに「お話しさせていただきます」と、つい言ってしまいませんか。この「~させていただく」という表現には、「押しつけがましい」という批判も聞かれます。使っていいのか、悪いのか。敬語の専門家にうかがってみました。(朝日新聞校閲センター・市原俊介/ことばマガジン)
「検討させていただきます」「お邪魔させていただきます」、さらには要らない1字が入ってしまって「作らさせていただきます」……。
「させていただく」の使い方については、ビジネスシーンなどでも悩んでいる人が多いようです。
就活関係のサイトでも、気をつけるべき敬語の使い方としてよく取り上げられていて、「使うべきでないケースがある」「多用を控えるべきだ」と解説しているものもあります。
一般的な国語辞典は、「相手の許しを得て行う自分の動作を謙遜する時に使われる」としています。「この道具、使っていいですよ」と言われて「では、使わせていただきます」と返すようなケースです。広まったのは戦後だと説明している辞典もあります。
もともとの使い方について、敬語に詳しい東京外国語大名誉教授の井上史雄さんは「商売上のやりとりなどの場面で、自分と大きく身分が違わない相手への敬意を表すのに用いられた表現だった」と言います。ところが戦後、人間関係が広がって流動的になり、身分の違う相手にも使われることが増えてきました。
さらに、相手の許可が要らない場面や、自分の一方的な行いについても、頻繁に使われるようになりました。
そうした背景には、この言葉が持つ便利さがあるようです。動詞にくっつけるだけで、場面を問わずに「相手に失礼のないよう私は配慮している」ということを、あらかじめ示せるからです。
文法上、どんな動詞の後ろでも使える点も、重宝された理由の一つだと、井上さんはみています。
それではこの表現に抵抗を感じる人がいるのは、なぜでしょうか。
井上さんによると、敬語は「知識や情報」を伝えるのではなく、対人関係での「配慮の気持ち」を示すために使われます。
人間関係のあり方は時代によって変わりやすく、それに合わせて望ましいとされる表現も変わっていきます。
一方で、人が一度身につけた敬語についての「正しさ」の感覚は変わりにくいものです。「させていただく」に違和感を抱くのは、その感覚から外れる場面で多用されていると感じるからだと言えそうです。
いずれにしても、丁寧だと感じるか、押しつけがましいと感じるかは、受け手ごとに違うでしょう。
正しいか誤りかはあまり気にしすぎず、配慮を相手に伝えようとする気持ちを表せていたなら、過剰でなければ使っても不快感は与えないのではないでしょうか。
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