連載
「見た目問題は障害」バケモノと呼ばれた男性の願い 就活で心砕かれ
顔の変形やあざ、麻痺など特徴的な見た目のため、学校や恋愛、就職などに苦労する「見た目問題」。顔に紫色のコブがある藤井輝明さん(60)は、自らの体験を2500校もの学校で講演してきました。「見た目問題」は「広義の意味で障害」語る藤井さん。話を伺いました。
――小学校では、子どもたちに「てるちゃん」と呼ばれ、大人気ですね
「私の小学校時代を描いた絵本『てるちゃんのかお』を教材にして、いじめられた体験を、楽しくさわやかに語ります」
「子どもたちには『デブ』『チビ』など、見た目についてニックネームをつけることは人を傷つける恐れがあるから気をつけようね、と話しています」
「話を聞いている子どもが、いじめられたり、見た目に悩んだりしているかもしれません。だから、『私はいじめられて死のうと思ったこともあるけど、今は生きていて本当によかったと思っている。コブのおかげで、こうしてみんなにも会えたし、コブは私のチャーミングポイントだよ』と伝えます」
「子どもたちに、コブを触ってもらうこともあります。『感染するような病気ではないよ』ときちんと説明すれば、子どもたちは怖がることなく、コブを触ります。『ぷにゅぷにゅしている』『プリンみたい』と、子どもたちは感想を言います」
――どのような症状ですか
「生まれた時は、普通の顔でした。2歳の時、血管が変形する『海綿状血管腫』を発症し、右の顔がふくれあがりました」
――手術は受けましたか
「24歳の時、3度受けました。膨らみが大きくなり、放置すれば命にかかわるとのことだったので。コブの大きさは、今の2.5倍もありました」
――初めての差別体験は
「小学校1年生の時です。いじめグループに、『やい!バケモノ。病気がうつるから、近くに来るな』『学校から出て行け』と言われました。石を投げつけられたこともあります」
「『自分は何も悪いことをしていないのに、なんでこんな目に?』と悲しくなり、この世から消えていなくなりたいと思いました」
――学校の先生は守ってくれなかったのですか
「相談しましたが、いじめグループのほうが一枚上手でした。『ふざけて、一緒に遊んでいるだけ』と言ういじめグループの説明を、先生は信じ、対応してくれませんでした」
「しっかりと見ていれば、それがいじめなのか、遊びなのか気づくはずなんですけどね」
――その後、いじめは止みましたか?
「いじめをみかねたのでしょう。両親が、2年生で転校させてくれました。そこでは先生が、感染する病気でないことをきちんと子どもたちに伝えてくれたおかげでいじめにあうことはなくなりました」
――思春期はどうでしたか
「中学、高校と、自分から話しかけることができない、引っ込み思案の性格でしたね。いつも険しい顔をして、町中で私をじろじろ見る人がいれば、怒りを込め、にらみ返していました」
――今の明るい藤井さんからは想像ができません
「一人の友達が、そんな私を変えてくれました。大学1年生の時、『藤井君は笑顔がすてきなんだから、もっとニコニコ笑いなよ』と言ってくれました」
「正直、『何言ってんだ』と思いましたが、すれ違った人に『ニコッ』としたら、笑顔が返ってきました」
「人と付き合う際、自分が心の壁をつくっていたことに気づきました。それ以来、笑顔で生きようと決め、自分から話しかけるようにしました」
――就職活動はどうでしたか
「大学で経済の勉強にのめり込み、銀行や証券会社に就職を希望しました。当時は景気もよく、大学の友人はどんどん大企業への就職が決まっていきました」
「しかし、私はダメでした。50社受けて、まったく内定がもらえません」
「人事担当者に理由を尋ねると、『いくら成績がよくても、バケモノは雇えない』と言われました」
「顧客や取引先が嫌悪感を抱いてしまう恐れがあると言うのです。社会から不要だと言われているようで、私の自尊心は木っ端みじんに砕かれました」
――そこから、どのように道が開けたのですか
「ある医療関係の講演に出席した際、スタッフから『講演したドクターが、君に会いたいと言っています』と声をかけられました」
「それで会ってみると、そのドクターに『あなたのようなハンデを抱えている人間が医療や福祉に必要だ』と言われ、医学研究所の事務官で働かないかと声をかけられました。それで、人生の進路が決まりました」
「就職してから4年後には、医学系の大学に入り直し、看護学を学びました。医学博士となり、大学の教壇にたちました。授業では、医者の卵たちに、自分の体験を伝え、どう心のケアをすべきか、議論してもらいました」
――見た目が、医療の世界に導いてくれたのですね
「その通りです。医療や教育の世界で、障害をもった人がどんどん働くことは大切なことだと思います。見た目問題の当事者が、教師になれば、存在そのものもが、子どもたちに多様性を尊重する大切さを伝える教材となります」
――今は、見た目への悩みはありませんか
「気分の浮き沈みはあります。突き刺すような視線には、ストレスを感じますし。電車で、私の隣に座った人が、はっと私の顔を見て、ほかの空いている席に移ることもあります」
――当事者に会ったとき、悪気はなくても、「あっ」と驚いてしまうことはあるのでは?
「違和感や嫌悪感を持ってしまうのは仕方ないことだと思います。感情を押さえることはできませんから。でも、理性があるわけだから、その感情を表情や行動に出すことはやめて下さい」
「『人と違う見た目の人も世の中にいる』と知っていれば、驚きや戸惑いも減ると思います。車いすや外国人を見ても、何とも思わないのは、その存在を知って、慣れたからではないでしょうか?」
――当事者の支援にも携わってきましたね
「多くの当事者が、視線が怖くて外出もできず、孤立していました。相談先もありません。そこで、仲間とともに全国各地に家族会を立ち上げました。お互いに自分たちの体験や思いを話し合いました」
「また、個人的に手紙などで相談を受ければ、電話し、会いに行きました。『初めて気持ちがわかってもらえた』という人もいました」
――見た目問題への支援はどうなっていますか
「見た目に症状があることを、私は『容貌(ようぼう)障害』と名付けています。ただ、当事者の多くは機能的な障害がなく、治療の緊急性もないため、公的な支援はほとんどありません」
「かといって、健常者かと言えばそうでもなく、差別を受け、生きづらさを感じています」
「『顔のことくらいでガタガタいうな。もっとつらい病気や障害のある人は世の中にいる』との批判もさんざん耳にしてきました。しかし、つらいものはつらいのです」
「容貌障害も広義の意味では『障害』ととらえることはできると、私は思います。そうした認識が社会に広がれば、見た目への差別や偏見を語ることをタブー視する風潮も変わるのではないかと思っています」
――今、若い当時者の方がメディアに登場し、自らの経験を語っていますね
「社会の偏見をなくためにとても素晴らしいことです。私たちの存在は、まだまだ社会に認知されていません」
「社会に認知されていないということは、少数派でさえないのです。この状態が、差別や偏見を呼ぶのだと思います」
――当事者でなくても、多くの人が自分の見た目に悩んでいます。アドバイスは
「私の経験から言えば、まずは心の壁を取り払って、ニコッと笑って下さい。自分が変われば、周りの反応も変わります」
「そして、勉強でも仕事でも趣味でも何でもいいので、打ち込めるものを見つける。一生懸命やれば、できることも増え、周りも評価してくれます」
「そうすれば、自己肯定感が高まり、コンプレックスの克服につながると思います」
――最後に。コブのある人生とない人生。もし選び直せるならどちらを選びますか
「両親は、『コブはあなたの宝物。自分の顔に誇りをもって生いきなさい』と言い、私を育ててくれました。両親の言葉は、本当だったと思います」
「差別も経験しましたが、コブのおかげで、医療の世界に進み、講演で全国をまわらせてもらっています。コブは、私のチャームポイントであり、トレードマーク。コブからあるからこその私だと思っています」
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