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冗談抜きで速え!鯖江の伝説「快速4兄弟」って何者? 長男は百歳
100歳の長男を筆頭とした「快速4兄弟」と呼ばれる人たちが、眼鏡で有名な福井県鯖江市にいるらしい。福井に来てから、そんなうわさを聞くことがありました。快速って? 調べてみると、4人で計375歳のおじいちゃん兄弟が60メートル走でレースをするとか。しかも走り切るだけでなく、かなり良い勝負をするという…。本当なのでしょうか。半信半疑で、実際に6月にあったレースを見に行ってきました。(朝日新聞福井総局・影山遼)
うわさの4兄弟が現れるのは年1回。鯖江市の河和田地区という漆器の産地で開かれる体育大会に合わせて出てくるそうです。
「快足4兄弟」の長男は大森良一さんといい、御年100歳。次男の栄一さん(97)、四男の白崎栄さん(90)、五男の大森良作さん(88)と続きます。三男はだいぶ昔に亡くなったといいます。仲良し兄弟は、今でも月に1回は集まって、それぞれ好き勝手なことを話すそうです。
4人が走るのは体育大会の昼休み。特別レースという名目で観客全員の注目を集めそうです。早速、四男と五男が会場入りしました。五男・良作さんは唯一の80代だけあって若く、白いジャージーが良く似合います。元陸上選手で、昔は100メートルを11秒台で走ったと豪語します。市無形民俗文化財の「やんしき踊り」の指導もずっと続けており、その体力は計り知れません。
正直、この4人はすごいです。長男・良一さんは社交ダンスを約50年間続けてきて、今でも月に2回ほど教えています。次男・栄一さんはマスターズ陸上の男子砲丸投げの95~99歳クラスで、日本記録を持っています。四男・栄さんは尺八の師範であり、それに加えて15年ほど前からマジックを始めたといいます。走るのは3番目の趣味に過ぎないということです。
記者の1番の「推しメン」は次男・栄一さん。毎日100回の腕立て伏せを欠かさず、レース前の準備運動も念入りです。人生の大先輩に失礼ですが、ちょこまかと動く姿を愛らしく感じてしまいます。
そもそものきっかけは、2年前。それまでも長男・良一さんや次男・栄一さんは体育大会に参加していましたが、大会の副委員長を務める八木実さん(78)が「大会の昼休みを盛り上げたい」との思いから4兄弟全員に依頼したそうです。八木さん自身、マスターズ国際大会の60メートル走で優勝したことがあるといい、それに倣って60メートル走に4人が挑戦することになりました。
八木さんは「正直、この年齢で歩くだけでもしんどいはずなのに、走れるってすごいですよね。ただ、いくら教えてもみなさん自己流のフォームを崩しませんが」と話します。
今回は2年ぶり2回目の4兄弟対決となりました。レースに向けて4月から週に1回ほど、八木さんの指導を受けながら30分程度練習してきたといいます。長男・良一さんが100歳になった記念のレースで、年齢を考えると今回が最後になるらしく、残念です。
さあ、ぼちぼち昼休みです。次男・栄一さんも来ました。けれど、長男・良一さんが来ない!? 弟たちが慌ててガラケーで電話をかけます。それでもつながらないという。大丈夫なのでしょうか…。
開始10分前にようやく到着しました。ネクタイを締めて涼しい顔をしています。さすが1世紀を生きてこられた方、少しのことでは動揺しません。
会場の河和田小学校の校庭に4人がようやくそろいました。少し緊張しているようです。レースの前に、ウォーミングアップがてら校庭を一周して観客と触れ合います。観客からは「頑張れ」「無理せんといて」といった声が。握手をするだけで、大きな声援が飛んできます。ウォーミングアップなのにその走りは速くて、先回りして写真を撮るこちらの体力の方が切れそうです。
2年前の対決では、五男・良作さんが他を寄せ付けずに優勝したといいます。ただ、良作さんは昨年入院したというハンディを負います。さらに、今回は長男・良一さんの100歳記念ということで、走る前に弟たちだけで集まって「兄貴に花を持たせてやろう」と話し合っているのが聞こえてきました。美しい兄弟愛ですね。果たして今回は…。
4人がスタートラインに立ちました。それぞれ自己流のフォームが決まっています。さあ、スタートの合図です。一斉に走り出します。速い、速い。動画を見てもらうと分かりますが、冗談抜きで速いです。横一列に並んで1人も譲らず、あっという間に60メートルを駆け抜けました。
先頭でゴールテープを切ったのは、弟たちの言っていた通り長男・良一さん! …ではなく、次男・栄一さん!? さっきの話し合いはどこに行ってしまったのでしょう。
ただ、走り終えた後の4人の笑顔のステキなこと。ほとんど息も切れておらず、タフさが素晴らしいです。
レース後、長男・良一さんに感想を聞きました。「自分たちをこれだけ応援してくれる人がいる中、4人そろって走れたのは幸せ。1人でも欠けたら寂しいので。2年前も今回も『これが最後』と言ってたが、全員が健康であれば何年でも続けていきたい。いつが本当の最後になるのやら」と笑みを浮かべました。他の3人も次々と「幸せだ」と口にします。走る前とは違って、どうやら最後にはならない模様です。順調に行けば、次は来年の6月。この4人ならまだまだお元気そうなので、またお目にかかれる気がします。