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買っても読まない「積ん読」派に…おすすめの一冊「眺めるだけで…」
最近、本読んでいますか? 私は読んでいません。買った本を部屋の隅に積み上げている、いわゆる「積ん読」派です。そんな人間も楽しめるイベントがあります。本の達人であるブックセレクターがアドバイスしてくれる「あなたのために本を選びます」という催し。「眺めているだけでいいんです」とおすすめしてくれた「意外な一冊」とは?
6月末、東京都港区南青山の住宅街に建つシェアオフィスを訪ねた。高い天井に白い壁、花瓶に挿されたあじさいの花、ウッドテーブルに並ぶ本……。かなりおしゃれな空間に、「難しい本を薦められたら、どうしよう」「また本が増えてしまうではないか」とドキドキ、そわそわ。
本を選んでくれるのは、ブックセレクターの川上洋平さん(37)。好みや気分、キーワードを伝えると、約450冊の古書から、その人に合いそうな数冊を選んでくれる。お酒を飲みながら読んで、気に入れば買うこともできる。
なんだか敷居が低い感じ。
川上さんは東京都出身。大学時代の失恋をきっかけに本にはまった。意外と遅い? 幼少から活字中毒かと勝手に思ってました。
大学卒業後に友人とともに、本を通じたイベントを開くようになり、3年ほど前から、選書とお酒を組み合わせたイベントを開く。これまで500人に1000冊以上を紹介しているという。
ただ、積ん読派でも参加して良いのか。心配なので聞いてみた。
「本棚に置いておくだけでも、読んでいるに等しいと、僕は思っています。いろんな本の付き合い方があっていい」と川上さん。
読まなくてもいい?記者が不思議そうな顔をすると、川上さんは「海」にたとえてくれた。
「海って、全部泳ぐのは無理ですよね。深く潜る人がえらいわけでもない。泳がないけど、眺めているだけだっていい。潜っている人には見えない風景を見ることができるのですから。『触れている』ことが大事です。そうすれば、海に足先をつけてみようと思うかもしれない」
なるほど、なんか納得しちゃいました。そこで、初参加の記者も薦めてもらうことに。
好みはこれと言ってないので、今秋に子どもが産まれることと、父親になる心の準備ができていないと伝えた。川上さんは「僕も経験しましたよ」とにっこり。本棚の前で悩むこと数分。
「枕元で話す時にいいかもしれません」とイタリアの児童文学作家の短編集を薦められた。心構えを説いた直球ではなく、子ども向けの本ですか。
続いては「少し先のことですけど」と前置きしつつ「お子さんが科学に興味を持ち始めたら、いいかも」と雪の研究で有名な物理学者の中谷宇吉郎が、雷の仕組みを解説した作品。子ども以前に記者が気になってしまった。おもしろそう。
川上さんは本の内容だけでなく、著者の人生、出版社の設立の経緯、装丁の凝り方……あふれ出る知識とともに紹介してくれた。
でも、どんな基準で選んでいるのか
「その場の即興的な感じで決めています。直感ですね」と川上さん。
えっそんな感じで良いの。
「本の好みやその方の仕事など、一通り話を聞いて、作品の内容や作家につながる部分がないか、と考えて薦めています。でも、気の合いそうな友達を紹介するような感覚なので、この人に合いそうだなって」
そもそもどうして、選書を始めたのか。
「良い本に出会えれば、新たな気づきがあり、考え方や生き方が豊かになります。でも、良い本が、良い読み手に出会えていない。良い読み手に出会わなければ、本も面白くならない。だけど、そういうマッチングをしている人はほとんどいません」
「読まなくても良い」。そう聞くと、もっと気軽に本と付き合ってみようと思うようになった。ちなみに薦められ、購入した短編集はまだ読んでいないんですけどね。
川上さんのイベント「SAKE TO BOOKS」は、東京都港区の「FARO青山」(03・5772・3653、contact@smalltokyo.jp)で不定期に開かれている。次回は19日午後5時から。入場料無料、ワンドリンク制。
選書に関する相談は川上さんにメール(info@bookpickorchestra.com)で。
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