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駐日トルコ大使、会見で大いにボヤく!「日本みたいに平和なら…」
トルコで昨年7月に起きたクーデター未遂事件から1年がたちました。この節目に合わせ、トルコのアフメット・ビュレント・メリチ駐日大使が、東京都内で記者会見を開きました。非常事態宣言が今も続くトルコの混乱に、「日本のように平和的なら……」と、ボヤキ節も聞こえてきました。
東京都渋谷区神宮前の明治通り沿いに建つトルコ大使館。7月14日、手荷物検査を終えて案内された記者会見場は、敷地内にある白が基調の大使公邸でした。
20人ほどが座れる立派な長机に記者たちが向かい合って座っていると、メリチ大使がトルコ国旗を背にした「お誕生日席」に着席。
「今日は、去年に行われたクーデター(未遂)についてお話ししたいと思います。よろしければ、これからトルコ語で話して、通訳をいただきましょう」
隣に座った大使館職員がメリチ大使の発言を聞き取り、日本語で代弁するスタイルで会見は進みます。
「日本では間違った解釈が進んでいる気がする」
メリチ大使の第一声は、日本のトルコ報道への苦言から始まりました。
「欧州メディアからの引用が多い印象。トルコが独裁的体制であるとか、民主体制が障害を負っているとか。書いている人はどういう基準で定義しているのか」
発言の念頭には、トルコで大統領権限が大幅に強化されることや、当局によるメディア関係者の収監が相次いでいる問題があります。
「これまで単独政権がマレで、安定して決定を下すことに支障があった。トルコは、地政学的に世界で最もホットな位置にあり、紛争も続く。素早く判断せねばならない環境なのです」
「(逮捕された人たちは)報道陣を装ってテロ組織活動をしている」などと主張しました。
強い文言ですが、大使の声は大きくはなく、5メートルほど離れている私には聞きづらいほど。「ボヤキ節」のように聞こえました。
トルコのジャーナリストの拘束に関して、記者との主なやりとりを紹介します。
メリチ大使「いま拘束されている報道陣は150人います。そのなかで、黄色い身分証を持った、はっきりとした身分は2人のみ。その他は報道陣を装って、テロ組織の活動をしているのです」
ーーその黄色い身分証とは、誰が出しているのですか?
メリチ大使「首相府にある組織です。公式に報道機関とされている」
ーー政府にとって都合のよい報道記者だけを認めているのではないでしょうか。健全な民主主義に資するとは思えませんが?
メリチ大使「身分証は、申請があれば発行する義務がある。政権に反対する記者も含めて発行せざるを得ない。事実上、政権を支持してない活動が、黄色いバッチを付けて続けているケースもある」
この話題は、会見では平行線に終わりました。
トルコの現地からは、「健全性」を疑問視する声も報じられています。
そもそもトルコで起きたクーデター未遂事件って? その後の1年間とともに振り返りましょう。
メリチ大使は、クーデターを企てたのは米国に亡命中でエルドアン大統領と対立するイスラム教指導者ギュレン師を信奉する勢力であるという、トルコ政府の主張を、この日の会見でも強調しました。
クーデター未遂後のトルコの主な出来事は次の通りです。
■2016年
7月15日
軍の一部によるクーデター未遂事件が発生。政権はギュレン師と信奉者団体が事件の「首謀者」と主張
7月20日
全土に3カ月の非常事態宣言が出される(その後、3回延長)
8月24日
トルコ軍が過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討を名目にシリア北部に越境侵攻
12月10日
イスタンブール中心部で連続爆破テロ、44人死亡
■2017年
1月1日
イスタンブールの高級ナイトクラブが襲撃され、39人が死亡。ISが犯行声明
4月16日
大統領の大幅な権限強化を盛り込んだ憲法改正案を問う国民投票が実施され、わずかな差で賛成派が勝利
5月21日
与党・公正発展党に復党したエルドアン大統領が再び党首に就任
7月17日
国会が4回目の非常事態宣言延長を承認
ざっとみただけでも、激動の1年ですね。
メリチ大使は「残念ながら、トルコにとって、良い1年ではなかった。大きなトラウマを経験した」と、まとめました。
メリチ大使からは、こんな本音もこぼれました。
「日本のように平和的な島国であれば良かったのかもしれませんね」
手元に会見の想定問答を用意していたようですが、この一言はアドリブだと思います。
記者たちには「ややウケ」で、メディア批判の先制パンチを受けて張り詰めていた会見場の空気が和みました。
会見によると、クーデター未遂事件で250人が死亡、2千人以上が負傷しました。
「トルコの歴史で最も残酷で非人道的な攻撃だった」
この事件に関連する裁判は、計78件が進行中で、国家機関から追放された職員らは、なんと約10万人に上ります。
事件から1年、エルドアン大統領は、事件に関わった者たちに強い態度を取り続けています。
メリチ大使のような外交官も例外ではありません。
トルコの外交官の4分の1が職を追われ、「駐日トルコ大使館も例外ではなかった」(関係者)といいます。
もし自分の職場で、「クーデターに関わった」として同僚たちが次々に居なくなったら……。
会見に出席していた私は「そりゃメリチ大使、トルコ政権の立場と違うことは、口が裂けても言えないよね」と思いました。
取材ノートは12ページ。一つの質問に、大使の「ボヤキ解説」が2ページにわたって続くこともありました。何かを新たに発表するたぐいの会見ではなく、日本の大手メディアにトルコ政府の立場をブリーフィング(状況説明)する目的の会見でした。
最後に、会見で聞いたトルコ政府の最近の動きを紹介します。
1年の間に公職追放が約10万人にも上れば、失敗も起きます。
追放された約10万人のうち、725人は誤った手続きで追放されたとして復職しました。
こうした手続きミスを受けて、今月17日からは、「公職からの追放案件を調査する委員会」の活動がスタート。7人の裁判官と200人の専門調査員による法的機関で、「オンブズマンのような組織」(メリチ大使)といいます。
職を追われた人の申請に基づいて、妥当だったかどうかを委員会が60日以内に調べ、申請が正しいと認められれば15日以内に復職する。事件から1年たって、こうした仕組みも整えられました。
一方、公職追放や容疑者の逮捕は続いており、トルコ国会は17日、昨年7月15日のクーデター未遂事件直後に出された非常事態宣言について、4回目の延長を承認しました。メリチ大使は「実行犯らの裁判は年内に大半の判決が出る。それまでは非常事態宣言が継続されるのではないか」と推察します。
トルコが落ち着くまでには、まだ時間がかかりそうです。
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