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甲子園で「0勝7敗」経験を本に 元監督がやっちまった「痛恨の失敗」
「甲子園の負け方、教えます」。そんな衝撃的なタイトルの本があります。著者は、岩手県にある盛岡大学付属高校で2008年まで野球部の監督を務めていた沢田真一さん(52)。7回出場した甲子園で、ただの一度も勝ったことがありません。自らの失敗をつまびらかにすることで後進の参考になればと執筆しました。しかし、沢田先生、本のなかでも、また失敗してしまったのです。
沢田先生は盛岡大付を率いて、夏の全国選手権大会に6回(1995年、1996年、2001年、2003年、2004年、2008年)、春の選抜大会に1回(2003年)出場し、一度も勝てませんでした。
退任後の今は、教頭先生を務めています。本の出版は5月。初版は5千部で、6月26日に重版が決まりました。
「ありがたい限りです。印税は妻にすべて渡します。監督時代から迷惑をかけ、印税も退職金も『すべて君のもの』と言ってあるので」
本では、部員は14人、バット3本とボール20個、グラウンドもないという状況から、甲子園出場を勝ち取るまでの軌跡を紹介しています。
1995年、甲子園初出場を果たしますが初戦敗退という結果に。待っていたのは壮絶なバッシングでした。そのトラウマから、いつもはしなかったバントを多用した「失敗」を、生々しいエピソードとともに振り返っています。
数ある「失敗」の中でも、沢田さんが後悔しているは「敗戦を直視できなかったこと」。甲子園で負けた試合のVTRを見返せず「間違った自信を見直せないまま、間違った練習を続けてしまった」と語ります。
盛岡大付はいま、沢田先生の教え子でもある関口清治監督が指揮を執っています。2013年の選抜大会で、沢田先生が果たせなかった甲子園初勝利を挙げます。2016年の全国選手権大会、2017年の選抜大会は、2季連続で二つ勝ちました。
「悔しさはないといえば、うそになります。でも、教え子が勝ってくれたのはうれしいのです。会社でも代替わりでダメになることがあるじゃないですか。私はいい形でバトンタッチしたかった。全国には監督の交代で失敗するところもあります。うちはうまくいったと思います」
本は評判を呼び重版に。「印税よりもっと大きな意味が、重版にはあるのです。本当によかったです」
それは何でしょう?
沢田先生はスマホの「LINE」を起動させると、あるメッセージを見せてくれました。
「教え子みんなに、『本を出したから宣伝してね』とLINEを送ったのです。そうしたら、2004年の女子マネジャーの一人から長文の返信がありまして……。『私の名前が載っていません』と」
沢田先生は、本のなかに、教え子すべての名前を書きました。いや、書いたつもりでした。しかし、漏れがあったのです。
「何で忘れたんだろう……。何でですかね。でも、何とか重版になれば、と思っていたので、これで原稿を直せます。名前も入れられます」
緊張する選手に的確な言葉をかけてやれなかったり、投手起用を間違ったりと、甲子園での試合では多くの失敗は重ねましたが、引き際だけは間違えなかった沢田先生。
思いのたけをぶつけた渾身の一冊には、書かなかった内容があるそうです。
「部の遠征でバスを運転するのですが、私の場合、総距離で地球を12、3周はしました。眠気覚ましの秘訣が10個あるんですけど、やっぱり書いとけばよかったかな」
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