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カメラマンが「シュレッダーの山」を撮った理由 子育て相談の「跡」

遠藤啓生撮影
遠藤啓生撮影 出典: 朝日新聞

目次

 子育てに悩む親の相談を受ける電話窓口がある。受話器からもれる不安の声を書き留めたメモ用紙は、相談が終わればシュレッダーへ。優しい色の電球の光に照らされた紙の山は、張り詰めていた親の気持ちがほどけた跡のように見えた。(朝日新聞映像報道部記者・遠藤啓生)

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メモはシュレッダーへ

 「ママパパライン東京川の手」(03-3633-0415)では、子育て経験のあるボランティアが無料で相談を受け付けている。開設時間は毎月第1・3金曜日の午後と限られているが、年間100件もの相談がある。

【関連リンク】ママパパライン東京川の手
「ママパパライン東京川の手」のHP
「ママパパライン東京川の手」のHP

 1回の電話は平均40分。「保育園がみつからない」「言葉が遅い気がする」「つい子どもに手を上げてしまう」、そんな悩みが寄せられるのだという。ボランティアは相づちを打ちながら、受話器の声に耳を傾ける。

 電話が終われば、受け手のスタッフが走り書きしたメモはシュレッダーにかける。内容は第三者には漏らさない。それは相談者との約束ごとだ。

寄せられた「声」を書き留めた紙のシュレッダーの紙の山=遠藤啓生撮影
寄せられた「声」を書き留めた紙のシュレッダーの紙の山=遠藤啓生撮影 出典: 朝日新聞

「出口」が見えないとき

 育児をしていると、「出口」が見えなくなるようなときがある。

 わたし自身、共働きの妻との間に、4歳の息子と1歳の娘がいる。生まれて間もなかった長男のアレルギー性疾患には悩んだ。

 かゆみを訴えて夜じゅう泣き続ける姿に、無力感すら覚えた。休みごとに病院を回る日々。今はほぼ完治しているが、駆け出しの親だったわたしたちは、身も心もくたくたになった。

シュレッダー前、ボランティアが書き留めた「夜泣き」の文字=遠藤啓生撮影
シュレッダー前、ボランティアが書き留めた「夜泣き」の文字=遠藤啓生撮影 出典: 朝日新聞

 息子を保育園に入れるとき、妻は育休を早めに切り上げた。区が定める選考基準の持ち点を、少しでも高くするためだった。結局、息子が入れたのは第10希望の認可保育園だった。

 ほかの親からすれば、「たいしたことはない」と思える悩みかもしれない。だが、新聞社のカメラマンとして、いまを生きる親たちが抱える悩みの一片を写真で表現できないか、と考えるようになっていった。

「写し込むものは最小限に」

 電話相談の撮影には、6回通った。

 「どういう人がどんな場所で電話を受けているか知ることで、電話をためらってしまうかもしれない。写真に写し込むものは最小限にしてほしい」。それは、運営するNPO「こうとう親子センター」が取材に応じてくれる条件だった。

ボランティアが電話を受ける机に置かれたボード=遠藤啓生撮影
ボランティアが電話を受ける机に置かれたボード=遠藤啓生撮影 出典: 朝日新聞

 部屋の様子も、電話を受けるボランティアの姿も撮ることはできない。目の前にあるのは、電話機だけ。正直、頭を抱えた。

 2回目に訪れたとき、部屋の片隅に置かれた大量の紙が入った袋が目にとまった。シュレッダー処理された紙片には、「ママ友」の文字があった。

 「井戸端会議や長電話が減って、誰かに気軽に相談する機会が失われてはいないでしょうか」。事務局の曽根恵美子さん(55)の言葉だ。相談を終えた相談者の声のトーンは、必ず明るくなるという。

ほどけていく気持ち

全国各地の「ママパパライン」の相談窓口案内
全国各地の「ママパパライン」の相談窓口案内

 抱えた問題は簡単には消えなくても、誰かに聞いてもらうだけで救われることがある。わたしもそうだった。息子が通う保育園の「パパ友」との会話が悩みを軽くしてくれた。

 A4用紙4、5枚分の紙を撮らせてもらった。1件分のメモの跡だ。張り詰めていた親の気持ちが、会話を通してほどけていく――。電話の写真と組み合わせることで、そんなストーリーを表現したかった。

月に2回、子育て中の親からの電話が鳴る。相談内容は完全に誰にも伝えない約束。悩みをメモした紙はシュレッダーにかけられる=遠藤啓生撮影
月に2回、子育て中の親からの電話が鳴る。相談内容は完全に誰にも伝えない約束。悩みをメモした紙はシュレッダーにかけられる=遠藤啓生撮影 出典: 朝日新聞

 この写真表現が正解だとは、いまでも思わない。だが、日々奮闘しているパパやママたちに、こういう「出口」があるのだと知ってもらえれば、と願う。

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