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大人たちが隠れてゲーセンへ…ミャンマーで何が?民主化の思わぬ余波
電源の切れたゲーム機が並ぶゲームセンターが、東南アジアのミャンマーにあります。奥へ進むとあったのは、ビンゴやルーレットに勝つとコインが増える、いわゆる「コインゲーム」。日本でもよく見かけますが、ミャンマーではいま、ゲームセンターの従業員が摘発される騒ぎになっています。
ミャンマー最大の都市、人口約400万人のヤンゴンの下町で、ひときわ目立つ看板を掲げるゲームセンター「ファンタジーワールド」。
1階には、子ども向けの電動カートや動物の乗り物が並んでいました。
エレベーターで2階に進むと、薄暗いフロアに日本でもよく見かける格闘ゲームやスポーツゲームの機器がずらり。
一見どこにでもあるゲームセンターのようですが、よく見ると、多くは電源が入っていません。画面は真っ暗です。
ゲーム機の間をすり抜けて奥へ進むと、広々としたスペースが現れました。30人ほどの男女が何かに熱中しています。
そこに並んでいたのは、5~6人が一緒にプレーできる、大型のビンゴやルーレットなどのコインゲーム。
中には、赤ちゃんをひざに乗せたまま、ビンゴゲームのボタンを連打する女性の姿もあります。
「電源の入っていないゲーム機は、この場所の目隠しになっているんだ」。数百枚のコインをポリ袋に入れ、スロットマシンをプレーする男性がこそっと教えてくれました。
他の客にも話を聴こうとすると、「何かご用でしょうか」とさえぎるように女性従業員が間に入ってきました。
実は最近、こうしたゲームセンターに警察が踏みこみ、従業員を拘束するケースが相次いでいます。
というのもこのコイン、あとで現金に換えることができます。
ミャンマーには賭博を禁じる法律があり、「ゲームのために金銭を提供すること」「利益を得るためにゲームの器具を使うこと」を禁じています。破れば6カ月以上の懲役刑です。
ただ、法律は、イギリスの植民地だった120年も前にできたもの。「ゲーム」が何を指すのか、条文もあいまいです。
地元の議員タンナインウーさん(49)によると、コインゲームは長らく「黙認」されてきました。
ゲームをするだけなら合法。でも、コインを現金に換えたら違法。センター側は、常連客しか換金できないなど独自のルールをつくり、法律をすり抜けてきました。
第二次世界大戦後、長らく続いた軍政時代に、軍とセンターの経営者が癒着し、「賭け事」を見逃していたとの指摘も。
こうしたゲームセンターは現在、ヤンゴンだけで30以上あると言われています。
ところが昨年3月末、アウンサンスーチーさんによる政権が誕生すると、雲行きが変わりました。
ミャンマーの軍事政権は民主化運動を弾圧し、選挙の結果を無視。リーダーだったスーチーさんは、15年間も自宅に軟禁されてきました。
やっと生まれた民主的な政権。スーチーさんたちは、軍の意向次第で厳しくなったりあいまいになったりしていた社会のルールを、目に見える法律をちゃんと守ってもらう社会に変えようとしています。
ただ、その法律が「時代にあっていない」とタンナインウー議員は指摘します。
市民からは、「ルールはわかりやすくなったけれど、少し息苦しい」との声も聞こえます。
ヤンゴンのゲームセンター「アラジン」で働いていたという女子大学生(25)が、匿名を条件に取材に応じてくれました。
大学の学費などのためにアルバイトを捜していたところ、ゲームセンターの従業員募集の広告を見つけ、すぐ応募。
ゲームの説明をするなど、客の手伝いで1日8時間、週に6日働いて給料は1カ月で1万円程度だったといいます。
始めてすぐ、客がコインを現金に換えていることを知りました。客はコインを1枚100チャット(約10円)で買い、換金するときは2~3割の手数料を引かれます。その分が店のもうけです。
毎日のように訪れる客、1日で約20万円を使い切る客。ミャンマー人の平均月収は8000円くらいです。
客の7割は負けて帰っていったといいます。古手の従業員が、ゲーム機をいじって当たりの確率を低くする設定をしていたのも目の当たりにしました。
「法律違反では」と思ったけれど、怖くて周りに聞くこともできない。結局、3カ月で店を辞めたそうです。
彼女は警察に摘発されたゲームセンターの従業員を、「かわいそう」だと言います。
いまの法律は、従業員や客といった「賭博の現場にいた者」だけが対象。その場にいなければ、責任者やオーナーは罪に問われません。
「安い給料でおとなしく働く従業員が罰せられるのはおかしい」。そう力を込めて話していました。