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覇権目指す中国、戦前の日本? 専門家の直撃に、中国軍幹部が本音

シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で東南アジア諸国の関係者らとあいさつを交わす中国代表団長の何雷氏(右)=石原孝撮影
シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で東南アジア諸国の関係者らとあいさつを交わす中国代表団長の何雷氏(右)=石原孝撮影 出典: 朝日新聞

目次

 アジア太平洋地域で存在感を高める中国にどう向き合えばいいのか――。いまや日本の外交・安全保障にとって最大のテーマの一つ、「対中国政策」。6月初旬にシンガポールで開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」では、まさにこうした問題が焦点になりました。会議に参加した日米関係が専門の神戸大学大学院・簑原俊洋教授は、期間中に中国海軍の幹部と接触。「覇権に挑戦しているという意味において、現在の中国は1930年代の日本の行動と酷似している」と語ります。(朝日新聞政治部記者・園田耕司、松井望美)

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神戸大学大学院の簑原俊洋教授
神戸大学大学院の簑原俊洋教授 出典: 朝日新聞

なぜ米国の「中国批判」に説得力がないのか

 「国際社会の利益を侵害し、規則に基づいた秩序を壊す中国の行動を容認しない」。今年のシャングリラ・ダイアローグ(英国際戦略研究所主催、朝日新聞社など後援)では米国のマティス国防長官が演説し、南シナ海や東シナ海への進出を強める中国を強く批判しました。簑原教授はマティス氏のこうした演説を高く評価しました。

 「今年の会議は、南シナ海問題をめぐる中国の強硬な姿勢に対する反発は変わりませんでしたが、トランプ大統領が率いる米国の方向性がいま一つはっきりしないことに起因する『不安感』が蔓延していました。そんな中、マティス氏は大変良いスピーチをしました」

 「『私たちは従来通りアジア地域にコミット(関与)しており、法の支配による秩序を守るため、あなたたちと共に安定に寄与する』と訴え、さらには、台湾にも言及して中国側の出席者を怒らせました」

マティス米国防長官
マティス米国防長官 出典: 朝日新聞

 ただ、簑原教授はマティス氏の演説がトランプ政権の「総意」なのか、疑問視しました。その例として、6月にサウジアラビアなど中東4カ国が踏み切ったカタールへの断交をめぐる大統領と閣僚の足並みの乱れを指摘します。中東最大級の米空軍基地があるカタールにマティス氏は配慮を示す態度を取っていますが、肝心のトランプ氏はツイッターでサウジ側を明確に支持する考えを表明しました。

 「マティス氏が心底からスピーチで述べたように信じていたとしても、彼は大統領ではありません。サウジによるカタール国交断絶へのトランプ氏の対応が如実に示すように、大統領と国防総省の政策は一枚岩ではなく、マティス氏が価値観を共有するアジアの同盟国との関係の重要性をいくら訴えたとしても、説得力がいまひとつなのです」

アメリカのトランプ大統領
アメリカのトランプ大統領 出典: 朝日新聞

日本の出方を探る中国軍幹部の本音は……

 簑原教授は会議で、中国海軍の幹部と同席したと言います。日本に対する彼らの関心は何なのでしょうか。

 「晩餐会で、中国海軍の上級大佐が横に座りました。彼は『日本は高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD〈サード〉)を配備する可能性がありますか』『憲法改正の可能性はありますか』『日米防衛協力はさらに深化しますか』などと、安全保障分野での日本の対応に強い関心を示し、根掘り葉掘り聞いてきました」

 では、そんな幹部に、簑原教授はどう答えたのでしょうか。

 「逆に私は『あなたたちは大国へと台頭し、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島も手中に収め、もうすでに勝っていると言えなくはありません。これ以上に何を求めているのですか?』と聞きました」

 「すると、彼は『中国の勢力圏からの米国の退場だ』と答えたんです。中国の目標は日米同盟にくさびを打ち込み、日本を米国から孤立させて、自分たちの勢力圏に組み込むことにあるのだと、私は理解しました」

報道陣に囲まれて中国側の立場を主張する中国代表団長の何雷氏(左)=シンガポール、6月3日、西村大輔撮影
報道陣に囲まれて中国側の立場を主張する中国代表団長の何雷氏(左)=シンガポール、6月3日、西村大輔撮影

今の中国は、戦前の日本に似ている!?

 中国軍幹部の「本音」が垣間見えたとき、簑原教授は戦前の日本を思い起こしたと言います。

 「覇権に挑戦しているという意味において、現在の中国は1930年代の日本の行動と酷似していると思います。日本も大陸に進出して満州事変を起こし、力による現状変更を強行して、満州を『核心的利益』と位置付けました。同様に、中国も大胆な現状変更を実施して南沙諸島やその周辺海域を『核心的利益』であると一方的な主張を展開しています」

 「今回の会議で中国が各国から批判をされたように、当時の日本も国際会議で行動を厳しく追及されました。歴史の傾向やパターンは繰り返されます。第2次世界大戦後、米国が作った戦後秩序は70年以上続いてきましたが、いかなる体制も永続はしません。米国の国力は相対的に小さくなってきていて、米国主導の戦後体制には、ほころびが見え始めてきているんです」

ジュネーブの国際連盟総会でリットン調査団の報告案採択後、重大声明を発表する松岡洋右国連首席全権=1933年
ジュネーブの国際連盟総会でリットン調査団の報告案採択後、重大声明を発表する松岡洋右国連首席全権=1933年 出典: 朝日新聞

 戦前の日本は「東亜新秩序」、のちに「大東亜共栄圏」を打ち立てて英米主導の国際秩序に挑戦しました。同様に、現在の中国も自国にとって有利な国際秩序を打ち立てて新たな覇権を築こうとしているのでしょうか。簑原教授は「一部の中国研究者と私の意見が分かれるところですが」と前置きしつつ、米国の覇権に中国が挑戦する「覇権挑戦期」にあるのだと分析します。

 「一部の中国研究者は、世界は中国によって『覇権移行期』に突入していると考え、米国の覇権は確実に終末期を迎えていると捉えています。しかし、私はそうは見ていません。世界は『覇権挑戦期』の局面に入っていて、覇権移行の成否はまだ決していないと考えています」

 「米国は復元力のある国家なので、新たな大統領の下、中国の膨張政策に対抗するシナリオは否定できませんし、中国の国力のファンダメンタルズ(基礎的財政力)も盤石ではありません」

中国の習近平国家主席
中国の習近平国家主席 出典: 朝日新聞

 そのうえで、簑原教授は「域内覇権」という言葉を使い、現在の中国の目指す国際秩序を解説してくれました。

 「覇権国家には『域内覇権』と『グローバルな覇権』があり、今の中国が目指しているのは『域内覇権』であるというのが、私の見解です。かつてのスペインとポルトガルのように世界を二分し、米中の勢力圏に分割するG2構想(2大大国構想)を狙っているのです。実際、中国は伝統的に米国の勢力圏にあったフィリピンを自陣に引き込むのにある程度成功し、韓国と台湾に対してもかなり圧力を加えています」

 そうした中国の動きに対し、会議では日米同盟への期待感があったと、簑原教授は解説します。

 「会議に参加した東南アジア諸国のメンバーは言葉を慎重に選びながらも、中国の君臨するアジアの将来に対する憂いを示し、牽制できるのは日米両国による断固とした姿勢しかないと示唆していました」

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